『悪の』秘密結社の陰謀

葉月秋渡

『悪の』秘密結社

 今から話す事は全て私が調査したことに関する嘘の文書だ。

 くれぐれも慎重に読んでもらいたい。



 さて諸君、唐突だがお茶の木に生る実がころころと丸く、今にも笑い出しそうな可愛らしい姿という事は知っているだろうか。

 実はそれは悪の秘密結社の秘密兵器だ。時が来たら爆発をおこして周囲5kmに種をばらまき、茶畑の範囲を拡大していく。それを未然に防ぐためにある県の県民は茶をがぶがぶと1週間に1人40杯は茶を飲み、茶畑の拡大を防いでいた。

 しかしそのうちそれをほかの県民に見られてしまい、羨ましがった他県への茶の木の輸出が決まってしまった。それを悪の秘密結社は見越してして、今も多くの県で茶畑は多くの爆弾の実をつけて更なる茶畑拡大進行の来たるべき時に備えている


 話を変えよう。

 あまり知られていない上に現代では数も限られているが、ある特定の図書館は一つの生き物として成り立っている。

 その図書館の本は時折、本棚を飛び出して各々の文章を語り出す。

 それに合わせて電灯はご機嫌そうにちきちきと灯りを点滅させる。


 ある日、そのことを知らぬ市民が何事かと思い通報をし、それに警察が駆けつけたがその時には本たちはおりこうさんに本棚に収まっていた。

 しかし既にそのとき、その警察は本が物語を話すことを知っていた。

 なぜならその警察は実は警察ではなく件の悪の秘密結社の一員で、常に図書館の様子を監視カメラで監視していたからだ。全国の図書館を監視し、まだ生きている図書館を探していたのだ。

 その秘密結社の一員はそこで本を数冊借り、そのオーバーともいえよう生きた図書館のハイテクノロジーなDNAを茶畑のDNAに流用し、ついに物語の教養をもつ茶畑を実現させた。


 悪の秘密結社の一同はかくして出来た教養茶によって教養を広く市民に広め、美味しい茶を提供する茶畑を全国に展開させていくことによって世界征服を成し遂げることを企んだのだ。


 そしてその悪の秘密結社の本拠地たる場所こそが静岡県だ。

 前述の悪の秘密結社に対抗すべく1週間に40杯は茶をがぶがぶと飲むという県民は静岡県民のことである。悪の秘密結社は富士の山という霊峰を隠れ蓑にし、様々な美味しい茶製品を生み出し、今現在も茶畑を着々と広げていっている。


 悪の秘密結社の目的は、教養とおいしい茶製品の溢れる世界のみにとどまらない。

 物語の教養を持つ茶畑とはいえ、植物は植物だ。植物は光合成をすることによって生きている。

 察しのいい読者諸君ならばもう当たりはついてきたことであろう。

 そう、彼らは茶畑を拡大させることによって大気中の二酸化炭素量を減らし、地球温暖化をも防ごうというのだ。


 なんて壮大で恐ろしい。


 しかし聡明な読者諸君はこう思うのではないだろうか。

「どこが『悪の』なのだ」と。

 騙されてはいけない、それすらも彼らの渇望せし目的の一つである。


 人間は少なからず言葉のもつエネルギーに影響されることろがある。

「あなたはいい子よ。」と育てられた子供はいい子に、逆に「あなたは魔王の末裔で残虐非道の限りを尽くすのよ。」と育てられた子供は重い厨二病を患うやもしれぬ。

 言霊とはよくいったものだが、言葉に影響されると言った点ではアニミズムの忘れ去られた乾いたような現代でもその力も少なからず残っていると思われる。

 そこで悪の秘密結社は自身に『悪の』と名付けながらも善行の限りを尽くすことで『悪』という定義そのものを覆そうとしているのだ。

 もし本当に『悪』という言葉の意味が善行の限りを尽くすという意味に覆ってしまったら、本来の悪の意を示す言葉はなくなってしまう。

 するとどうなるだろうか、いままで「あなたは悪い子よ」と言われ続けた子は今までとは逆に善行の限りをつくす良い子になり、ちょい悪おやじなんかはちょっと善行をするおやじになってしまう。それでは最早ただのいい人だ。


 なんと恐ろしい事だろう。

 この世界征服がすんだ暁には現在紛争地帯になっており、十分な教育が受けれていない子がいる国でも教養茶が飲まれ、皆が教養を持ち、悪の定義が覆り、悪に影響される悪い子はいなくなり、紛争は忽ちに収まりクリーンで笑顔の溢れる強固な法治国家となってしまうことだろう。


 さあ、敵を知り己を知れば百戦危うからず。

 己を知るには各々に自分探しの旅にでも出てもらうとして、ここでは悪の秘密結社の社員がどのような姿をしているかお教えしよう。


 ここまで壮大にして恐ろしい企みを持つこともあり、若造でないことが殆どだ。

 頭にタオルを巻いていて、顔には優しそうな笑みが皺と共に刻まれているだろう。孫に会えばより一層ふくふくとした良い笑顔を浮かべるのかもしれない。見た目は一般的なおじいさんやおばあさんとも言えよう。

 その優しい手つきでお菓子とお茶を出してくれる事もあろう。

 悩み事など感じさせないような優しげな奴らだったが、最近の結社との攻防の末、そんな奴らにも悩みはあるという事が判明した。


 それが若者の緑茶離れだ。

 生産だけでなく飲茶にも若者は足りていない。


 これは由々しき事態といえよう。

 このままでは全世界茶畑計画が水の泡になってしまう。


 おっと口が滑った、しかしきっと寛大な読者諸君ならば私のことも二言目には許していることであろう。

 そう、何を隠そう私も教養とおいしい茶製品の溢れる世界を渇望する悪の秘密結社の一員である。

 左手には緑茶、右手には緑茶サブレーを持ち、この文書を作成している。

 両手が塞がっているではないかという野暮な野次は生憎受け付けていない。


 話を戻そう、

 今現在我々、悪の秘密結社「緑茶農家」には若者の協力が不可欠である。

 ここで手始めに日本の若者に協力を要請したい。


 我々の活動にそぐわない元来悪至上論者ならば茶畑の進行を防ぐべく、静岡県民のように茶をがぶがぶと消費するがいい。

 だが我々の活動に参加したいと思う若者がいるのならば、静岡県民のように茶をがぶがぶと消費することによって若者の緑茶離れを防いで欲しい。


 さぁ今立ち上がれ日本の若者達よ、今こそ世界の平和と地球の存続は我々悪の秘密結社と若者達に託された。


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