第17話 女騎士は頷かない
「これは北の永久凍土から発掘された一万年前の氷が育てた水晶。この国ができる前からある、とてもスピリチュアルな宝石よ。身に着けると疲労回復、食欲増進、家庭円満、子沢山といい事ずくめ。今ならこれがなんとたったの十万ゴールド」
「くっ、殺せ!」
アレインはそう言って女騎士寮の扉を閉めようとした。
しかし、悪徳セールスおばさんのたくましさよ。
彼女はすかさず扉の隙間に足をねじ込んで、待ったとアレインを引き止めた。
「分かったわ、これじゃないのね。安心して、他にも商品はあるのよ」
なんだかんだで性根の優しいアレイン。
勝手に足をねじこんできた女のことを心配して扉を引く手を止めた。
そして、苦虫を噛み潰したような顔ではあったが、再び女の話を聞き始めた。
はい、と、再び女が鞄の中から取り出したのは、これまた宝石。
水晶とうって代わって、情熱的な赤色をした石がはまった指輪だ。
「これはサラマンダーの琥珀と言ってね。ほら、ここ、触ってみて。暖かいでしょう。琥珀に閉じ込められたサラマンダーが、中で生きている証拠よ。これは持っているだけで懐炉代わりになるの。それだけじゃないわ、木材に向かって、この宝石を通して光をあててやること一時間――なんと木材が燃えるの」
「くっ、殺せ!!」
「分かったわかった分かった、これじゃないわね!! 分かってるの、あなたが欲しいのはこういうものじゃない、任せて!!」
トットでも時々意味を測りかねるアレインの「くっころ」。
その意味するところを的確に汲んで、次の商品を出そうとするおばさん。
流石に、人様にろくでもない商品を売りつけて生計を立てているだけあって、たくましいやらなんというやら。
あるいはクズ同士、通じるところがあるということか。
「これ。これを毎日飲めば貴方もたちまちダイナマイトバディ。食虫アセロラにマンドラゴラ、巨大冬虫夏草にゴブリン肉で育てたウツボカズラのエキスを配合した、当社特性強力青汁!! ささ、どうぞこの試供品を一口!!」
言われるがままにアレイン、瓶詰めのどろり緑色のそれを口元へと運ぶ。
むせ返るような青臭いにおいに、一旦、瓶を顔から遠ざける。だが、どうぞと、にこやかにこちらを見る、おばさんの顔に引っ込みがつかない。
えぇい、ままよ。
思い切って、アレインは、それに口をつけた。
息を止めて、彼女はそれを喉の奥へと流し込む。
どうです、と、感想を求めてきたおばちゃんに――。
女騎士アレイン、苦虫を噛み殺したような顔をして言い放った。
「くぅぅっ!! 殺せぇっ!!」
「もう一杯!?」
「ふざけるな!!」
アレインが容赦なく扉を引く。
休日の女騎士寮に、哀れな悪徳セールスおばさんの叫び声がこだました。
しかしの女騎士、ノリのいい奴である。
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