第5話:この場所は立ち小便禁止です

 意を決して個室のドアを開けると、お人形さんみたいに華奢な女の人が、ちょこんと便器に座っていました。

 ふんわりふわふわショートボブで色素の薄い髪と、きらっと輝くシルバーフレームのメガネが特徴的です。

 あと、なぜか全裸です。


「あ、えと、私、今日から汚物部に入部しました、飴猫小々奈と言いますっ」

「……ボクは、湯万里ゆまりイバリ。二年生。よろしく」


 起伏なく淡々とそう言って、イバリ先輩は私をじーっと見つめます。


「…………おかわり、いる?」

「えっ、あ、お茶ですか? でも私、まだ飲み終わってなくて」

「……でも、出そうだから」

「え、出そうって、え?」


 戸惑う私を尻目に、イバリ先輩はぷるっと小さく震えて小さな手を差し出します。


「カップ、ちょうだい」

「あ、はい」


 まだたっぷりお茶が入っているカップを手渡すと、先輩はそれをおもむろに自分の股間へかざしました。


「ん……」


 ぷるっ、ぷるっ、と小刻みに震えるイバリ先輩。


 とぽとぽ……とぽ、とぽとぽっ……。


 水の音が狭い個室に響きます。

 そしてしばらくのあと、先輩は「……ふう」と小さく息を漏らして、


「はい、たぁんとお飲み」


 そう言って、にまあーっと笑いながら私にカップを差し出しました。


「あ……ありがとう、ございます……」


 受け取りました。びちゃびちゃです。あふれすぎて、カップの周りがびちゃびちゃに濡れてます。そして、ほんのり甘い香りが鼻先をくすぐります。

 たっぷんたっぷんになったカップを持ったまま、そろーっ……と個室から出ると、部長さんがニカニカ笑顔で私を出迎えてくれました。


「おっ、イバリちゃんにお茶のおかわりもらったんだねー?」

「は、はい、まだ飲んでないのにたっぷりと」


 と、部長さんはふっふっふ……と笑って、私の鼻っ面をビシッと指差し、


「小々奈ちゃん驚くなかれ! 何を隠そう、実はそれはお茶じゃないのだーっ!」

「わっ、わかってますよっ!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る