第4話 ブタヤロウ
第四話 『ブタヤロウ』
俺がトーコのアパートへ出入りするようになって、2ヶ月ほど経った。
出入りすると言っても、トーコの彼氏になった訳ではないが。
それでも射精した回数は、通算で21回にもなっていた。
おそらく誰よりも、俺の射精回数はダントツで一位のハズだと思う。
俺を含めた4人の男、それに女がトーコひとり。このメンツで遊ぶことが多くなっていった。
みんなが集まり易いという理由で、トーコのアパートがみんなの溜まり場になった。
一人暮らしということで、トーコも寂しかったのか、快く部屋を提供してくれた。
鍋パーティーからただの雑談会まで、幅広い催し場となった。
ところがだ。そんな環境に、ひとつの変化が起きていることに、俺は気付いた。
それは、トーコの彼氏だとホザいていたブタ野郎の元気が、最近ないことだった。
俺はナマイキなブタ野郎が静かになってせいせいしていたが、どうやら何か悩みを抱えているようだった。
その悩みを聞いて、俺はギョッとして驚いた。
なぜこのブタ野郎の悩みを俺が聞いたのかというと、ヤツから俺と二人で飲みに行こうと言い出したからだ。
最初は、何でこんなイヤなブタ野郎と飲みにいかなければならないのか?とも思ったが、元気のない口調で寂しげに誘ってきたヤツの惨めな表情に、俺はなんだかワクワクしてきたので、一緒に飲みにいくことにした。
例のケンカ以来、俺とブタ野郎は仲が良くなかった。しかし特別、仲が良かったというほどでもなく、俺はもうこのブタ野郎のことでいちいち腹を立てるのがバカらしいと思っていたので、余計な口を挟むのをやめただけのことだ。
そんな仲が良くもなく悪くもないブタ野郎が、何故、俺を誘ったのか?
それは居酒屋をハシゴして2件目に行った時に明かされた。
ブタ野郎はたいして酒が強くもないのに、ムリして安い焼酎をガバガバと流し込んでいた。
そして目はうつろで、ロレツもあいまいになり、目の前の枝豆の豆を、ぷにっ!とカウンターの隣の席まで飛ばしてしまったりした。あきらかに泥酔しているこのブタ野郎は、誰がどこから見ても恥ずかしくないような、立派なブタ野郎だった。
俺はこのブタ野郎が、どんどん自分の理性を失って、惨めに堕落してく様を見ていて楽しくてしょうがなかった。
だから、どんどん焼酎を作ってやり、ガンガン飲ませてやった。
すると、なんとこのブタ野郎は!
待望の、もっと惨めな醜態をさらしやがったのだった!
「二橋~、オマエっていいヤツだよなぁ!俺は誤解していたよ~」
本当はもっとロレツがまわらなくなってメチャクチャな喋り方だったが、直訳するとこうだった。
「なに言ってんだよ、高校からの付き合いだろ。それよりも悩みって何だよ?」
俺はこのブタ野郎の悩みを、早く聞きたくて聞きたくてウズウズしていた。
今俺の目の前にいるのは、誰かに悩みを聞いてもらいたくて、安酒で強引に自分を酔わせた、惨めな人間の末路であった。このどうしようもないダメ人間は、以前俺に食ってかかってきたクセに、今ではちっぽけな悩みを抱えて、それを誰かに聞いて助言して欲しくて、居た堪れないのだ。
こんなクズの人間が、豚殺場で怯えたブタのように震えて懇願していることが、たまらなく嬉しくてゾクゾクしていた。
「悩みがあるんだろ?いいから言ってみろって!」
俺は自分の視線を、ブタ野郎の濁った目に刺さるように、キッと直視して言った。
「あ、あのさぁ・・・や、やっぱ言いづらいなぁ・・・」
このブタ野郎!
ここにまで来て何をまごまごとしていやがるんだ!?
俺は少しイラッとしたので、「言えないんだったら俺は帰るぜ?」、と言ってやった。
「ま、待ってくれよ!言うからさぁ・・・でも俺が言ったこと誰にも言わないでくれよ?」
ニヤリ。主導権は完全に俺が握っている。
「当然じゃんか。そんなこと心配せずに言ってくれよ!俺の口はダイヤモンドよりも硬いぜ?」
バカが!
このブタ野郎は、こんな陳腐な約束で、俺が誰にも言わないとでも思っているのか?
まったくもってお笑いだ。安直に人を信じる愚かさを身を持って教えてやるよ!くけけけっ!
「じゃぁ言うぜ・・・・」
「うんうん」
このブタ野郎。はじめっからもったいぶらずに話せばいいんだよ。クズが。
「実はさぁ、俺の彼女、いるじゃん?」
「あぁ、トーコね」
俺はそれを聞いただけでピーンときた。
わかったぞ!このブタ野郎の悩みはトーコだ。それもフラれつつあるということを直感した。ざまぁみろ!
