十肆日目ー③

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「…お前戻ったんじゃないのか?」


「!」


大きな体を一生懸命ドアに隠しながらも、見つけて欲しいと言わんばかりに中の様子を伺っている好奇心の塊のような視線は、ある程度鈍感なヤツでもわかる程のもので。


本当に子供の様だなと思いながら声をかければ、バツが悪そうな顔をしながらも頭にすっぽりとかぶっているパーカーを深くかぶり直しながら部屋に入ってくる。


「べ、別に気になってるからとかじゃねーし…」


「そうか」


「…むー…」


信じてないだろと視線で投げられて、肩をすくめる。さっきまであれだけ重たくて持て余していた気持ちがウソのように軽くなっていることに、もう1度肩をすくめて首を振れば、相手にじと目で見つめられる。


「…信じてねーだろ?ホントだし。…ホントのホントだし」


「悪かったな、お前に対してじゃねーよ」


(不思議なヤツだったな)


考えれば目の前の男も不思議な奴には変わりがないが、何と言うか不思議の程度がちょっと違う。

アンバランスだと思うのは2人とも共通だが、ここにいる奴らを警戒しながらも、わかろうとしている俺の気持ちがもしかしたら1番不思議なのかもしれない。


(あんだけ…危険とか訳のわかんないものはごめんだと思っていたのにな)


「みたらし?」


しゃべらなくなった俺の顔を覗き込むようにしている瞳は、ぞっとするものを秘めているのに同時に純粋なものにも見える。本当に不思議だ。


「そう言えばさっきこの部屋に綺麗な顔のヤツがいたんだが、お前は名前を知っているか?」


「きれい?」


「ああ、ショートカットの青緑みたいな色の…こんな髪形分けしている……」


身振り手振りをしながら説明を試みると、はっとした顔をしたような気がする。


「見た感じ10代前半の男のガキだと思う…」


さらに詳しく着ている洋服を言おうとするが、その前にすっぱりと断言される。


「そんなヤツここにはいない」


「いない?」


「綺麗な男のガキ?みたらしが言ってるのに当てはまるヤツはいないって言ってるの」


(…まさか)


だったらさっきのわずかに力が入った仕草は何だ?


だけどじっと見てもウソをついているような様子はない。こいつには俺が言う“綺麗で不思議な目をした少年”はまるっきりアテがないらしい。


(となると…)


ちらりと机の上を見る。確かにオセロはある。


(……いや、それで安心出来ねぇな)


確か昔関わったことがあったヤツは物体とかを動かしたり出来たはずだ。


(まさかあいつ…本当に『あっち系』か…?)


俺にとっては死んだヤツも生きているヤツも同じように見えるから(さすがに事故や怪我した状態のままそうなったヤツは区別がつくが)あいつが本当に実在するヤツかどうかは俺だけでは判断しにくい。


(……そんな感じはしなかったけどな)


確かに不思議な感じはしたが、敵意も害意もまるでない。


ただ俺の気持ちを吐き出させてすっきりさせようとする姿勢は、子供みたいな外見からは想像も出来ない位しっかりしたもので、考えれば確かにその手のものだとしてもおかしくはないかもしれない。


だが、今まで見てきたそういうヤツは、生前に残した考えや思考に囚われているケースがほとんどだったから、そう言った意味ではおかしいかもしれない。


(どっちに転んでもおかしいのかよ)


自分の気持ちにつっこみを入れつつ、目の前の男に目を向ける。


今はそれがウソだとか幽霊だとかそうじゃないとかはひとまず置いておく。

すっきりした気持ちを再びぐちゃぐちゃにする必要はないし、急いでどうこうするものでもない。


なにせ、あっちは時間はいくらでもあるが、こっちはそんな悠長なことを言っている場合でもない。


「ドール」


「んー?」


「1つ調べてもらいたいことがある」

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