第12話 新しい戦法


「いやぁあのおっさん良いやつだったなー」

「本当にすごいやつなんだぞ?あそこのギルドはかなり気性が荒いやつが多いから、そこを纏めてるのだから相当な力を備えているはずだ」


軽い雑談を交えながら、ハルトは自らの聞きたいことを聞き出す。


「いつもあんな感じで馬鹿にされんのか?」

「...まあ、そうだな。それでも私は譲らないがな。我々のことにあれこれ言われる筋合いは無いのだから」

「流石。強い意思を持ってるな。いずれ一番のギルドにするんだからエリスがそうじゃなきゃ持たないぜ?」

「ふふ、ありがとう。」


そこで少しエリスの顔が曇り


「...そうだな。いずれは魔王にも勝てるようにならなくてはな」

「魔王?この世界って魔王がいるのか!?」

「なんだ?メリナから説明されなかったか?」

「されてねぇ!」

「やれやれ、あのこはまったく...魔王は自分の住みかを決め、そこで挑戦者を待っている。知性のあり戦闘などの能力に長けた者が魔王だな。生まれつき魔王だったり、魔王になったりする。原因はわからん。」

「見分け方は?」

「外見に違いは特に出ないが、体に魔王石と呼ばれるものが生成されるらしい。自分で取り出せるようだが、その原理もわからん。ただこの世界ではそうなっている。魔王は本当に強いぞ。ハルトも魔王だったりしてな!」

「いや、石の存在なんか知らねぇぞ?ほかになんか無いのか?魔王倒したら、とか。なんかメリットを感じない。俺は強いやつとやれると楽しいが」

「そうだな。確か、奴隷になるんじゃ無かったかな?そのための魔王石だった気がするが...すまん!縁が無さすぎて忘れてしまった!」

「別にいいさ。魔王なんて素敵なやつがいることがわかっただけでテンションが上がる!!戦ってみてぇな~!!」


楽しそうに肩を回すハルト。


「...一応聞いておきたいんだが、魔物とモンスターの違いは聞いたか?」

「同じじゃないのか?」

「はぁー。メリナに説明を任せるんじゃ無かったか?魔物は知性があったり、魔法を使ったりする。モンスターから昇華することもあるらしいがどーなんだろうな。つまり、強いモンスターだ。たまに魔力の詰まった結晶を体内に内包しているやつもいる。それは宝石として扱われるから高く売れるぞ!」

「おぉ~!見てみたいな」

「なに、ハルトならすぐ見られるさ」


まだまだ知らないことがたくさんあることにわくわくが止まらないハルト


「この分ではまだ説明していないことがありそうだが、」

「いいよ。もう森に入るし分からないことがあれば聞くさ。それよりグリンモンキーの特徴教えてくれ。」

「あぁ、尻尾が長く、体が緑色の森を自在に移動する生き物だ。結構小柄だが侮って相手すると痛い目に遭うぞ!」

「わかった。あんなんか?」


ハルトが指差す先には確かに緑色の猿がいる。


「あれだ。...随分と見つけるのが早いな」

「五感は良い方だからなっ!!」


と言ってグリンモンキーに向かって駆け出す。まるで本当に風のようだ。前傾で音を立てずよくその速度が出せる。今のギネス記録を遥かに凌駕している。

そしてグリンモンキーのすぐ後ろまで近づき、前方宙返りを決めながらグリンモンキーの頭に踵落としを叩き込む。ドッ!と、地面に強く叩きつけられ、グリンモンキーは声をあげることもなく絶命した。数瞬の出来事である。エリスは驚きで目を剥く。


「...すごいな、まさかこんなに簡単に一匹仕留めてしまうとは思わなかったぞ」

「そいつはどうも。で、こいつは部位とか持ってくのか?」

「あぁ、尻尾を根本から持っていく。解体は任せてくれ。」

「おう、よろしく。こいつは肉食えないのか?」

「食えなくもないが硬いし不味いし食えたものではないな。少し前はそいつを食ってたが。」

「そっか。じゃーもう苦労しないようにしないとな。そんで、こいつ燃やしたりするのか?」

「いや、置いておいたら勝手に他のモンスターとかが持っていくだろう。大丈夫だ。」

「わかった。お、向こうにもう一匹いるぞ?どうする?」


ハルトが指を差す。エリスもグリンモンキーを確認し、


「あいつは私がやろう。見ててくれ!」


と言って駆け出す。ハルトに比べれば遅いがそれでもオリンピックの陸上選手並みに速い。武器と体に装備をしていてその速度だ。かなり速い方だろう。

しかし、グリンモンキーには気付かれ一太刀目はかわされてしまう。追い掛けながら何度も剣を振るが、向こうは森に棲んでいるだけあって木を使ってうまくかわす。何度もかわされてしまい、最後には逃げられてしまった。それでもハルトからは逃げられず、現在2匹目の解体をしている。