当然だ!キサマのようなブタ野郎に、トーコが今まで付き合っていたこと事態、奇跡なのだ!
だからキサマは飽きられて、コンビニおにぎりの包装フィルムのように、ゴミ箱へと捨てられていくのが当然だ!
ぎゃはは。笑いが止まらねー!
やばいっ、今こいつの顔を見ただけで大笑いしてしまいそうだぜ。
俺はブタ野郎の顔を見ないように、下を向いてグッと笑いを堪えて話を続けさせた。
「で、トーコがどうしたの?」
「・・・・・う、うん・・・」
このブタ野郎は、この期に及んでまでも、そんなウジウジとした態度をとりやがるのか。そんなことだからトーコに捨てられるのも当然で、もはやキサマの未来は、ウジとハエしか集らない腐った死体のような惨めな末路なのだよ、ブタ野郎ッ!
「トーコのことで悩んでいるのか・・ひょっとして、最近ヤバイとか?」
俺はブタ野郎が話し易そうになるよう、ちょっとツッコんだ会話をした。
「・・・そうなんだよ、トーコとの仲が最近ヤバくてさ・・・・」
蚊がむせび鳴くようなか細い声で、そのブタは俺に悩みを打ち明けはじめた。
最初はそれを聞いて、ただ『ざまあみろ!けけっ!』っと思っていたが、どうやらその話は、俺にとっても気分の悪い流れに変わってきた。
そのブタ野郎の話はこうだった。
最近、なんだかトーコの態度が冷たいそうだ。
それで、今までは車で遠方へドライブするなどデートをしていたのが、最近では、二人で会うことすら拒まれるようになってきたらしい。心配になったブタ野郎は、トーコをこっそり監視することにした。するとどうやらブタ野郎とは別の男と会っているようなのだ。
このブタ野郎がトーコにフラれるのは至極当然な話。
そして心寂しげなトーコは、次なる恋人を欲しくなり、身近な男性を恋愛対象に求めるハズ。
それはたぶん俺だ。そう決まっているのだ。
学生時代、お互いに心を通わせ、愛を確信した唯一無二の存在。
それなのに。トーコはこのブタ野郎を捨て、俺以外の誰かと会っているらしい。
それは許せない。
いまから付き合おうとしている俺に対し、その行為は百歩譲っても失礼千万な行為なのだ。
トーコ許すまじ!
俺はブタ野郎から、こっそりトーコが誰と会っているのか調べて欲しいと依頼された。
このバカなブタ野郎は、これから自分の彼女と付き合う男に、自分の浮気相手を探して欲しいとしている。
ぶははっ!本末転倒。こんな滑稽な話があるだろうか?
いや、だが俺も笑っている場合ではない。
自分の彼女が正しい道を外れないように先導してやるのが、彼氏の役目であり使命なのだから。
トーコが他の男と会っているなどとは、このブタ野郎の被害妄想に違いないが、男としてその使命を怠ったこのブタ野郎は、見捨てられて当然の結果なのだ。
ブタ野郎はブタ小屋でブーブー泣いているのがお似合いなんだよッ!
「いいよ、俺が一肌脱いで、トーコが誰と浮気しているか調べてやるよ」
「ほッ、本当かッ!じつは俺、最近それが気になって気になって・・・悩みすぎて体重が5キロも減っちゃったんだよ」
知るか!このブタ!
テメェみたいなブタ野郎が5キロ体重が減ろうが、ちっとも体型変わんねーよ!
「大変だったな・・・ひとりで悩まずにすぐに俺に相談してくれればよかったのにさ」
「うおお・・・おまえってイイ奴だなぁ!この前はケンカしてゴメンよぉ・・・お、お、お・・・・・・・!」
ブタ野郎は目から涙をボロボロ流して泣き始めた。
酒に酔って感情が高ぶっているのはわかるが、何も大の男が居酒屋で泣きやがって。全く恥ずかしい。
まぁいい。オメェみたいあなブタ野郎は、無残に泣き崩れ、大衆の面前で晒され、同情と哀れみの目で埋め尽くされるのがお似合いなのだから。
「うおおおぉん!おんおん!」
いいかげん泣き止まれ、このブタ野郎!
さて。
そんなこんなで、彼氏公認の浮気調査を行うべく、俺はその方法をブタ野郎に考案した。
その案は『トウチョウキ』。
かくして俺は、いつもの鍋パーティーの準備係りを行いながら、電気コンセントの中に極小の盗聴器を取り付けた。
そして、いつもと同じように、トーコの部屋を物色し、下着を着衣し、便器を舐め、そして射精した。
そこに、通算28回目の射精を終えた俺の目の前に、見覚えのある男の写真が机の奥から発見された。
その男とは・・・・
何と。
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