イジャラベザー

広友孝美

第1話

その国では一年に一度、いにしえより伝わる伝統の戦いが開かれる!

彼らはそれを「イジャラベザー」と呼ぶ!


俺の名はムサシコブシ。今年は順調に勝ち進み、いよいよ「イジャラベザー」の決勝が始まろうとしているのだ。あと30分もすれば俺とヤツの因縁の対決にも決着が着くと思うと武者震いしてしまう。いつもは冷静沈着、頭脳即席の俺が動揺してるんだ。ん?「ズノウソクセキ」ってなんだ。「ズノウメイセキ」だったな。ま、早い話。バカでも優勝できるのがこの「イジャベラザー」の素晴らしい所なのさ。まだ優勝してないけど…


説明しよう!「イジャラベザー」とは遥か昔、人間達の祖先のオツムがまだまだ未発達だった時に、宇宙船からやって来た「イルルミルカ」により伝えられたという一種の戦い方である。

この世界ではなかなか意見が合わない時や、物を配分する時に平等になるよう、イジャラベザーの勝負で決着を付けるのだ!


ガチャ

「コブシ!よくここまで勝ってきた。私は鼻が高いぞ!」チョビひげの禿げた太めの男性が控え室にノックもしないで入ってきた。

「市長!ありがとうございます!」コブシは椅子から飛び上がり驚きながら答えた。

「いや~、まさか私の市から決勝進出者が同時に出るとは前途多難だな~!」

「本当に驚きですよ。まさかあの真理李まで決勝に来るなんて。というより市長、ゼントタナンじゃなくてゼントタボウの間違えじゃないですか?」

「おっ!そうだったかなっ!?」


そうなのだ。同じ市から決勝進出者が出ることなど『前代未聞』なのだ!

まずはこの国技「イジャラベザー」がどういうシステムなのかをみなさんに説明しよう!

この国技は『一年のはじめにその国のどの人間が幸福か』を調べるためにある。優勝者には賞金500万円。そして優勝者の出身した町や市などには1000万円の援助金が支払われる。

なぜ優勝者の出身地にもお金が払われるかというと、優勝した者が出た土地はその一年とても運気がよく、他にもいいモノが続々と出てくると信じられているからである。去年の話では優勝者を出した土地で地質調査を行った所、埋蔵金が出てきたという!


ちなみに準優勝者には100万円、出身地には500万円。

準々決勝者にはそれぞれ50万円、出身地には100万円である。

参加資格は10歳以上で、男であれ女であれそれ以外であれ誰でも参加できる。

ちなみに参加費がお高く2万円もするのはここだけの話。それでも参加者が多いのは腕に覚えがある者だけではなく、夢や希望があれば優勝する可能性が少なからず誰にでもあるからかもしれない。


「思い出すね、都道府県予選。私も参加したから知ってるけど、あのやり方は前途多望だったね」市区町村長はみな都道府県予選にシードで出る資格がある。

「そうですね。まさか都知事が自ら出て来て俺たちと勝負するって言うんですから。あれ絶対自分が出られないからの腹いせですよ」都道府県知事には参加資格はないのである。

「私が相手です!みなさんで一斉にかかって来てください!なんてカッコつけちゃってね」

「でもあれは一対一の時より緊張しましたね。見た目によらずかなり強かったし。ちなみに市長はどこまで耐えたんですか?」

「私は一発KOだったよ。まさかいきなりあの手で来るとは。君は楽勝だったんだろ?」

「いえいえ、俺ももうあの時はがむしゃらでしたよ。でも、この拳で最後まで戦えた!それが今の俺に自身と勇気を与えてくれたんだと思います。ところで市長、真理李のとこにはもう行ったんですか?」

「いや、あの子かわいいけど苦手なんだ。毒がキツ過ぎて」

「確かにヤツは…」


コンコン。

「コブシさん。失礼します」

ガチャ

「そろそろお時間なので、ステージへお願いします」スタッフが出発の時を告げに来た!

「いよいよだねコブシくん頑張ってくれたまえ!」市長はコブシの肩に力強く手を置くと「君には期待してるよ!」とバンバン二回叩いた。

「市長。俺が勝っても負けても市には1500万の金が入るの確定じゃないですか。でもこの気合いありがたくいただいておきますね!」

「いや、あの女は私のことを陰でハゲと言っているからぜひ君に勝って欲しいんだ。宜しく頼むよ」

「そういうことなら任せてください。今年の幸運は俺がこの手で掴んでみせます!あの女は俺のこの拳で一発です!」



ここはスポットライトの当たる武道館の舞台。

「みなさまお待たせしました。ただ今より決勝戦を行います!

北、三鷹市出身ムサシコブシ。南、三鷹市出身小鳥真理李」


「コブシ。あのハゲとさっきまで何話してたの?」

「ふん。マリリンコにあのデブと話してたことを教えるものか!」

「ふ~ん。そっか」


「それでは両者構えて!」行司が叫ぶ!

「イジャラベザー!」


コブシは拳を握り前へ出し、真理李は同時に手を開き前へ出した!

勝負は一瞬でついた!


イジャラベザーとはじゃんけんのことなのでコブシはあっさり負けたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

イジャラベザー 広友孝美 @Song_ad_the_Wain

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