第5話 トウチョウ



第五話 『トウチョウ』


ひょんなことからブタ野郎に頼まれた、トーコの浮気調査。

その方法とは、トーコの部屋に盗聴器をつけること。

恒例の鍋パーティーの準備の最中、トーコの部屋を物色する俺の目の前に、ある男の写真を見つけた。


それは・・・

何と、『俺の写真』であった!


おお、やっぱり!

やっぱりトーコは俺のことが好きだったんだ。

そうでもなければ、どうでもいい男の写真なんか持っているハズがない。

今までみんなで遊んだ時に写真を撮ったことは何度かあったが、俺一人だけ映っている写真は撮られた覚えがない。ということは、トーコは俺の写真が欲しくて、こっそりシャッターを切ったに違いない。

これは決定的な証拠だ!

しかしこの写真を持ち出してしまっては、トーコが宝物であるこの写真を紛失したことに間違いなく気付く。

そうなっては、まず疑われるのは俺だ。俺はこの写真を持ち出すのはあきらめて、この写真がトーコの机の中にあったという証拠の為、携帯のカメラで撮影をした。


ブロオオオォ・・・

ヤバイ!

あのブタ野郎、俺にもう少し気を使って、帰るのを遅めてくれればよいものを・・・あの役立たずめ!

誰がこんな苦労してまで、テメェの妄想の浮気相手を調査しなけりゃならねーんだよ!

・・いや、もうすでにトーコはブタ野郎の彼女でも何でもないか。

残念ながら、トーコの心はすでにテメェにあらず、今では毎日、俺の写真を見て思いを募らせているのだ。

夜な夜な、暗くした部屋で電気スタンドを点け、ホゥとため息をついているのだ。

その様は何と健気で可憐で可愛らしいものだろうか。俺はそんなトーコに惚れ直した。

そんな証拠写真が俺の手元にある今、これをあのブタ野郎に叩きつければ、いくらなんでも諦めがつくだろう。

そしてトーコからの熱い告白を受け、俺はそれを当然のようにOKするのだ。

ブタ野郎だって、どこの馬の骨かわからない男より、友達の俺がトーコと付き合うのなら、少しは納得するだろう。

むしろ、トーコが俺を選んだことで、てめぇの肩の荷がおりただろう。

男の価値というのは、どれだけ女を幸せにすることができるかで決まる。

身分不相応なカップルよりも、理想のカタチとして俺とトーコは末永く幸せになるだろう。

だから、ここは俺も心を鬼にして、キッパリ言ってあげることが、ブタ野郎にとって最善の方法なんだと思う。


よし!

あのブタ野郎がここに上がってきたら、まず一番に本当の事を告げてやろう。

みんなの前で彼女を俺に譲り渡すのは酷かもしれないけど、それが一番、後腐れなく爽やかな方法だ。

それにトーコだって、好きな男の前で堂々と告白してみたいだろう。女心とはそういうものだ。


そろそろアパートの階段を上がってくる音がしてくるハズだ。

俺はトーコの健気な顔をすぐに見たくなって、ガマンできずにドアを開けて外へ出た。

下を見るとブタ野郎の下品なワンボックスの車の前で、トーコとブタ野郎がなにやら険しい顔つきで話をしている。

ははぁん、これはアレか。

いわゆる別れ話というヤツか・・・

ああ、無常・・・・

しかし地球上の生命体に雄と雌との異性に分かれている以上、これは避けて通れない道なのだ。

魅力のない男は、魅力ある男の力の前に挫折する。

これは人間という生命に生まれてきた以上、どうしようもない。

哀れではあるが、まぁブタ野郎はブタ野郎らしく、ブタ小屋で餓死でもしてやがれってなもんだ。


俺はブタ野郎の惨めで卑屈に歪んだ顔を拝んでやろうと、階段を下りて下品な車に近づいた。

すると、ブタ野郎は車から降り、俺に近づいて、耳元でこう囁いた。

「・・・この前のトーコの件、あれもういいから・・・俺はしばらくここには来ないから・・じゃ・・・」

そういい残すと、ブタ野郎は下品な車のマフラーから、下品な音をたてて走り去って行った。

ブタ野郎の車が小さくなっていき、下品な音も次第に消えていった。


俺はまさに想像通りの展開に、口元が緩みっぱなしだった。

(やった!これでトーコと俺の前に、ブタ野郎という邪魔者は消えた!後は、トーコが俺に告白するだけだ!)


