第8話 女騎士は自供しない

「この中に、宝石『黄昏色のキャンドル』を盗んだ犯人が居る!!」


 デデン!!


 王立美術館の特別展示室。

 そこに集まった面々は、皆、驚いた顔をした。


 展示室の真ん中には赤いクロスが敷かれた台座。

 綿でも入れられているのか、盛り上がったその中央は、ついさっきまで何かが置かれていたという感じにくぼんでいる。


 大きさは手のひら大。

 ちょうど宝石サイズだ。


 誰が、誰が、と、辺りを見回す。


 台座のすぐ傍に立っているのは女騎士アレイン。

 騎士団のメンバーで、この日――というか常時――任務がなかった彼女。

 そんな彼女は騎士団経由で、ここの警備を任されたのだ。


 彼女の前には、犯人はこの中に居ると告げた探偵。

 さらに、そんなと青い顔をする王立美術館の館長。

 そして、部屋の隅で口元を扇子で隠す、宝石の持ち主――ルーチル伯爵夫人。


「いったい誰なんだね!!」


 館長がこらえきれずに声をあげる。

 ふふと探偵はニヒルに微笑むと、その指先をすっと上げた。


「そう犯人は、宝石を付かず離れず見張っていた貴方!! 騎士団から派遣された護衛役の女騎士――のアレイン嬢だ!!」


 デン!! デン!! デン!! デン!!


 アレインに視線が集中する。

 カットイン演出のような顔を女騎士以外の人たちがする中――。


「……ふっ」


 彼女は不敵に笑った。

 そして――膝を折って言った。


「くっ、殺おぅええぇぇえぇえぇ!!」


「おまたせしました、アレインさま!! お薬もってきま――あぁ」


 女騎士の前に咲く七色の虹。

 いきなり吐瀉した女騎士は、口惜しそうに涙と共に顔を歪めた。

 しかし、それは犯行を認めた辛さとは、またちょっと違う感じだ。


「……これはいったい」


 駆け付けた従士に尋ねたのは――彼女を犯人だと指さした探偵。

 すると従士は、いつものように暗い顔をして、彼の問いに答えた。


「実は、アレインさまは、警護任務は初めてで、異様に緊張しておりまして」


「えぇっ!?」


「気負い過ぎたんでしょうね、トイレに行く際に――胃の中に飲み込んだんです」


「なんと!!」


 うわぁ。

 いくらなんでも、ないわ――。


 シリアス一転――コミカルに場が白けた。


「胃の中ならば誰も取れまい、わっはっは、なんて言っていたんですが、出てこなくなりまして。今、医務室の方に頼んで戻し薬を貰ってきたんです――けど」


「おろろろろろろ、おえっ、おっぷ!!」


「どうやら犯人扱いに精神が耐えかねて、吐いてしまわれたみたいですね」


 美術館の床を涙とそれで白く染め上げる。

 女騎士はアレインは自分の身の潔白を示そうとした。


 しかし、悲しいかな、白い液体の中に紅い宝石の影はなかった。


「本当なんだ、信じてくれ。このアレイン、人の物に手をつけるなどという愚かなまねは決して――おろろおろろ!!」


 この女騎士、妙なところで真面目だが、やはりポンコツだった。

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