隠忍自重-7

 点々と明かりの灯る深夜の研究施設。鉄とコンクリート製の寒々しい建物の中で、作業のごとく人の命が摘み取られて行く。


 いつの間にか空を厚く覆っていた雲が途切れ始め、変わりに煌めく星々が夜空を埋め尽くしてゆく。中でもひときわ大きな「陽の光を浴びた月」が地上を「蒼い世界」に染めていく。


 今、行われている「人の情」を感じぬ行いは、「満ちた月」の魔力のせいか?


 「賊」は易々と内部へ侵入を果たした。遭遇した警備員や職員を処理し、「対象」へと近づいて行く。完璧を謳われたセキュリティが、異常を告げる事も動作することも無い。


 「常温核融合炉研究チーム」の研究室。抵抗は皆無とは言え、「賊」は警戒しつつ室内へ押し入る。出入り口付近に2人を残し、6人が暗闇の中を事も無く進む。室内や職員の机の上などを、目的の物を求め物色を始める。


 「賊」の一人が手するPDAには、関係者以外、知りうるはずの無い資料や、機材の情報が詳しく表示される。


 程なくして、「賊」は目的の物を見つけ出す。対防弾衝撃加工に特殊な施錠装置が組み込まれ、「予備バッテリー」と書かれビニールパックが表面に取り付けられたケースが3つ。


 情報に寄れば、採取した実験データの紙資料とUSBメモリー、そして融合炉の仮想動作シミュレーションプログラムと、実機制御プログラムが収まった専用携行型ハードウェア。


 ブラインド越しに、月の光が部屋の中に忍び込む。


 「賊」は、PDAの情報通りか確認の為、ケースのタッチパネルに手を伸ばした。 入った6人全て、僅かな瞬間ケースの方に意識が向く。

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