EとC、たまにLの話

@russia20

プロローグ

 青空を舞う漆黒のドラゴン。

 それに対峙するは、様々な色の兵器達。

 地上では陸軍や警察、消防、消防団、それにボランティアが上を気にしながらも避難誘導をする。


『あっ! 当たりました! 首から大量の血を吹き散らしながら落ちていきます!』


 1時間にわたる戦闘の結末は、水しぶきと共に終わりを迎える事になる。

 それからの後始末は、多くの視線に晒されながら行われ、はっきりとした赤い線がずっと真ん中の辺りを伸びている武庫川の河岸で、西宮を中心に少なくない被害をもたらした『魔物』の解剖が進む。

 一方で、生態的な調査ではなく、普通の人が起こした事件ならば主になるであろう捜査も進められる。


「君が二ツ目順二君、だね」


 そうスーツ姿の男達に聞かれた……というよりは確認されたのは、友達と一緒に生で見て他人事として興奮しながら寮の扉をくぐる前で、うなずくとほとんど問答無用で車の中に連れられる。

 そして、そこでようやく正体を明かされた。


「君達の中では悪名高い特高と呼ばれている者さ」


 拷問も厭わない組織、というイメージだったから、今更ながら車からはっきりと逃げようとしたが、ある言葉に止められた。


「西宮のドラゴン事件の重要参考人の二ツ目順一の関係者として君を保護しにきた」


 と。

 サイレンを鳴らしながらパトカーが大挙して寮にやって来たのは、それから5分ぐらい後だった、と後で寮の管理人の人から聞いたが、その時は何故か重要参考人連れていかれる所だった。

 川に沈んだドラゴンと川底の間に挟まり、陸軍と空軍によってドラゴンに乗っていた者と同一人物と断定された兄。それは、特高の人が見せてくれた拡大写真を見て、両親も認めた。


「どうして……私達を?」


 認めた後、私と母親の前に座る父親が、長クラスっぽい中年の人に聞く。

 対して、修羅場を何度も乗り越えた事があるんだろうなというのが私達でも感じ取れたその人は、優しい笑みを浮かべながら答えてくれた。


「良き部下、でしたから」


 兄が普通の警察官ではなく特高の一員だったと知ったのは、この時が初めてだった。

 どこかは明言しなかったが国家組織の担当だった兄は、ドラゴンが飛び立つ直前の時間にメールで『これから止めてきます』とだけ上司に送って、徒手空拳で背中に飛び乗りなんとか抑えようとしたらしい。そして、そのメールを見て、そして世論の動きを見て、私達の顛末を想像した特高が私達を保護してくれたらしい。


「これから貴方達は夜逃げしたとします。恐らくは指名手配されるでしょうから、戸籍を変えて働いてもらいます」

「……罪にはならないのでしょうか?」

「解決すれば、ですが超法規的措置がありますから」


 そして。

 私達は、特高の上部組織である内務省の道路交通局が指揮監督を勤め人員の指名・任命権を持っている運転免許試験場の職員となり、そこで今まで働いている。

 戸籍を偽造している関係でそう遊びには行けず、他人との触れあいも必要最低限だが、それなりにしっかりとした生活を送る事が出来た。


『特集! 西宮ドラゴン事件に迫る!』

『容疑者家族はどこに? 被害者家族の訴え』


 だが、近年まれにみる大事件という扱いになったからか、時期を問わずに何度も取り上げられ、職場での話題にもなった。

 特高も下手に動けば私達の事を警察に知られるかもしれないという危険性から大きくは動けず、いたずらに時間だけが過ぎていった。


「……最後に……3人で集まれたのが……幸せだったわ」


 そして。

 どこの職場でも慕われていた責任感が人一倍強い母が、特高の関係者の人が経営する病院で安らかに息を引き取った。

 53歳、という早すぎる死を見送り、その遺体が病院から、母の故郷の山に行った帰り、私は父に自分の考えを言う。


「真相を究明したい」


 対して、父は車の中でしばらく目を瞑った後、小さくけれどもはっきりと頷いてくれた。


「そう、ですか。……私達もささやかになりますが協力いたします。…………お願いします」

「はい」


 西鹿児島発京都行き寝台特急『琉球』。

 私は、それに乗って5年ぶりに摂津へ向かう。

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