第15話 女騎士は描けない

「どうして寮に、街のシンボル作成の依頼が来るんだよ!!」


 女騎士寮。

 そのリーダー格の女は、寮の中庭に広げられた真っ白の旗へと叫んだ。


 うららかな春の休日のことである。

 男友達とのデートにはうってつけという天気。

 にも関わらず、女騎士寮に暮らす女騎士達は、どこに出かけるでもなく寮の中庭に集まっていた。


 理由はリーダー格の女騎士が述べたとおり。

 街のシンボル作成の依頼が来たからだ。

 

「なんでも屋だと思われてるんじゃないかしら、私たち」


「王都の見回り、国境周辺の山村への訪問、要人の護衛。色々やってるのにねぇ」


「税金泥棒みたいに思われてたら嫌よね」


「やだー、噂になったらお嫁にいけなさそう」


「そもそも誰がこの仕事貰ってきたの」


 私だ、と、呟いたのは、集団から少し離れたところに立っていた女。

 その面子の中で誰よりもトウの立っている彼女は、どこから入手したのか、赤い色をしたベレー帽をかぶって、彼女達の様子を窺っていた。


 女騎士アレインである。


「懇意にしている店の主人が、街の寄り合いの長をしていてな。私だったら、誰かいい画家をしっているのではないかと頼まれたのだ」


「だったらその画家を紹介してあげればいいじゃない」


「くっ、殺せ!!」


 まるで予定調和のようにその場に膝を折ったアレイン。

 その様子に、リーダー格の女騎士の額が、プチリと音を立てた。


「あてもないのに、なに安請け合いしてんのよアンタは!!」


 分かりきっていたことだというのに、怒声をあげるリーダー。

 すぐにアレインは、ひぃ、と頭を抱えてその場にしゃがみこむ。

 情けない年長者の姿にここで矛先もいつもなら収まるものだが――貴重な休日を潰されたとあっては話が別。


 今にもアレインに殴りかかろうとするリーダー格の女。

 まぁまぁ落ち着いて、と、あわてて他の女騎士たちが彼女をなだめた。


「アレインさんもよかれと思ってやったことなんだし、許してあげなよ」


「別にそんな、命とられるわけじゃないんだし」


「お絵かきくらいやってあげようよ」


「私、お絵かきとか子供のとき以来だわ」


「わかる~」


 意外と協力的な反応を返す女騎士たち。

 古い付き合いのリーダー格の女騎士と違い、一応、彼女たちは年長者のアレインを立てることにしたらしかった。


 休日を潰されたが、別に悪いことをする訳ではない。

 むしろ、やることもなく、普段だったら寝て過ごす休日に、イベントを持ってきてくれたのだ。由としようじゃないか。

 そんな空気が女子たちの間に流れていた。


「ちなみに図案については指示されていてな。裸にひん剥かれて羞恥にもだえる、女騎士という感じに一つ、とのことだ」


 ぴたり、と、止まる女騎士たちの笑い声。

 後輩達の顔つきが変わったのを――アレインは悟った。


 そして、図案についての話を切り出すのは、もう少し慎重にするべきだった。そもそもこれについては、安請け合いするべきではなかったと、後悔した。


「羞恥にもだえる、といったら、アレインさんよね」


「なんでもないことでも悶えてる感じだものね」


「ドン引きするくらい悶えてるものね」


「むしろそういう性癖?」


「やだ、アブノーマル」


 じとりとした女騎士たちの視線。

 それを受けて、アレインがその場を逃げ出そうとする。

 しかし、すかさず戒めを解かれたリーダー格の女が、アレインの肩を掴んだ。


 その手に握られたのは黒々としたインクの詰まった瓶。


「私、芸術家じゃないから、よく分からないんだけれど……」


「……うん」


「女騎士を裸にひん剥いて、人拓を取ればいいってことよね」


「ちょっ、待て、落ち着け。落ち着いて話し合おう、話し合えば」


「あらやだ、アレインさぁん、いつものキメ台詞はどうしたの? それを言わないと、せっかくの人拓なのに価値が下がっちゃうじゃない」


 そう言って、リーダー格の女騎士はアレインに向かってインクの詰まった瓶をぶちまけたのだった。


 流石にプロのくっころ師であるアレイン。

 彼女の人拓は、街のシンボルの旗にはちょっと使えないくらいに生々しく、そして、いつも以上の恥辱に満ちていた。


 毎度のことながら、この女騎士、自業自得である。

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