「はぁ、はぁ、ふぅ。どうだろうか。全然剣が当たらないんだ」

「まだなんとも言えないが少しわかった気がする。もう少し戦って見せてくれねーか?」

「本当か!?あぁわかった!早く見つけよう!」


と言って解体した尻尾を鞄につめるエリス。


少し奥に行きまた一匹見つける。そしてエリスが駆けていく。先程と同じような光景が展開されるが今回はエリスの突きがグリンモンキーを捕らえ、仕留めることに成功した。


「どうだ?なにか分かったか?」

「あぁ、多分間違いねぇ。ちょっとあとで俺の相手してくれ。今は一匹仕留めてくるっ!」


と言って駆け出していく。このまま狩りを進めていき午後に入ったところで少し休憩を取ることにした。


「それで何がわかったんだ?」


湖の近くで休憩していた二人はサンドイッチを食べ終わり、そしてエリスが口を開く。


「まあ、とりあえずエリス俺と戦おうぜ」

「...お前とか?勝てる気がしないんだが」

「大丈夫だ。俺からは攻撃しない」


それは戦いと言うのか?

疑問に思うエリスだがゆっくり立ち上がったハルトにつられ立ち上がる。


「じゃー良いぞ。」


仲間に剣を振るのは抵抗がある。最初は躊躇したがハルトなら大丈夫だろうと、7割くらいの力で剣を振るう。案の定あっさりと避けられてしまい、また剣を振る。これを繰り返しているうちに振る力が全力になっていく。フルパワーで振り払っているのではなく、当然斬るのに適した全力だ。時々ハルトから踏み込んだり攻撃する素振りを見せる。


(攻撃はしないんじゃ無いのか?まあ、確かに攻撃しているわけでは無いのだが)


「はぁ!!」


力一杯振りおろしたところをハルトは手の甲をぶつけることで止める。ガキィンと音がなりようやく組手のような戦闘が終わる。


「やっぱ、思った通りだ」

「そうか!...そして剣を平然と素手で止めるんだな...」

「まあ、俺だからな。別にどこで受けても大丈夫な訳じゃないからな!」

「ああ、わかっているよ。それでどうなんだ?」

「エリスはさ、戦うとき少し焦り過ぎてるんじゃねーかな?」

「なに?どうゆうことだ?」

「つまり、無闇に仕掛け過ぎてるんだと思うんだ。俺の動きにも対応してたし攻撃にも反応していた。力も速度も申し分無いんだしもう少し落ち着いてみても良いと思うんだよ」

「なるほど、それで焦りすぎている。か」

「あぁ。多分早くあのギルドの状況を脱しようとするから、とかいろいろ要因は考えられるが、戦闘に関してはそう思ったかな」

「つまり私は?」

「守りの方が向いてる。相手の攻撃を防ぎ、相手を焦らせるないしは、隙をつく。その戦法があってるはずだ」

「おおぉ、戦闘に関して始めて人にマトモなことを言われたぞ!」

「だれも言ってくれなかったのか?」

「これでもあのギルドでは一番強かったからな」

「んー?そうか。じゃーもう一回俺とやってみるか。今度は俺が仕掛けるから防いでてくれ。隙があれば返してきてもいいからさ」

「わかった」


そう言い二人は距離を取り構える。


「行くぞ」


ハルトがエリスに向かって駆ける。余りの速さに思わず剣を立て正面に向けてしまうが、


「バカ、ちゃんと見ろ!俺は大丈夫だから剣で弾けって!」


言われて思い出す。そうだ、戦法から変えていくのだ。今までと同じで良いはずがない。ハルトが立てられた剣をエリスごと蹴り飛ばしもう一度距離をとる。


(落ち着け、見えてないわけでは無いんだ。攻撃のことは考えない!)


剣を中段に構え直す。突っ込んでくるハルトを見据え、しかし速すぎる勢いに思わず横にかわす。


「それでいい!まずは攻撃に当たらないことを考えろ!」


今度は拳を振り下ろしてくる。後ろに大きくステップしてかわす。息つく暇もなく繰り出される拳を何度もかわす。


(見える。だいぶ慣れてきた)


次の拳をかわし大きく距離をとる。

そして、突っ込んでくるハルトの拳を思い切り剣の側面で弾く。


(重いっ!素手でこの威力が出せるのか!)


しかし弾ききった。ハルトは驚きの表情で、それでもわかっていたように口角を上げる。


「それだぁ!今の感じを忘れるなよ!」


ハルトの攻撃が激しさを増す。弾こうと試すが、先程を越える重い一撃に逆に弾き飛ばされる。

剣を飛ばされた拍子によろめき尻餅をついてしまう。


「ふう。な?どうだ?」

「...あぁ、いつもより動きやすい。疲れもさっきよりは残らなそうだ。だが、この戦いかたは緊張するな。べつの意味で疲れてしまうよ」

「いや、良い動きしてたぜ。剣を振り回してる時なんかより全然良いぞ!」

「そうだな。ハルトのお陰だ!」

「おう!」

「...ちなみにだが、今のはどのくらいでやっててくれたんだ?」

「ん?あー、途中まで40%くらいだな。」

「あれで4割か。いつか全力を見てみたいもんだ」

「俺も全力出してみてーな」


またグリンモンキーを見つけたハルトはすぐさま駆け寄り仕留めた。


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