しかし、ここで俺が喜びの表情を見せては、あまりにも場をわきまえない男になってしまう。

本当はトーコだって、ウザいブタ野郎と別れられ、すぐさま俺の彼女になるべく告白したいのに、それをグッと堪えて眉間にシワを寄せていた。そしてガリガリに顔を向けたが、ガリガリもまた首を振った。

おいおい、だからガリガリ如きじゃ、トーコの気持ちなんかわかるわけねぇっての!

トーコは俺に救いの目を求めたくても、それをあからさまにしないようにしているだけなのだから。

俺もそんなトーコのいじらしさを察して、何事もなかったように自然に振舞った。

「何であいつが帰ったかしらないけどさ、とりあえず部屋にいこうよ!」

超自然体。

俺がバファリンを作ったら、全部が優しさになってしまうだろうほどの優しさを見せてやった。

これが本当の男の優しさなのだ。

過去を掘り返さず、現状にとらわれず。俺は大人の目で行動をした。

トーコもそんな俺の優しさを察してか、その事については何も言わず、部屋に戻るといつものトーコに戻った。


鍋パーティーはいつもより盛り上がらなかったが、俺はトーコとブタ野郎の破局祝いにうかれ、いつもより多くの酒を飲んで上機嫌だった。

その帰り道。

俺は夜空の星を見上げて、その中にトーコそっくりのキラキラと輝く星をみつけた。

俺は隣に歩くトーコに、すぐさまそれを教えてやろうと思った。

が、あえてふたりの間には言葉は不要と察して黙って歩いた。お互いに肩を並べて・・・

・・・・という設定でひとり帰り道を歩きながら、そんなことを妄想していた。

「よし、あの星をトーコ星と呼ぼう」

俺はニコニコとしながら空を仰ぎながら歩いた。

トーコの部屋を出て、まだ20分くらいしか経ってないのに、俺はトーコのことをずっと考えていた。

「今ごろトーコは何してるのかなぁ・・・鍋の後片付けは終わっただろうか。あ、だったら俺が気を利かせて手伝えばよかったなぁ。みんなが帰った後、俺だけこっそりトーコの部屋にもどれば、きっと喜んでくれたに違いない。あぁ、もう少し早く気付けばよかった」

すでに自宅付近に近づいていたので、俺はその作戦を仕方なく諦めた。

「ゴメンね、トーコ」

俺はトーコを喜ばせられなかったことを詫びて、トーコのアパートの方角を向いてペコリと謝った。

そして家に帰って、真っ暗な一階の居間を、見て見ぬフリで二階に上がった。

「ふぅ・・」

年中ひきっぱなしのフトンに上にゴロンと無造作にころがり、俺は天井を見上げた。

いつもはシミの染みた小汚い天井を見て、憂鬱な気分になっていたが、今日はなんだかそのシミさえもトーコの笑顔に見えきて気分が明るくなった。


「そうだ!」

俺は思いだしたようにガバッと飛び起きた。

そしてポケットからミントグリーンの布を出した。それはトーコのパンティーだった。

いつもなら、トーコの部屋を漁った痕跡を残さないよう、絶対にこんなことはしなかったのだが、トーコがブタ野郎と別れ、俺に告白するだけとなった今、俺がトーコのパンティーを持ち出す権利はおおいにあると思ったからだ。


「あぁ、トーコ・・・俺のトーコ!好きだッ!」

俺は全裸になると、トーコのパンティーを左腕に通し、残った反対の部分を強引に引っ張って顔にかけた。

右腕で顔にかかる部分を引っ張ると、トーコの下腹部を覆ったイヤラシイ布が、頬に当たって摩擦する。

その度に俺は悦な気分になり、左腕でモノを扱き出した。

いつもは右手で行うそれも、今回はいつもよりジックリ楽しみたいという理由で、あえて不慣れな左腕をチョイス。

しかしながら、不慣れながらもその感触が幸いし、興奮度はグングンとハイテンションにうなぎのぼり!

