卒業ライブとLovin‘Noise

堀丘田彩夜

第1話 幕は上がる (卒業ライブ@実緒)

私はこの歌が好きだ。先輩の歌うこの歌が。でも、同時に心に寂しさが宿る。一体、先輩は誰を想って、誰のためにこの歌詞を書いたのだろう。悲しいような苦しいような。そんな寂しさが宿るのはきっと私の感情のせいだと思う。

今日は先輩と最後に演奏できる卒業ライブ。私はベース。先輩はギター&ボーカル。ハルはもう一人のギター。葵ちゃんはドラム。私とハルは同学年で、葵ちゃんは一つ下。

私は先輩の顔を見る。いつも通り笑う先輩。もう少しで始まる最後のライブに向けて準備をする先輩は、いつも通り過ぎて逆に心配になってきた。でも、私は緊張してしまっていた。先輩と演奏できる最後のライブだから。最高のライブにしたかった。

すると、見つめすぎてしまったせいか、先輩が私のほうに振り返った。心臓が高鳴る。先輩は私のほうを見てニコリと笑った。そして、言った。

「泣くんじゃねーぞ、後輩。俺の門出を涙で濡らされたら困るからな」

持っていたピックを下に下げる。ジャァーンという音がこだました。そして、先輩はこちらによって来る。ダメだ、もう泣きそうだ。

「分かってますよ、絶対泣きません。先輩こそ泣かないでくださいね」

「泣くわけねーだろ、バーカ」

そう言って先輩は私の髪の毛をクシャクシャしながら笑った。私も先輩に負けないように満面の笑み浮かべる。先輩は安心したような顔つきで、呟いた。

「よし。始めるか、俺のラストライブ」

頭に上にあった大きな掌がギターを奏でようとした。私は今までで最高の返事をしながら幕が上がるのをそっと眺めていた。

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