第21話

 10回戦、今回の試し最後の対戦。当日の朝、キールはクーフェンの前で畏まっていた。

「キール、よくぞここまで勝ち残った。もはや小戦奴への昇級は間違いない。ルフト様もお喜びだろう。今日の10回戦も気を緩めることなく戦え」

「はい、クーフェン様。力を尽くします」

そうは言ったもののキールの心中は複雑だった。対戦相手は、ここではフェリスと呼ばれ自らを石館優菜だとする幼女。キールの中でも整理がついていない現状で戦えるものなのかもわからない。それでも今のキールには戦いを拒否することはできない。この後すぐに試しの場で雌雄を決することになる。

『できるだけ手加減をして』

キールは、その考えを途中で諦めた。相手は曲がりなりにも10回戦まで駒を進めた実力者なのだ。手加減をしてどうこうできるものでは無いだろう。

 やがて時間となりキールは呼び出された。

「時間だ。出ろ」

今回ばかりはキールは、いまだ覚悟が決まっていなかった。むしろ、『優菜を傷つけるくらいなら俺が傷ついた方がマシだ』などと思うことさえあるくらいだった。


 キールの心が覚悟を決める前に、その時は来てしまった。円形の闘技場。そこに僅かな距離で向き合う2人。どうするのか方針さえ決まらないキールも戦いを前にして僅かに腕表面の強化の準備をする。

「始め」

無情にも判定員の開始の合図により今回の試し、その最後の戦いが幕を上げた。直後フェリスの両の手から放たれる火の玉。

「無詠唱。しかも発動も弾速も速い」

キールは咄嗟に全身を強化し顔の前で腕をクロスする。直後キールを直撃し巨大なエネルギーの爆発を起こす魔法の火の玉。反動で吹き飛ばされ壁に叩きつけられるキール。

「今までの相手とはまるで魔法のレベルが違う」

言いながら立ち上がるキールに驚いた顔のフェリスが言葉を掛ける。

「まさか、今のでダメージが無いの。あなた何者?」

「俺の名はキール。そして……」

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