昔話

第7話 七年前、酒匂驤一、自宅

驤慈じょうじ一花いちかが、死んだ」


 涙を流す堂島どうじまさんに呼ばれ、言われたのはそれだった。

 両親が死んだ、という台詞よりも、見知った大人が人目もはばからず泣いている姿の方が、俺にとってはショックだった。

 堂島さんは親父と衛学在学時からの同期で、防衛局に入局してからも、ずっと一緒に居たと言っていた。

 確か、当時は医療技術庁に転勤していたはずだけれど、それでも、頻繁に家に来ては、親父と母さんと話していた覚えがある。

 俺に対して甘い親父と母さんに比べ、堂島さんは少し厳しかった。

 思い返せば、親父に怒られた記憶より、堂島さんに人とは何たるかを長々と説かれた記憶の方が多い。

 だから、そんな堂島さんが大泣きしているから、大きな出来事なんだろうな、と思った。

 堂島さんに泣かないでと言ったら、驤一じょういちは強いな、と返された。

 強いとは何だろうか。

 泣かない事だというなら確かにそうかもしれない。不思議と涙は出なかった。

 ただ、悲しくない訳ではなかった。悲しかったし、つらかった。

 でも、それ以上に、どうでもよかった。

 両親が死んだ事ではなく、皆が悲しんでいる事でもない。

 どうでもよかった。

 大好きだった両親が死んで、どうでもよかった。

 この世の何もかもが、もう、どうでもよかった。

(つづく)

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