50.㈲U
「………………うぇっぷ」
病院区画、エントランス。
軽くえずきながらに
一応彼女も負傷者ではあったものの、極めて軽微との事でとっくに帰宅を許可されていたのだ。
「…………さて、帰ろっか。んー──あれ、あそこにいられる美人さんは?」
エントランス中央。
艶やかな濡れ羽色の黒髪を漂わせて佇んでいる少女は──
「…………あ、やっぱり、
「あら──
そこにいたのは
「はぁ、こんにちはー。…………んん? なんでここに? ここって確か【死対局】専用の病院じゃ」
「ええ、はい──その、私は、というより私の家、
「ほぇー。やっぱりお嬢様だったんですねぇ。でも何でわざわざこの宮城支局まで?」
「ええ、ちょっと所要があって宮城に立ち寄ったのですが…………
「あらら、それはそれはご丁寧に。といってもアタシはとっくに退院してるんですがね。
「あら、そうでしたか…………では
「あー、それなんですけどね……………あー、うー、えと、取り敢えず、ですね。労いの言葉は退院して学園でってことで、今は休ませてあげるのが、いいんじゃないかなーと、思わなくもないというかですね…………」
「…………なるほど。そうですね、お話は元気になってからでも遅くはないですね。その分だと深刻な怪我ではないようですし、言う通りにさせてもらいましょう。…………ふふふ、
「ぅワひっ!?」
突如
「はい?」
「はっ。あ、や、その、なんでもないです。ちょっと、その、言葉アレルギーといいますか、免疫のないワードに拒絶反応を起こしたまでですので…………」
「? はぁ…………では、とにかく
「あ、はひ。また、学園でお昼ごはんでも」
「そうですね。また、必ず」
その姿を適当に見送りつつ、
途中で踏みとどまり、首だけで振り返りながら、背後の
「あのー、
「はい、構いませんよ? 何でしょう」
「いや、あの、そういえば──下の名前、一度も訊いてないなー、なんて思いまして。はい」
「…………あぁ、なるほど。そういえば、確かにそうでした。名札だと
華のように可憐に、にっこりと。
しかし。
どこか底知れない暗闇を思わせる笑みを浮かべて。
彼女は、その名を告げた。
「────
▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲
「──というワケで、今回の一件だけを見れば、【
「あぁー、りぃー、まぁー、せぇー、んー。はいはい悪かったわよ雑な指示だけ出して丸投げして。ごめんなさーい」
──場所は変わらず、【
屋上にて、死神女王【
「もう終わったことなんだからそんなに長々と言わなくていいでしょまったく。今回は【
鯉のぼりが泳ぐ澄み渡るような五月の晴天の下。
「ホント、一番上司にしたくないタイプですよねー」
と、呆れ声で言うのは、絹鼠色の髪の少女。
名は、
「
と、他人事のような投げやりな口調で言うのは、浅葱色の髪の少年。
名は、
両者共、
少なくとも、表向きは。
「んー、
「スゴいで済ましてどうするんです?」
「消滅してんだが。貴重な戦力、二体も」
「わぁかってるってばー。ん~~…………
「他人事みたいに言いますね」
「失敬ね
「だったらもうちょい真面目にやれよ」
「こういうのは変に肩に力入れても良くないんだって…………『ゴミの分別に気を配る』、そのレベルの気軽さが結局は丁度いい位なのよ」
んー、と大きく伸びを一つして。
「でも、そうね。適当にアドリブさせとく時期は、もうそろそろ終わりだわ…………【
「もっと早くに腰を上げれば──とは流石に言いませんがね。お嬢様に軽々に動かれるのは確かに困りますし」
「うん、私が直に手を下すのは勿論最終局面に移ってから。けど…………そこに往くまでの御膳立てを本腰入れて始めましょう」
晴れ渡る蒼穹を眩しそうに見上げながら。
「──【
「──と、そんなカッコつけた指令をグループチャットで送ったのが今朝の出来事なワケなんですよ。結果、今に至るんですが」
と、
「………………」
遠い目で
ちなみに、現在の時刻は午後三時過ぎであった。
「
既読10(作戦会議するから全員集合ー!)>
」
「うわー、返信ゼロ。既読は10ついてんのにスルーかよ」
「人望、もとい神望が目に見えて結果に出た感じですね。この有り様じゃカッコ良く作戦会議なんて夢のまた夢です」
「なんで私の言うこと誰も聞いてくれないのおおおおおお!? ボスなのに! リーダーなーのにー!」
大声で
「いやぁ、妥当でしょう。お嬢様ですし」
「まぁ妥当だよなぁ。お嬢だもんな」
「なー! んー! でーー!?」
大空に向かって問いかける
その言葉を知ってか知らずか、頭上でカーカーと烏が鳴いていた。
「ビジネス本でも買えばどうです? 『良い上司になるには』みたいな感じのヤツ。」
「そんなもんで変わるならとっくに変わってるだろ。大人しくクロ爺さんに仲介頼めよ」
「やだーっ! そんな事したら私よりクロ爺の方が人望あるみたいでしょう!」
「厳然たる事実じゃん」
「あーっ! あーあーあーアー! 聞ーこえなーいっ!!」
大声で喚き散らす
それを見て大人しく眺めるままにする
「はー、はーぁ、はーっ、はあ…………」
やがて息をつき、何度か深呼吸を繰り返す
そして。
「こうなったら…………最後の手段っ…………!」
改めてスマフォのチャットアプリを開き、グループ画面に移動。
断腸の想いで、新たなコメントを打ち込んだ。
「
(焼き肉、奢ったげるから)>
<(いくわ)
<(行こうか)
<(それなら行きます)
<(やきにくー!)
<(肉肉肉肉肉肉)
<(神戸牛で)
<(A5!A5!A5!A5!)
<(では予約しておきましょうか)
<(クロ爺さん流石やねー)
<(外出たくないけど肉に罪なし)
<(はげど)
<(じゃ、そゆことでー)
」
「ファーーーーーーーーっ!!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます