フォークロア・ハイウェイ──⑧




 三下ピエロをナギさんと共に轢き潰し、上機嫌であたしは首都高へと繰り出した。

 いやあ。

 ゴミを掃除すると気分がいいなあ。


「頭おかしい頭おかしい頭おかしい頭おかしい…………」


 ナギさんは未だにそんな言葉をブツブツ呟いていた。

 心外!


「っで、ナギさん! 結局一連の事件の犯人は突き止めたんですよねっ⁉」


「…………………………えぇ、まあ」


 わぁー。レスポンスおっそーい。

 そんなにショック受けなくてよくない?


「…………ふぅ。容疑者、というよりは現行犯でした。確定です。名前は二十歳はたとせ 千歳ちとせ


「ふぅーん。まあ身の上とか動機とかはどうでもいいですね。あたし警察じゃないですし」


「ええ、ええ、そうでしょうとも」


 …………あれ? なんかナギさんの声に棘がないかな?

 …………気のせいだよね! うん!


「質問があります、【駆り手ライダー】」


「ん、何ですか?」


「――使というのは可能なのでしょうか?」


「…………んんー」


 人間が死神グリム使役パシる、か。


ですね…………確かですか?」


「ええ、二十歳はたとせはそれを行っているようでした。少なくとも私の目にはそう見えました」


「へえー。強そうなのでしたか?」


「や、全然。私でも倒せましたし。人面犬みたいな姿でした」


「あぁー、泣き虫犬レインドッグかぁ。ザコ of ザコですね。…………てゆーかナギさん独断専行良くないですよ」


「地球上の誰より貴女には言われたくないです」


 惑星スケールですか。

 ビッグな女になってしまったぜ…………


「――おやや、噂をしたから影が差しましたね」


 匂いがしてきた。

 安っぽい俗物的な、死の匂いが。


「迎撃はあたしやるんで、ナギさん運転よろしくでーす」


「ええ、運転は全て私に任せて下さい。運転は全て私に任せて下さい。運転は全て私に任せて下さい」


「三回も言う⁉」


 一気に信頼度減っちゃってないかなこれ⁉

 ショックぅ!!

 ――何てことを思ってる間に、目前まで死の匂いが迫ってきた。

 あたしは後部座席から立ち上がり、手の中に死鎌デスサイズを顕現させる。

 数瞬後。

 幾匹もの泣き虫犬レインドッグがあたしたちに襲い掛か――


「はい邪魔あああぁぁぁ!!」


 ――それら全てを一振りで薙ぎ払う。

 あーもー鬱陶いなあ。

 寄ってくんなよへなちょこどもがさ。


「圧巻ですね」


「スライムみたいなもんですから、こいつら」


 や、スライムは元々は強キャラだって聞いたことあるけど。


「なんにせよ、この程度なら直ぐに終わ――」


 ガシャン、と背面から音がした。

 そこには。


「――あんたか、口裂け」


 丁度あたし達と並走していた乗用車の上に、いつか見たレインコートを纏った都市伝説女が着地していた。

 口裂け女は、ゆっくりとあたしに訊ねる。


「――私、きーれー……」


「ぽまーどぉ!!!!」


 顔面に飛び蹴りかましてやった。

 メキィ、と粉砕音が鳴る。


「いっギャば!」


 口裂け女は悲鳴をあげてぶっ飛んだ。

 高速で錐揉み回転しながら後方へ落下する。

 もちろんあたしはしっかりと乗用車の上に入れ替わりで着地した。


「いちいち他人に自分が綺麗かなんて訊く時点でジメジメ粘着質クソ女確定でしょーがいっての」


 ふっ。

 これだからモテないやつは。

 お手本の様なサバサバ系女子であるあたしとしてはまったくもって理解に苦しむね。


「馬鹿な事考えてないで前見てください」


「何で馬鹿な事考えてるって断定するの!」


 失礼だなぁまったくもう。

 しかし。


「…………あれが件の、『都市伝説フォークロアの幻影』か。人間が使役するには、確かにらしい類別カテゴリなのかな」


 ふわふわと、あっさりと、顔の無い人々の会話の中で膾炙し拡散されてゆく曖昧な亡霊のごとき存在。

 実に──だ。

 けど、その曖昧さ故に存在強度は微妙っぽかった。

 死鎌デスサイズ持ってなかったしなー。

 あんま強くもなかったし、自我も碌に残ってなかったっぽいし。

 種別的には死神犬いぬに近いのかな?

 何にせよ、あのレベルなら何匹来たって怖かないけど。


「【駆り手ライダー】! だから前!!」


「わかってますって!」


 今あたしが立つ乗用車の前を走る大型トラック――その荷台の上から新たな影が飛来する。


 そいつはあたし目掛けて大上段に死鎌デスサイズを振りかぶっていた。


「――ちっ」


 躱したら足元の乗用車――当然、何も知らない一般人が運転している――が真っ二つだな。

 そう判断したあたしはその一撃を正面から受け止める事にする。

 ――ガィン!!

