①:1話以前(回想)の解説

・悲劇の始まり

 1話の一ヶ月前、時雨と夕立は遠征に向かった際、

 海域に突如発生する原因不明の渦潮(ゲーム内の紫マス)に巻き込まれました。

 ドラム缶しか積んでいなかった彼女達はそれに気づくのが遅れてしまい、

 夕立と時雨はそれに飲まれてしまいます。


 二人はどこかも分からない海域に流されます。

 黒潮(海流)から北太平洋海流に押し出され、陸一つない太平洋の真ん中。

 時雨は艤装を破損するだけで身体にダメージは無かったものの、

 夕立は致命傷で血を多く流しており、手当てしないと危険な状態でした。


 時雨は彼女を励ましながら航行を続けますが、

 海域を彷徨って数日後に亡くなってしまいます。


 それでも時雨は夕立の亡骸を抱えながら母港への帰還を目指しました。

 終わりの無い水平線、いつ深海棲艦が襲ってくるかも分からない、

 水も食料もない状況です。

 既に彼女の精神状態はピークを迎えていました。

 時雨は生き残るために夕立の亡骸を食べることを決意、

 地獄のような航海の後、彼女はようやく母港への帰還を果たします。



・時雨の罪

 提督はその惨劇を知り、痛く悲しみます。

 止むを得ない状況であれ死体を傷つけるのは傷害罪に当たります。

 彼はこの一連の出来事を「夕立は未だ行方不明」とし、隠蔽しました。


・消えない罪

 ここで提督編に登場したナノマシンについて再確認しましょう。

 艤装のナノマシンは艦娘の体内に常駐しており、

 脳のナノマシンは記憶を横取りしています。

 そのナノマシンは血流に乗って脳に運ばれますが、

 宿主が既に死んでいる場合は血中に留まり続けます。


 時雨は夕立を捕食する際、

 気づかないうちに夕立のナノマシンを体内に取り入れていました。

 それは夕立の記憶を持ったもの。

 すなわち、夕立の記憶を持った夕立そのものでした。


 夕立のナノマシンは既に宿主を持ったナノマシン、

 つまり時雨のナノマシンと競合し、エラーを起こします。


 自我と記憶を両立できない彼女は、

 宿主である時雨の想像上の人物として昇華され、

 その際、時雨が最後に見た夕立の姿へと変わってしまいました。


 時雨は生還したのも束の間、恐怖の底へ落とされます。

 自分が助かるために捕食した夕立が恐ろしい姿のまま現れたのです。



・時雨の実験

 時雨は苦悩の後に自身のナノマシンを抜き取り、

 記憶を消去する事を思いつきます。


 自身を解体することも考えましたが、

 原因が分からない上に、

 半年もの間恐ろしい姿の夕立と共にいる必要があります。


 ナノマシンが消える直前までそれが見え続けた場合、

 最悪の場合、夕立が消えない可能性もありました。

 彼女を消し去るのに確実な方法は一つ。

 脳内にあるナノマシンを一気に抜き取るしか無かったのです。


 彼女は自身のナノマシンを摘出することに成功しました。

 が、夕立のナノマシンの存在を知らなかったため、

 彼女の脳には少量の夕立ナノマシンが残ってしまいます。


 結果的に夕立は亡霊として時雨の意識に残りますが、その姿は生前のもので、

 彼女自身が死んだことを時雨の認識からシャットアウトしてしまいます。

 3話で「真実を伝えることを夕立が許してくれなかった」と語ったのは、

 自分の恐ろしい姿を見て苦しむ時雨を知っていたからでしょう。

 夕立は自分が消えるまで、生前の姿で時雨と、

 そして提督と過ごしたかったのです。



・時雨の日記

 時雨は記憶の消去を誰にも悟られてはいけませんでした。

 自分を守るために提督が事実を隠蔽した事がバレれば提督も罪に問われます。

 以前の記憶を保ち、尚且つ夕立の亡霊を消す。

 そのために彼女は日記を書きました。

 その日記には夕立の亡霊も、夕立が死んだことさえ無かったものでした。



 そして記憶を失ったのは、

「提督との思い出を消したくなかったから」と記した上で、

 自身が提督を溺愛していた日記を綴り、その事へ触れないように仕向けます。


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