顔にかかるトーコの大事な布の部分を、俺はベロベロと舐め、みるみる唾液でベッショリになっていった。

すると俺の唾液で、トーコの大事な部分に密着していた部分から、ほんのりと芳しい香りが漂ってくる気がした。

「これがトーコのマン汁の香りなんだ!」

俺は興奮のあまり、トーコのパンティーを、今にも破けんばかりに引っ張った。

ビリリッ!

ついつい力が入ってしまい、トーコの下腹部を覆っていたイヤラシイ布切れが千切れてしまった。

だが俺は、そんなことおかまいなしに、破れた布切れを右手に持ち、自分のナニを包みながら更なる加速を行った。

「・・・・・ぅぅぅううう・・・ああおッ!!」

ドビッシャァ!

とどまるところを知らない波動の集束液は、想定外の勢いでパンティーを貫いて溢れ、様々な方向へ飛び散った。

ドン・ボルガンのように噴火した俺のマントル層は、ほとばしる溶岩液を縦横無尽駆け巡り、どうしようもないほど被害甚大に拡散した。

とぺぺ・・・とぺたっ!

しかし、その『ブッかける行為』というのがまた、たまらなく興奮するひとつの要因なのだ。

後片付けが面倒くさいが、その快楽との引き換えには止む終えない。

「ふうぅ・・・・」

俺は全裸のまま、ふとんに転がった。

千切れたトーコのパンティーが、俺のモノに絡みついたままビクビクと隆起している。

性なる儀式のもたらした生命の種が、淫猥なる布に染み入ってゆく。

少しばかりうすぼんやりとした、白い視界を眺め、俺は盗聴器のことを思い出した。


すでに俺のものになったも同然のトーコの私生活。

それを俺が覗き見て何がいけないのか?

いや、見るわけではない。聴くのだから。

それに覗きでもなく、これは監視であり愛の証なのだから。


そんな考えが、俺の頭の中を駆け巡ること0.1秒。

即決で決まったネットオークションのように、俺は出品した品物を即座に送るべく、盗聴器のレシーバーを当て、電波を受信するべくダイヤルを捻りながら合わせてゆく。

俺のトーコを思う気持ちが、電波をキャッチし、俺とトーコの愛を確実なものへと変えていく。

ダイヤルを合わせることなど造作もないこと。いや、どうしても俺とトーコに愛の電波は、必然的にお互い干渉し合ってしまうのだ。これはもう定められた条例であり、変えようのない日本国憲法であった。


ジジ、ジ・・・・・ジィ~・・・・


ビンゴだ。

俺の盗聴テクニックと、トーコの愛があれば、こんな受信など繋がって当たり前。

もしかしたら、俺の盗聴を感知したトーコが、恥ずかしながらも俺に全てを覗いて欲しいと思ったのか。

そう思えば全てが納得できる。

少しばかり雑音がひどいが、俺のトーコに対する愛情をMAX付近まで上げてやれば、聞こえないものはない。

いざ。そして行かん。

そして俺の耳に入ったトーコの可愛らしい声からは、想像を絶する言葉が聞こえてきたのだった・・・


「ザ・・ザザ・・・あん、き、気持ちイイよ・・・・ザ、ザザ~・・・・」


あきらかに。あきらかにオナニーであった。

初めての盗聴。その初盗聴でトーコのオナニー現場を聴くことができるとは・・・いやはや感無量だ。

トーコのオナニー。

あの純真無垢で純情可憐なトーコが、あの豊満で淫らな巨乳をもみしだき、そしてあのか細くも美しい指で、まだ未開のオーラルセックスをする口元へと忍ばせ、そしてチュパチュパと指をしゃぶる様が、あの部屋で展開されているのだ。


ああ、なんてことだ!

これは俺の責任なんだ!


だってそうだろ?

ブタ野郎と別れたトーコを、俺がすぐにでも抱いてやらなかったのがいけないのだ。

だから俺との芳醇な愛撫を求めていたトーコは、寂しくてたまらなくなって、俺を想ってオナニーしてしまったのだ。

これは俺の罪だ。

今にして思えば、トーコがブタ野郎と一時でも付き合ったのは、俺に嫉妬して欲しいが為に、ワザとそんな愚かな行為をしてしまったのではないだろうか?そう考えればすべてのツジツマが合う。

女性とは、女というのは、気になる男性を嫉妬させて気を引きたい生き物であるということを俺は忘れていた。

いつでも、いつまでも愛する男性に、こっちを向いていて欲しいと思っているのだ。

だったら今すぐにでも、トーコの部屋に押しかけて行って、トーコを抱いてやらねばならないのだ!

これは俺に課せられた義務だ!

まだ穢れを知らない女の子が、あまりにも俺の想いが強くて膨張した切なさを解消するべく、苦しみに耐えながらの自慰行為をさせてしまった俺の不甲斐なさ。


ああ、バカだ!

俺はバカだ!そして愚か。


今の俺がとらないといけない最前の行動とは?

それを考えるんだ。焦るな、焦るな。

しかし!それをジックリと余裕で考えているヒマはない。

そうこうしているうちに、トーコは誰にも触らせたことのない、潔白のドアーを自ら開け放つことになってしまう。

そうなっては嫁入り前の女性に、そんな行為を覚えさせた俺の責任になってしまう。

あそこだけは・・・あそこだけは守らなくては!死守!

シシュー!

待ってろトーコ!

今行くぞ!


俺はすぐさまズボンをはき、Tシャツを羽織った。

そしてパンツをはき忘れたことに気付き、あわててズボンを脱いでパンツをはき、またズボンをはいた。

あまりにもあわてていたので、頭にかぶったレシーバーのピンジャックが外れて、声がそのまま漏れてしまった。


俺はその瞬間、自分の耳を疑った。


「ザザ、イッていいのよ!お願いイッて!ザザザ・・・」

「うん、イクよ!イクよぉおッううっ!ザザ~・・・・」


それはガリガリの声であった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?

トーコひとりしかいない部屋で、何故ガリガリの声が聞こえるのか?

それに今は、トーコは俺のことを想いながらオナニーに勤しんでいる最中なんだぞ?

これはおかしい。どう考えてもツジツマが合わない。


謎だ・・・

謎だらけだ・・・


突然、脳細胞が思考をシャットアウトし、全ての理を全否定したような感覚が俺を襲う。

赤と黒のマダラ模様が、俺の脳内にはびこって来た。

「うげッ!」

こめかみからキナ臭い匂いがし、血管が激しく膨張した後に、俺の胃からすべての吐しゃ物が放出された。

「うごげ!うぼべぇ~~!」

ビシャビシャ。ビシャ!シャシャァ~!

その吐しゃ物は、俺の口だけではなく、鼻からも勢いよく噴射した。

2時間ほど前に、トーコの家で食べた鍋の具材が、まだ消化されないまま、ドロドロの状態で畳の上にビチャビチャとこぼれ落ちていった。

俺は涙を流しながら、その吐しゃ物の噴射に耐えた。

そして目の前に溜まった、大量の胃液と消化物の匂いを嗅いで、また吐いた。


「二橋クンてさぁ、何か変わっているよね。私達が付き合っているのも知らずによく遊びに来るし」

「あぁ、あいつはバカだからな」

「それに準備係とかいって、私の部屋を物色してそう。この前なんかヘンな液が鏡についてたんだよ」

「マジ?そりゃ変態だなぁ。いいよ、今度からあいつが来ても部屋に上げないようにしようぜ」

「そうね。それに下着とかも盗まれそうだしね。なんか気持ち悪いね」


それからの俺は、自分でもどう行動したのかは全然記憶にない。

最後に憶えているのは、盗聴器から聞こえてきたこの言葉だった。


「キモチワルイネ」

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