第2話 日本の合コンはそこそこに
2週間前ー
「はい、かんぱーい」
「よろしくおねがいしまーす」
都内のスペイン料理の店で、深田は同僚に合コンへと駆りだされていた。
深田の勤務する財閥系列の商社は、世間的にいろいろな意味でよく知られている。
当然、合コンの誘いも多い。
だが、深田も28歳になり、そろそろ合コンにも目新しさを感じなくなってきていた。
最近は、同僚に数合わせで呼ばれるぐらいで、積極的に参加はしていない。
「それでー、深田さんはー、なにをしてるんですかー?」
とは言え、合コンの空気を悪くするつもりはない。
合コンを失敗させることは、同僚とのコネクションを弱くすることだ。
気乗りのしない合コンでも、そつなくこなしてこそ、商社マンというものだ。
料理と酒が置かれた木製のよく磨かれたテーブルを指さす。
「木だよ。木材を買って売ってるの」
「えー、木を切ってるんですか?」
「いや。切った人から買って、売ってるの」
「へー・・・」
合コンのたびに、何百回となく説明を繰り返した結果、深田は適当にやり過ごすことにしていた。
どのみち、相手は深田の仕事に興味が大してあるわけではないのだ。
会話のキャッチボールを通して、相手がこちらの話を聞いて返すだけの頭と気配りができるか、性格的に合いそうか、身に着けているものから趣味や金銭的状況を探ろうとしているか、そんなところだろう。
別にそれが不純だとは思わない。
合コンとは男性陣と女性陣によるチーム・コミュニケーションであるし、そのルールの中には相手の戦力を評価することも当然の手順(セオリー)だからだ。
「あたし知ってる、NHKでやってた。アマゾンの木とか切ってる人から買うんでしょ?」
へえ、と深田は感心して質問してきた相手を見た。
化粧は抑えめで、髪もあまり染めていない。国内の金融機関によくいるタイプだ。
「ああいうところの木は、あまり買わないな。高い上に違法な可能性があるからね」
「じゃあ、どこから買ってるの?」
「今はマレーシアとか、インドネシアかな。近いから安いし、いろいろ経済協定もあるからやりやすい」
「ふーん」
と、途端に相手のテンションが下がるのを感じる。
まあ商社マン夫人になったところで、今は途上国やアフリカに飛ばされて苦労するのがオチだからな。
ヘタすると中東や中央アジアに行くこともあり得る。
一昔前のように、アメリカNYや欧州へ赴任することは少なくなった。
まあ、都会でオシャレにやってたら金は稼げないってことだ。
「それより深田、例の芸を見せてみろよ」
と、多少盛り下がった場をなんとかしろ、という指示が飛んで来る。
「なになに?深田さん、何ができるの?」
「はいはい、じゃあここの取り出したる10円玉ですが」
と、財布から10円玉を取り出す。財布のカードに相手の視線が走るのはいつものことだ。気にしない。
「あー、ひょっとして、プロレスラーみたいに指で握りつぶすの?」
「惜しい!まあ、やるけどね」
そう言うと、10円玉を親指と人差指で、クニュ、と握りつぶしてみせる。
「わーすごーい!」
「えー、どんなしかけー?」
と場に盛り上がりが戻る。
普通の商社マンである深田がどれだけ鍛えても10円玉を指で折り曲げるなんて、不自然ではある。
トリックを疑うのが普通のことだ。
「ところがね、何のトリックもないんだ、これが。じゃあ、この折り曲げた10円を・・・」
「なーにー伸ばすの?」
「それも惜しい!」
答えて、両手の指で10円玉の端を握り、2つにちぎってみせる。
「えー・・・きもい・・・」
女性陣はドン引きである。
「きもいだろー?こいつ、新入社員のかくし芸で電話帳を2冊まとめてちぎって見せてな、それいらい鮫(フカ)って呼ばれてんだ」
「ま、いいじゃねえか。なんでもちぎるよ!」
やけになって答えたものの、その夜の合コンはいまいち盛り上がらなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます