グリムノーツ〜混沌の国のメアリーアン
永久瀬 颯希
第1章 混沌の国と黒アリス
あるところにひとりの少女がおりました。少女は変わり者ばかりが集う『不思議の国の想区』の住人でしたが、周囲からより変わり者としてひどい仕打ちを受けてきました。皆から虐げられ、少女はひとり悲しみました。そんな少女の唯一、心の支えになっていたのは彼女の主にして親友の時計うさぎでした。
「君はひとりなんかじゃない。ここは不思議の国。みんながみんなおかしくて当然なんだ。」
時計うさぎのその言葉で少女は何度も救われてきました。
ある日のこと。不思議の国にとある少女が迷い込んできました。その少女は少女とまるで鏡を映しだしたかのようにとてもよく似ておりました。少女の名前はアリス。この物語のヒロイン。やがてアリスは自身の『運命の書』に従い、不思議の国へと歩みだしました。
そんな彼女を見て少女は思いました。
何故、彼女はアリスなのだろう。
何故、私はアリスではないのだろう。
私はこんなにも彼女とそっくりなのに。私はこんなにも彼女とは違う。
何故、彼女がアリスなのだろう。
何故、私がアリスではないのだろう。
そして、心の底からこう強く思ったのです。
「私もアリスになりたい。」――――――――――と。
エクス、レイナ、タオ、シェインの一行は深い霧を通り抜け新たなる想区へと足を踏み入れていた。
「ようやくどこかの想区に辿り着いたね。」
エクスは自身の目に映る広大な世界を眺めた。
「今回の霧はやたらと濃かったからな。シェイン、ちゃんとついて来ているよな?」
エクスの隣でうんと腕を伸ばし傍らのシェインに声をかけるタオ。
「タオ兄、シェインを甘く見ないでください。むしろ心配するなら姉御の方なのでは?」
淡々とした口調でシェインがそう言うと、エクスとタオはくるりと後ろを振り返る。そこには、よろよろとやっとの思いで歩いているレイナの姿があった。
「うぅ…。疲れた…。もう歩けない…。お腹空いた…。」
「だ、大丈夫?レイナ。」
あわててエクスはレイナのもとへ駆け寄る。
「姉御、しっかりしてください。霧を抜けて想区に辿り着けましたよ。」
「てか、ここはどこの想区なんだろうな?」
タオは首をかしげて見せた。
「見たところ草花もあってのどかな所みたいだけど…。」
レイナを支えながらエクスは再び景色を見渡す。すると、
「大変だ!大変だ!早くなんとかしなくちゃ大変なのですぅ~!!」
どこからかそんな少女の声が聞こえてきた。エクスたちは辺りをみわたしていると「あ、あれを見てください。」と、シェインがあるものを見つけその方を指さした。見るとそこには大きな懐中時計を括り付けた杖を片手に慌てふためいているうさぎの耳をした少女の姿があった。
「あれって…もしかして時計うさぎ?」
エクスの肩を借りながら時計うさぎを見つめるレイナ。
「てことは、ここは『不思議の国の想区』か。」
「ほうほう。つまり、またこの想区にやって来てしまったというわけですか。」
タオとシェインがそう納得していると、レイナが「いや。」と声をかける。
「あの時計うさぎなんだか様子が変だわ。慌てているのはいつものことだけど、あの子、ハートの女王の裁判に遅刻するとは言ってないわね。」
「時計うさぎは遅刻しそうになって慌てているもんね。でも確かにレイナの言う通りあの時計うさぎは遅刻とは別の事で焦っているようだね。」
「えぇ。大変って…一体何が大変なのかしら?」
するとレイナはエクスから離れ時計うさぎのいる方へ駆けて行った。
「レイナ。大丈夫なの?」
「おぉ。これは驚きです。あんなにダメダメモードだったのにまだ走る気力が残っていたとは。」
「なんだお嬢のやつ、ピンピンしているじゃねーか。」
「レイナにとって『不思議の国の想区』は思い入れのある想区だからね。それできっと放っておけないんだよ。」
「とにかく俺たちも行くぞ。」
エクス、シェイン、タオもレイナを追って走り出した。
時計うさぎは腰を丸めながら、きょろきょろと俊敏に辺りを見渡す。まるで何か恐ろしい猛獣から逃げようとしている小動物のようだ。
「ど…どうしましょう。どうしましょう。と、と、と、とにかく、どこか遠くに逃げて後の事はそこから考えるのですよ、時計うさぎ!」
そう自分に言い聞かせると時計うさぎはその場から全速力で駆け出した。
「待ってちょうだい!時計うさぎ!」
その様子を見てレイナもスピードを上げて追おうとしたが、時計うさぎは身軽に野原やら丘やらを越えてゆきあっという間に姿が見えなくなってしまった。
時計うさぎを見失ったレイナはそこである重大な事実に気がついた。
ぐぅ〜
と、いう腹の音と共に。
「…そ、そういえば私…お腹が空いていたんだった…。」
そしてそのまま体力、空腹の限界により倒れ伏した。
「レイナ!」
あわててエクスが駆け寄る。
「たく、しょうがねーな。」
「一旦一休みと致しますか。時計うさぎさんはそれから探してみるとしましょう。」
「そ、そうね…いい加減何か食べないと…死んじゃう…。」
レイナの顔は別人のようにゲッソリとしていた。
「あら、待ってちょうだい!うさぎさん!」
「あ、この声は…!」
またもやどこからか聞こえてきた声にレイナは再び顔色を変える。エクスたちももしやと声の鳴る方へと振り向いて見る。するとそこには、うさぎ耳のようなカチューシャを被った亜麻色の長い髪の毛をしたおしとやかな少女の姿があった。
「あれは、もしかしてアリス?」
「間違いないだろうな。この想区でうさぎを追いかけるヤツっていったらヒロインのアリスで決まりだろ。」
「ですが、あのアリスさん。シェインたちの知っているアリスさんとちょこっとだけ違いますね。」
シェインの言う通り、エクスたちの知っているアリスとは、青と白のドレス、もしくは赤と白のドレスを着ているのだが、今目の前にいるアリスは黒と白のドレスを身にまとっていた。
「黒アリスさん…といった所でしょうか。」
「どうやらここは『不思議の国の想区』でも前に私たちが訪れたのとは別の想区みたいね。」
「前にあった『赤ずきんの想区』みたいな感じかな。」
エクスはふたりの赤いずきんを被った幼い少女の姿を思い浮かべた。ひとりは杖を持った赤ずきん。もうひとりは鉈を持った赤ずきん。彼女たちは同じ赤ずきんでも別の想区の住人であった。
「漆黒のドレスを着飾ったアリス…。」
レイナは目の前にいるアリスを凝視する。
「あぁ…黒いアリスもなんてかわいいの♡」
そして頬を真っ赤に染めて笑みを浮かべた。
「やっぱり想区は違えどアリスはアリス。私の永遠の憧れ!」
「レ、レイナの目の中に星がいっぱい…。」
「今日の姉御、顔芸半端ないですね。」
「だな。」
そんな4人のやり取りをアリスは知るよしもなくうさぎを追いかけている。
「うさぎさーん。待ってったらー。」
しかし、アリスが追いかけているそれを見てエクスたちは驚愕した。なぜなら彼女がうさぎと言って追いかけていたのは、
『クルルルルァ…。』
「ヴィラン?!」
うなり声を上げながら地を駆けるブギーヴィランだったのだ。
「待ってー。うさぎさーん。」
「アイツの目は節穴か?ヴィランをうさぎと間違えるなんて!」
思わずタオがそう叫んだ。
「ヴィランのあのなんとも言えない触覚をうさぎさんの耳と勘違いしているのでしょうか。」
「いやいや、いくらなんでもうさぎとは程遠いよ。」
「そんなことより!早くあのアリスを助けるわよ!」
レイナのかけ声でエクスたちは急いでアリスのもとへ向かった。そして『導きの栞』を構えコネクトする。眩い光が身体を包み込み、やがてヒーローの魂が一体化した。
砂漠のとある町に暮らす不良息子。なんでも願いが叶う魔法のランプを手にしたことから望みうるあらゆる富、名誉、地位を手に入れるも最後はランプの力に頼らず、自らの意思で望みを叶えようとする強い心の持ち主。
エクスは青いターパンを頭に巻いたアラジンと心が繋がった。
―――エクスじゃないっすか。君が頼むっていうのならその願い、叶えてみせるっすよ。
「うん!頼りにしているよ!」
過去、未来、果ては想像の世界まで行けるという伝説の大魔導士を探し出し、弟子入りする目標を胸に抱いた、時空を超える力を持つ魔法使い。
レイナは大きなとんがり帽子を被った魔女、エイプリルと心が繋がった。
―――あら、あなたどこかで出会ったかしら?
「ちょっと、冗談のつもり?私は…いや、今はそんなことよりもさっさと事を片付けるわよ!」
鉄の鎧を身にまとい巨大な槍と盾を構えたひとりの勇者の姿。それはあくまで彼自身の憧れとする伝説の騎士を夢見た姿。だが、その妄想はただものではない。
タオは妄想の伝説の騎士、ドン・キーホーテと心が繋がった。
―――我が正義の一閃に、倒せぬ悪無し!
「おうおう、その調子で任せたぜ?」
氷の心臓を持ち、火の国の者に触れられれば命を落とすことを知りながらも、火の国の騎士と禁断の恋に落ちた氷の国を治める姫。
シェインはグレシア姫と心が繋がった。
―――出来る限り戦ってみます。
「はい。シェインも出来る限り協力します。」
4人のヒーローたちがブギーヴィランめがけてそれぞれ武器を構える。
―――それー!食らえ!これぞドン・キーホーテ様が下す悪の鉄槌だー!
すかさずドン・キーホーテが槍をヴィランに向けて突き出した。だが、ヴィランはひょいっと身軽に槍の先を避けてみせた。
―――あり?
「おいおい外れてんぞオッサン!」
―――こら!タオ!オッサンではない!ドン・キーホーテ様だ!
―――はっはっは。今の超ウケるっす。
―――おい、アラジン。決してウケを狙ったわけではないぞ!
―――あれ?そうなんすか?
「こらこら2人とも、戦いに集中して。」
ドン・キーホーテとアラジンのやり取りにエクスはポリポリと頬を指でかく。
「全く。男性陣は何をやっているのかしら。」
そんな様子をレイナが呆れた様子で横目で伺う。
「こうなったら私たちでさっさと終わらせるわよ、シェイン。」
「えぇ。やってやりましょう、姉御。」
エイプリルの姿をしたレイナは片手に魔道書を構え、手の平から光を放つ。その光を受け、ヴィランが後ずさる。そこへグレシアの姿をしたシェインが両手杖を大きく振るい、氷の魔法攻撃を放ってみせた。するとヴィランは先程よりも大きく吹っ飛び上がった。
「おっと、俺達も良いところ見せてやろうぜ、坊主。」
「うん!」
そこへタオとエクスはヴィランが吹っ飛び上がった方を先回りし、まずドン・キーホーテの槍でヴィランの背中を突き刺す。
「おぅし!今だ、坊主!」
タオの掛け声とともに、エクスは力を開放した。アラジンが手にした片手剣に光が宿る。
―――命乞い?はっ!それは聞けないっすね!
ヴィランめがけてアラジンの姿をしたエクスは光まとった剣でヴィランを切り裂いた。
やがてヴィランの身体は高く宙に舞ったかと思えば、煙とともに消滅した。
ヴィランを倒したことにより、皆ヒーローとの繋がりを一旦切り、元の姿に戻った。
「ふぃー。たかがヴィラン1匹相手にちょっとばかし熱くなり過ぎたんじゃねーか?」
「いやいや、タオ兄。フルボッコにして気分爽快でしたよ。」
「ちょっ…シェイン。あんたの性格を疑うわよ。」
「ありがとう、アラジン。助かったよ。」
―――このくらいちょろいもんっすよ。あ、報酬はちゃんと弾んでおいて下さいっすよ!
「え、あ、うん。なんとかするよ。」
エクスは困った笑みを浮かべながらアラジンと別れた。
そんなエクスたちの姿をきょとんとした表情浮かべてじっとアリスは静かに見つめていた。
「大丈夫?アリス。あなたケガはしていない?」
レイナはゆっくりアリスの方へ歩みながら尋ねた。それに対してアリスは首を横に振りながら言った。
「いいえ。なんともないわ。…あなたたち何者なの?急に変身して…。」
「まぁ…説明すると長くなるのよね。」
「ふぅん。不思議な人たちね。…あ、そんなことよりも、うさぎさんになんて事してくれたのよ!」
アリスはぷくぅっと頬を膨らませる。
「か、かわいい…!」
「じゃないですよ、姉御。」
「あのヴィランを見てうさぎと勘違いするお前さんに不思議呼ばわりとはな…。」
タオは複雑な表情を浮かべ肩をすくませる。
「あれはヴィランと言って、うさぎではない歴とした化け物だよ。」
エクスがそうアリスに教えてあげる。するとアリスは、
「えぇ。そうよ。」
「え?」
「あれはヴィラン。皆を惑わす魔物、化け物よ。それを知った上でうさぎ役に抜擢したの。」
「ど、どうゆうこと?」
レイナは眉間にシワを寄せる。
「だって。不思議の国の大冒険に欠かせないうさぎ役がどこかへいなくなってしまったんですもの。その代わりとしてあのヴィランを呼び寄せたのよ。…そう!これから私は私の物語を進まなくてはならないの。だから邪魔はしないでちょうだい!」
突然アリスの身から不穏な黒いオーラが漂った。
「お嬢!離れろ!」
危険を察知したタオはすかさずレイナに向かって叫び、それを聞いてレイナはアリスから身を引く。
「不思議な不思議な旅人さん。よくよく見たらあなたたち、見ない顔ね?あなたたちも不思議の国に迷い込んできたというの?ふふふ。でもだーめ。不思議の国の大冒険するのは、アリスって決まっているんだから!」
不敵な笑みを浮かべながらアリスは両手を天に仰ぐ。すると彼女の手の平から黒い禍々しい光の球が生まれ、やがて宙に解き放たれる。すると、その光が徐々に何かを型どる。
『クルルルルァ…!』
いつしかそれはヴィランへと変貌した。
「な、ヴィラン!?」
「黒アリスさんの手からヴィランが出てきましたよ。」
「うふふ。アリスはひとりで十分よ。私の、アリスの邪魔する悪い子は大人しく寝ていなさい!」
アリスが強くエクスたちに指をさすと、生まれたヴィランたちがエクスたちの方を睨みつけ、襲いかかってきた。
「まさか、あなたここの想区のカオステラー、カオス・アリスだっていうの?!」
幼い頃、数多くの物語を読んでその中でもお気に入りだったのが『不思議の国のアリス』。不思議の国の冒険やその奇妙な世界に恐れることなく前へ進んでいくアリスの姿をずっと憧れ続けたレイナ。
大好きな物語。大好きな世界。大好きなアリス。
そんなアリスが想区を脅かす混沌の力を持った、カオステラーに取り憑かれているなんて…。
「レイナ!危ない!」
硬直してその場から動けずにいるレイナに1匹のヴィランが飛びかかろうとしている。
エクスは急いでレイナのもとへ駆ける。
その時であった。
『クルルルルァァァ!!!』
突如後方から光の球が流星のように飛んできて、ヴィランに一撃を食らわせた。目の前のヴィランが吹っ飛び、レイナははっ、と我に返る。
「レイナ、大丈夫?」
「え、えぇ…。今のは一体…?」
光が飛んできた方を見やるとそこにはとある男と女の影が見えた。彼らには後光が射しており、うまく顔が見えない。しかし、ふたり共大きな両手杖を持っているのは確かだった。
「おかしいですね。全体的に真昼間なのに何故あそこだけ後光が射しているのか…。」
シェインの言葉を聞くよしもなく、影の男が杖を構え高々に告げた。
「よぉ!マッドな俺たちよりもマッドなお嬢さん。自分の悪いことには目もくれず、他人の悪行だけを許さないとは如何なるものかな?」
お次に隣の女の影が同じく高々に声を張る。
「アンタみたいなマッド過ぎる女王様の遊びに付き合うよりも、ウチらのティーパーティーの方がずっとずっと楽しいよぉ!」
女の頭に繋がったうさぎのような耳がぴょこんと動いた。
「おいおい、アイツらはまさか…。」
タオの予想は的中していた。
「はっ!」
影のふたりは高く飛び上がり、そのままエクスとレイナの前へ着地した。
「理不尽な虐めは許さない!」
「世の中、楽しく生きたもん勝ち!」
「「我ら、愛と正義のマッドティークラブ!見参!」」
バッチリとポーズを決めて姿を現したのは、マッドハッターと三月うさぎであった。
「あら、帽子屋さんに三月うさぎさん。あなたたちの出番はまだまだよ?アリスの大冒険はさっき幕を開けたばかりだもの。」
アリスはインパクトあり過ぎるハッターたちの演出に驚くこともなく話しかける。
「黙れ、このマッド女王。アンタの繰り返し繰り返し行うごっこ遊びにはいい加減飽き飽きしてるんだよ!」
三月うさぎが吠えた。
「そうさ。今までは君の遊びに付き合ってきたが、その度に度が過ぎる君の行動に些か腹が立ってな。」
三月うさぎとは裏腹にハッターは落ち着いた態度で言葉を紡ぐ。
「やーね。私はただ楽しく不思議の国の物語をまっとうしているだけよ?」
「ほう?多くの人々を犠牲にしてよく言う。」
「それで、今度はこの人たちを犠牲にしようっていうのかい?」
三月うさぎはエクスたちを見やる。
「だって、不思議の国の大冒険をするのはアリスだって決まっているのよ。それはあなたたちもよく分かっているでしょ?そしてアリスはこの私。アリスはひとりで十分。だからこの人たちはお邪魔さんだからさっさと消えてもらわなくっちゃ。」
アリスの周囲にいるブギーヴィランたちが狂気の眼差しをエクスたちに向ける。
「ちっ…やっぱ話は通じないか。」
「どうするよ、ハッター。アイツ、お得意の魔物出して襲ってくるパターンだよ?」
しばらく目をつむり、黙って何かを考えるハッター。そして、カッ!と見開き、
「ひとまず、逃げる!」
そう告げた。
「ラジャー!」
三月うさぎはビシッと敬礼し、そのまま飛び跳ねるように地を駆けた。
「ささ、そこにいる君たちも我らと共に逃げるぞ!」
ハッターもエクスたちにそう声をかけた後 、全速力で逃げ出した。
「あ、ちょっ、まっ!」
あまりの速さに動揺するが、
「ここは俺たちも逃げた方が良さそうだな!」
タオの意見に「ガッテン、しょうちです。」とシェインも頷く。
「そうだね、レイナ僕の手を離さないでね!」
エクスもレイナの手を固く繋ぎ、ハッターたちの方へ走り出した。
「こら!待ちなさい!逃げようたってそうはいかないわよ!」
アリスの声がだんだん遠のいていった。
「もう、これじゃあうさぎを追いかけるじゃなくて悪い子を追いかけることになっちゃうじゃない。…ま、いっか。毎回同じ展開でもつまらないものね。さて…あの人たち一体どこへ行ったのかしら?…マッドティークラブ…うふふ。そうね、アリスはいずれ彼らのティーパーティーに参加するハメになるものね!」
アリスは漆黒のドレスを翻して歩み出す。
「不思議の国の大冒険…いよいよ始まるのね♪」
アリスは無邪気に笑った。
「大変です。大変です。もうこれ以上、あの子を暴走させてはいけないのです…!」
どこか遠くで時計うさぎは慌てた様子で地を駆けていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます