第3話 街へ
「そういえば、リリアちゃんは何歳なの?」
平原に出るべく森の中を足早に進みながら、俺はふと疑問を口にする。
リリアというこの少女、胸も尻もそれなりに出ていて、人間でいうところの15~16歳くらいの発育はみられるのだが、如何せん言動は幼さを残している。まあそのアンバランスさも可愛いと言えばそうなのだが。
「ん~?4歳だよ?」
割と衝撃的だった。当の本人はそれがどうしたの~、といった感じで相変わらずほえほえしている。
いや、確かにエルフは寿命が短いから、体の成熟は早いと聞くが、精神的な成長具合は人間とはこんなにも異なるとは。
「いや、そうか4歳かぁ……おっぱい大きいね」
しまった、何を言っているんだ俺は。これではまるで俺が幼女趣味のある変態さんみたいではないか。いやまてよ、体はもう成熟しているからセーフか?セーフなのか?
「お、お兄ちゃんはデリカシーがないね」
アウトでした。しかも何、わりと毒あるんですけどこの子。将来が心配だよ全く……。って、将来なんてないのか、あははは。
「ごめんごめん、悪気はなかったんだ。いや……それだけリリアちゃんが魅力的だってことだよ」
何とかうまくごまかせたかと思ったが、お年頃?なエルフの少女はむぅ、と言ってそっぽを向いてしまった。
旅路はおおよそ半ばに差し掛かり、帝国領内最大の湖、レヴェ湖のほとりに着いた。
「少し休んで行かないか?」
俺は手を膝につきながら息を切らし、エルフの少女に頼み込む。
情けない話だがもう体力が持たない。いったいこの子のスタミナはどうなっているのだろうか。
もう20キロも走り続けているのにピンピンしている。
いや、確かに俺の認識が甘かったのは認める。まさかこんな可憐な女の子が、インフィニティー体力の所持者だとは思うまい。
可愛らしい顔で一緒に走ろ?何て言ってこられたら、よしよしってなるじゃないか。
それがもう、速え~のなんのって、俺はこのザマだよ。この有酸素運動の鬼め。
「え?間に合わなくなちゃうよ……」
リリアは切実な表情で俺に訴える。
「ごめんね、お兄ちゃんは人間だから、そんなに走るのは無理なんだ」
そして俺は、力なく湖畔の芝生に寝転がる。
あ~、と呻きをあげて無気力に空を仰いだ。
湖を照らす陽光は燦然ときらめき、湖の美しさを際立てている。俺は心地よいそよ風に涼しさをもらいながら、ウトウトと睡魔に身を委ねかけていた。
ザパン、という音がして、俺の体に水が撥ねた。上体を無理に起こし、何事かと目をやると、退屈に耐えかねたのか、リリアが湖に思い切りダイブしていた。
「きもちいい~」
ザバザバと水を手で掻き回しながら、水との触れ合いを堪能するリリア。
確かに、こんなに澄んだ湖を目の前にして飛び込むなと言う方が間違っているのかもしれない。
気持ちよさそうに湖を遊泳するリリアを見ていると自らも清澄なこの巨大な水たまりに飛び込んでみたくなった。
「オルァァ!!」
ザッパァァン。エルフの少女よりも数倍豪勢な水しぶきをあげて俺を湖に身を任せる。
全身をひんやりとした水が包み、汗が流れていくのを感じる。
「わあああ!なんでお兄ちゃんが入ってきてるのっ!?バカバカぁ」
リリアはバタ足で俺にあらん限りの水をぶつけながら、全力で俺から逃げていく。フォーとかいう奇声を上げて俺は負けじとリリアを追いかけてゆく。
恥ずかしさと怒りが入り混じった表情を浮かべながら、必死に俺の魔の手から逃れようとするリリア。
俺にはその表情がほんの少しだけ、なぜだか嬉しさを孕んでいるように見えた気がした。
紆余曲折の末、ようやくリリアは岸に上がることができた。
「だからさー、あれは俺が悪かったって」
休憩も終え、再び湖沿いに林道を移動しながら、俺は先程から非常にご立腹らしいこのエルフの少女に、ただひたすら平謝りを続けていた。
「ねえ、リリアちゃん、あれは事故なんだって」
きっ、と色白の顔を紅潮させながら、険しい表情でこちらを振り向くとリリアは、
「事故なはずないもん、リリア入ってるの知ってて入ってきてたもん!」 と、大声で俺に可愛らしい怒声を浴びせてきた。
「わかったよ、街についたらリリアちゃんの欲しいもの、何でも買ってあげる」
下衆い方法だが、これ以上追及されては俺の心が持たないので、奥の手を使う。
しかし、あれは何だったのだろう。湖に入った時、俺は偶然見てしまったのだ、リリアのその一糸まとわぬ裸体と……背中に4つほどあった火傷の痕を。それはさながら熱した鉄棒を押し付けられたかのような、痛々しい痕であった。
だが、そんな俺の思案も、「本当?」という嬉しそうなリリアの声で掻き消されてしまう。
「ああ、でも一個だけだからな」
俺は目を輝かせるリリアにそう答えながら、些末な疑問を気にしないように頭の隅へと追いやった。
まあとにかく、男としての窮地は逃れることができたようで一安心だ。
そしてリリアが相変わらず鬼のようなペースで移動を続けるので、その日の夕方にはカラトスの街に着くことができた。
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