狂人の星
@tabizo
狂人の星
今より少し未来の話。地球人は多くの人間が居住できる宇宙ステーションを持ち、広大な宇宙を長期間航行して調査できる探査船を開発していた。
ある日、男女の探査隊員と科学者たちを乗せた惑星探査船が宇宙に向けて飛び立った。長くつらい宇宙の旅の末、ついに赤い色をした惑星を発見した。
「隊長、船の調子がおかしいのでどこか故障しているようです。この星に降りて修理をしたいのですがよろしいでしょうか?」
隊員の一人が隊長に許可を求め、船長であり隊長でもある男は許可をした。
探査船は上空で慎重に調査を行ってからゆっくりと着地した。
どうやら酸素はあって、重力も地球並みというデータだったので、船の中に数名を残して、探査に出ることになった。
この星の地上の風景そのものは地球のものとほぼ似ていた。青い空があり、森があり、海もある。しかし、海だけは地球のように青い色はしておらず、真っ赤な色をしていた。念入りに調査をしてみるとこの海の水は有害で、生物はいなかった。
海岸を少し歩くと遠くの方に簡易的な建物のようなものが見えてきた。小さな集落のようだった。近づいてみるとそれは石を積み上げて作られた住居で、入り口らしきところに素晴らしい彫刻がほどこされていた。彫刻は一軒一軒違っていた。表札がわりなのだろうか。それなりの文明はあるようだ。
ただどんな宇宙人が住んでいるかわからないので、探査隊一行は物陰に隠れながら観察をしていた。すると一人の住民が建物から出てきた。続いてもう一人。
しばらくしてみんなぞろぞろと建物から出てきた。それを見ていた探査隊一行は少しホッとした。驚いたことに容姿は地球人そっくりなのだ。容姿が似ていると親しみがわく。でも野蛮な民族かもしれないのでまだ油断はできなかった。
住民たちは集まって何かゴソゴソ相談のようなことを始めた。そして円状に広がり、みんなで指を動かして何かをしだした。隊長が言った。
「我々の侵入に気づき、撃退をするための相談をしているのかも知れない。みんな気をつけるように。」
しかし、この星の住民たちは地球で言うジャンケンをしていたのだった。
なんとなくそれがわかった探査隊一行はひとまず安心した。住民たちは探査隊一行の侵入に気づいているようだったが、気にせずジャンケンのようなものを続けていた。そのうち住民の一人が逃げ出した。他の住民が追う。
「どうやら鬼ごっこをしだしたみたいですね。みんな大人のように見えますが。」
「この星の住民の知能はそのぐらいにしか発達していないのではないでしょうか。見たところたいした武器も持っていないようだし・・。」
「しかし、あの彫刻は見事なものだ。もしかしてこれは我々を油断させるための罠かも知れないぞ。気をつけた方がいい。」
隊員たちは思い思いのことを口にし始めたが、隊長が半ば遮るように言った。
「どちらにしても、もう少し様子をみてみよう。ただし、いつでも逃げられるようにしておいてくれ。」
住民たちの鬼ごっこは続いていた。一人の男を大勢が追い回している。追いかける者はみんな手に槍のようなものを持ってる。
「鬼ごっこというのは一人で大勢のものを追いかけるものはないか。あれはその定義には当てはまらない。」
そのうち科学者の一人が言った。
「この星ではそれが逆なのかも知れない。」
他の科学者が反論した。
隊長も口をはさむ。
「それにしてもなぜ槍のようなものを持って追いかけているんだろうか。見たところ追いかける方も逃げる方も必死で、とても遊んでいるようにみえない。」
追いかけていた者たちが、持っていた槍を逃げる男めがけて投げ始めた。
「危ない!本当に当たってしまうじゃないか。」
隊員の一人が驚いて叫んだ。
投げられた槍が次々に逃げる男の足元にささっていく。外そうとして感じはなく、明らかに狙っているようにみえる。
「何だこれは・・・。何かの儀式なのか。彼らは一体何を考えているんだ。」
探査隊一行も次第に彼らを不気味に思い始める。
そのうちに一本の槍が逃げる男の服をかすめて落ちた。血がにじみ出てきている。
今度は左の太ももあたりにまともに突き刺さり男は悲鳴を上げて倒れた。
人々は倒れた男にむらがった。そして腰に差していたナイフらしきものを取り出してー。解体して食べ始めた。
探査隊一行は思わず目をそむけた。吐き気をもよおす者もいた。
逃げるように探査船に戻った一行は口々に叫んだ。
「何という星だ・・・狂気に満ちた狂人の星だ。」
「早く修理して、こんな星を脱出しましょう。」
しかし、修理のために残って作業していた隊員から驚く言葉が発せられた。
「ダメなんです。もう船は直せませんし、飛び立つこともできません・・・。」
「無線も電波状態が悪く、使えません。」
隊員の説明によるとこうだ。修理のために船の外で作業をしていたらいつの間にか眠ってしまい、気がついたらエンジンが壊されていて、修理部品もどこかに消えていた。しかも作業していた者全員が眠ってしまっていたというのだ。
船に貯蔵していた食料もかなりなくなっていた。
とりあえず残った食料で生活して、いつ来るともわからない救援隊に期待する他なかった。
でも、その生活も長く続かなかった。
この星の狂人たちがそれぞれ手に武器を持って大挙して探査船に押しかけたのだ。
船は比較的丈夫に作られていたが、何日にもわたる狂人たちの石や丸太を使った執拗な攻撃にさらされ破壊される寸前のところまできた。
「だめだ、このままではやられてしまう。」
ついに探査隊は応戦することを決意、もしものためにと船に取り付けられた小型のレーザー砲とめいめいの光線銃で応戦した。すべての武器を使い切り、なんとか狂人たちの殲滅に成功した。
月日が流れ、船の中の食料が尽き、食料を探しに出ることになった。
探査船の着陸した場所は森の近くであったが、鳥はおろかいかなる動物も見かけなかった。森を歩き回っている時に、他の惑星のものらしい壊れた宇宙船を発見した。中には食べれそうなものも、使えそうな機材も残っていなかったが、航海日誌のようなものが残されていた。他の星の探査隊の隊長が残したものらしかった。
宇宙言語翻訳機でスキャンして読んでみる。
“我々はとんでもない星に不時着してしまった。もうすぐ船の食料も尽きる。食料を探しに出かけたが、食料になるような動物は見つけることはできなかった。最初に森に入った時にいた鹿に似た動物は希少種だったみたいだ、何頭か狩ると見かけることはなくなった。木の実だけではいつまでもつかわからない。でも何よりの気がかりはヤツらだ。いつ襲撃してくるかわからないので、夜も眠れない・・・。”
日誌を最後まで読んだ隊長は昔聞いた話を思い出していた。それは不思議な力を持った星があり、探査に出かけた宇宙船が何隻も行方不明になったという話だ。
しばらくして捜索隊の船がこの星にたどり着いた。探査隊の通信が途絶えたことで捜索隊が出されていたのだ。続いて人数と規模を増やした第二次捜索隊、第三次捜索隊がたどり着いた。いずれも航海の途中、故障をしたりしてこの星に不時着したものだった。この星に残されたメンバーでの共同生活が始まった。救援部隊がくるまで延々と待つ生活の中でやることがない隊員たちは、暇つぶしに石を積んで住居を作ったり、石に彫刻を掘ったりした。繰り返すうちに上達して、いつしか素晴らしい出来の彫刻が掘れるようになっていた。
ただ残念なことに地球では多くの捜索隊が戻らないので追加の捜索隊は派遣は打ち切られていた。次第に船の食料が尽きはじめ、激しい飢えが隊員たちを襲った。
極限状態になった科学者のうちの一人が、ナイフを取り出し、近くにいた人を襲ってその肉を食べ始めた。はじめは驚いてみていた隊員たちもその肉を食べ始めた。
これをきっかけに一日三回、ジャンケンで生贄を決め、食べるという狂気の風習が始まった。人々は恐怖におびえながら過ごすことになった。
それからどれぐらいか経ち、地球と文明が酷似したモール星の探査船がこの星に不時着した。隊員たちは赤い海に驚き、住民を見て自分たちに似ていることに気づく。そしてその行動を見て狂人の星だと叫ぶ。大勢の住民に襲撃され、全力で撃退する。そして食料がなくなり・・・。
今、モール星の捜索隊の宇宙船が降りてきたようだ。もちろん、故障している。
-完-
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