ハロー・ニューセンチュリー

生井林檎

Prologue

引き金は、いつも僕を化け物へと変えてしまう。

この瞬間の、人さし指は翼よりも軽い。解き放った弾丸は名も知らぬ人間を砕き落とした。いや、彼もまた化け物だったのかもしれない。正直言ってそんなことはどうでもいい。なぜなら、彼が人間でも、熊でも羊でも蝶でもゴキブリでも、殺せてよかったと心が休まることには変わりがないからだ。ふと、後ろに殺気を感じて振り向くと、ひとりのアメリカ兵がこちらに銃を向けていた。


 ―死にたくない!死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない


 僕はそう思った数だけ人さし指を動かした。目を開くと、血の沼の中で多分人間のそれがポイ捨てされた空き缶のように横たわっていた。ライフルの先端で“それ”を突いてみると、想像していたよりも柔らかくてゾッとする。まだ生きているのでは?と恐ろしくなってもう一発撃ち込んでみたが、血が噴き出て僕のズボンを汚しただけだった。

 死んでる、そう分かった瞬間に急に“それ”が人間に見えてくる。いつもそうだ。僕も死ねば人間に戻れるのだろうか。遠くではまだ銃声が聞こえる。僕は耳をふさいでその場で、ただ時が過ぎるのを待っていた。

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