 衝撃と轟音が鼓膜を揺らす。

 あたしの立つ足元、つまりは乗用車の天井がべコリと凹んだ。


「へえ、今度のは少しはマシみたい――」


 そう口走った次の瞬間。

 鍔迫り合う死鎌デスサイズ同士が、炸裂したかのように感じた。


 バ チ バ チ バ チ バ チ バ チ バ チ バ チ バ チ !


 視界が数多の閃光に包まれ、点滅する。

 ――熱熱熱熱熱熱熱熱痛痛痛痛痛痛痛痛!!!!


「――【駆り手ライダー】!!」


 どこか遠くから、ナギさんの声が聞こえた。

 煤んだ視界の中で、目前の死神グリムが笑ったのがわかる。


「とどめだ」


 相手が再び死鎌デスサイズを振りかぶり――


「――いっっっっったいわあほぉ!!!!」


 二振り目を許すワケも無く、瞬時にあたしは相手にカウンターで延髄斬りをたたッ込んだ。


 ゴキャん。


 と、首がへし折れる音。

 そのままその死神グリムは時速100㎞越えの慣性を残したまま滑落していった。


「ああぁーー! いっっっっった!! あっっっっっつ!! うげぇ! 掌ん皮ズル剥けてるー!」


「いや何でその程度のリアクションで済むんですか」


 いやいや全然『その程度』じゃないですってば…………おーいててて…………漫画だったら骨が透けてたぞ。

 てか。


「今の奴…………【電撃手ショッカー】⁉ また湧いたのかよ今ので三体目なんですけど⁉ まったく同じ【死因デスペア】持ちが何でこうもぽこじゃかと…………!」


 てかあんのヒキニート、まだつけ狙う気かよ! 一先ず勝負ありだっつったろクソ陰キャ!!


「どういう事ですか、【駆り手ライダー】」


 う"。

 言いづらい。が、言わないわけにもいかないか。


「あーーーすみませんナギさん。別件の相手を引き連れトレインしちゃったっぽいです」


 こんちきしょう。

 遊戯ゲームの報酬として確かに情報は色々貰えたが、明らかに±だと-の方がデカいぞ詐欺野郎め!

 今度顔合わせたら顔面ミンチにしてやるかんな【澱みの聖者クランクハイト】ぉ!!

 と、キレてる場合じゃないっぽいな。

 跳躍し、再びナギさんの後部座席に戻る――ワケにもいかなくなったようだ。


「――何体いんのよ、【死因デスペア】持ちがワラワラと」


 後方から雷光を纏う死鎌デスサイズを携えた死神グリム達が各自、車やらバイクやらに乗って迫ってくる。

 一、二、三、四――五体、か。

 多っ。


「ん~~~…………しゃーないか。ナギさん、ちょっと先行してて下さい」


「いいんですか?」


「よくはないんですけどこの状況だと守り切れるとは断言できないんで…………そのハタトセとかいう奴からつかず離れずの距離を保って追跡してて下さい。手は出さずにです」


「…………わかりました」


 ナギさんはそう言ってバイクのスピードを上げ――


だ。捕らえろ」


 それを見た【電撃手達ショッカーズ】の一人が、ナギさんの背を追おうとする。


「させるか電気ウナギども」


 あたしの横をすり抜けようとした一体の乗ったバイクに瞬時に取り付く。


「このっ――」


 と、相手が反撃の電撃を放とうとする相手よりも先に、【轢死れきし】の【死因デスペア】を発動。

 全ての車輪は、あたしの手足も同然だ。

 突っ走っていたバイクの前輪を急停止。だが当然慣性の法則に従い、勢いは止まることはない。

 結果としてバイクは停止した前輪を支点として大きく前方に大回転――乗っていた【電撃手ショッカー】とあたし諸共、車輪の付いた鉄塊は大きく宙を舞い飛ぶ。


「おああああああ!」


「きゃっ、ほおおおおおい!」


 絶叫を上げる【電撃手ショッカー】から空中でハンドルを奪い。

 そして見事にバイクに乗って路面に着地してみせた。

 ハンドルを奪われ、哀れにも転落した【電撃手ショッカー】の上へと。


 ――バがグチャア!!


 と、一瞬血肉が弾け飛んだが、無論直ぐに置き去りにして駆っトバしていく。。


「――ナメ腐ってくれてんじゃん、他所に気ぃ逸らす余裕あると思ってんだ?」


 東京の夜闇の中を疾走する二輪の上に直立し、後方の【電撃手達ショッカーズ】を見下しながらに言い放つ。


「――疾風怒濤に、



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