月下の「蝶」
ゴールディーは、女を監禁したはずの部屋に目をやった。煙幕に始まり照明を落とされ今となっては、既に扉は開け放たれ、そこから何者かが解き放たれた後だった。
これが狙いだったのか?一人の仲間を逃がす為に、自ら囮になったと言うのか?戦術的にありえない。
ゴールディーは、辺りが静まり返っている事に気が付いた。建屋内の部下の息遣いも、外で「ニンジャ」に応戦する発砲音も無い。
天井に開いた穴から月の光が忍び込む。そこに何時からいたのか?。照らし出された人影をみてゴールディーは思った。
「、、、、」
「ルキノ」と呼ばれた女は、「忍」の言葉とは程遠いほど「雅」な装束を身に纏いコチラをじっと見つめている。
何処か「蝶」のような美しさがあった。
「部下はアンタに皆、殺れちまったようだね。」
ゴールディーは、言葉を投げかけながら相手の呼吸を探る。「ルキノ」と呼ばれた女に答える気配は無い。
容姿は同じでも、感じる気配がまるで違う。いや、今、この女からは気配を全く感じる事が出来ない。
脂汗が出るのは何も痛みからだけではなさそうだ。
「中々いい仲間に恵まれているな、命を捨てて助けに来るとは。」
ルキノの表情を探りながら、頭の中で、相手の動揺を誘えそうな言葉を選ぶ。
「しかし、、、アレだな、、、「人間扱い」されて無いだろう?お前ら。」
今の言葉の、どれが相手に刺さったのかは判らない。が、僅かながら、相手の呼吸を捉える。ゴールディーは時を置かず、それを手繰り寄せる事に勝負を掛けた。
all or nothing !!
強敵だ、素直にそう思った。勝負は一瞬、長引くことは無い。
ステージは終わっていない、今ここに生きて立っているから。
爪も牙も折れてはいない、闘争心も銃に弾も十分残っている。
ゴールディーは、今から殺し合うルキノの瞳を覗きながら、湧いてくる不思議な気持ちを心地よく感じていた。
蝶は古来、人の魂になぞらえるとか、死して人は蝶と成り、蝶は人として蘇る。
「東洋の神秘」馬鹿馬鹿しいと思うが、そんな言葉が今、脳裏を掠めた。眼前の月下の「蝶」は、自らが手をかけた「ニンジャ」の魂が蘇ったものか?だとすれば、風貌が瓜二つなのも納得がいく。
蒼い世界が二人を包む。
ゴールディーはこれまで闘った「、ニンジャ」の動きから相手の行動を予測し、慎重に構える。
ルキノは腹立たしいほどに、自然体だった。ゴールディーは賭けに出る。呼吸を読み、動揺を誘う一言。
「お互い、悲しいな。」
一言放った。
効果の程を確認する間の無いまま、ゴールディーは一発目を撃った。距離近い、邪魔もいない。シューティングレンジでの訓練と変わりない、培ったモノを存分に発揮できる状態だ。
だがゴールディーは、信じられないものを目にした。
人とは思えぬ速度で、ルキノは発砲と同時に左手を翻し、手裏剣を放ってゴールディーが撃った弾の軌道を逸らす。と、踏み込んで飛びだした。
手裏剣は弾け飛んだが、逸れた弾はルキノの頬を掠め血を流させる。
狙いが正確すぎたのが仇に成ったのか?いや、あの動き、スピードは異常だ。 ドーピングでもしているのだろう。日本のニンジャマンガで、そんなモノを読んだ気がした。
ゴールディーは次弾を発射しようして出来なかった。ルキノは踏み込むと同時に右手を翻し二つ目を放っていた。二つ目の手裏剣はゴールディーの銃のバレルを正面から真っ二つに切り裂いたからだ。
ゴールディーはルキノに何かを言いたかったが、伝えることは出来なかった。喉を裂かれて絶命していたからだ。
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