ラノベの主人公になりたい。

うすたく

どうしてラノベの主人公はラッキースケベが多いの?

「・・・。ラノベの主人公になりたい。」


 男は突然そう口走る。


「はぁ、いきなり何言ってんの?お兄ちゃん。ついに現実リアルと理想の区別がつかなくなった?」


 男の妹は呆れながらそう言う。


「だいたいよぉ、どうしてラノベの主人公には可愛い妹がいるんだよ!お約束か?あぁっ!?」


 男は突然そう言い出した。


「それに比べて俺はなんだ!こんな欲張りでワガママでゲームも貸してくれない可愛げの欠片もないクズしかいない。」


「ねぇ、今なんて言った?」


 兄の発言に怒ったのか、妹は兄に近寄る。


「しかもこんな風にすぐ怒るし。ラノベの妹はお兄ちゃんに一方的な好意を向けているのに、今俺に向けられてるのは好意どころか殺意だわ!」


「はぁ、呆れた。そんなブラコン妹なんて、現実にそうそういるはずないでしょ?バカなの?死ぬの?」


 どストレートに妹はそう言う。


「妹よ、ツンツンするのは悪くないが、その後のデレがないと男は惹かれないぞ?」


「その前に私が引いたわ。好意を向ける、ねぇ。」


 妹は兄の読んでいたラノベを取り上げ、一通り目を通す。


「こんな美少女、現実にいるはずないね。それに、こんなのが現実にいたら現実味がなさすぎて恐怖心を抱くと思うよ。」


 妹は挿絵の少女を見ながらそう言った。


「それに、お兄ちゃんの入浴中に突然お風呂に入ってくるとか、ベタすぎだしありえないし。」


 妹は本をテーブルの上に置き、元いた位置に戻る。


「別にさ、ラノベの主人公になりたいとかそういうのを夢見るのは構わないよ。でもさ、それを外に出すのはやめてね。私が恥ずかしい。」


 妹は目を薄く開き、兄を見つめる。そんな兄は妹に置いていかれたラノベを読んでいる。


「そうだ、あかね。ラノベの妹役やってくれよ。一生のお願い。今日だけ俺にベタベタして?」


「なに?さすがにキモいんだけど。だいたい、私がお兄ちゃんに好意を向けるとか、吐き気するし。」


 すると兄は顔を俯かせ、ショックを受けた雰囲気を漂わせる。


「はぁ、どうして現実と幻想はこうも違うのか。」


 手に持つラノベの妹キャラを見つめる。


「そういえばお兄ちゃん、そういうキャラって、なんでみんな髪染めてんの?グレてんの?」


 妹は本を指差しながらそう言う。


「キャラの見分けがつき辛くなるじゃん。たとえば三次元でも、口元とか目の形とか違うだろ?それと同じようなものさ。」


「ふーん、そんな理由なんだ。まぁ、全く見分けが付かないよりは全然マシか。」


 妹はテーブルに顔を付け、テレビを点ける。


「あ、今日ってエクエネが出てるドラマやるんだっけ。録画しなきゃ。」


 エクエネとは、エクストラル・エネミーの略称で、妹の好きなバンドグループの名前である。


「はぁ、ウチの妹は俺どころか他の男共に好意を向けてる。叶わぬ恋だと分かってるくせに。」


「それ、お兄ちゃんが言うの?ちょーっと前まで○○は俺の嫁!とか言ってた癖に。あ、思い出したら寒気がしてきた。」


 妹は鳥肌を立たせて寒そうにしていたので、体を丸め始める。


「茜、俺が抱いて温めてやろうか?」


「そろそろ死んでくんない?」


「どうしてウチの妹はデレと言うものを学ばないのかしら。」


 妹はそんな事を呟く兄を見つめながらこう言う。


「お兄ちゃんさ、一昨年まで彼女いたじゃん。あれはどうなったの?」


「別れたから今こうしてんだろ。」


 兄は当たり前の様にそんな事を言う。


「そりゃそうだよねぇ、お兄ちゃん魅力なんてないもんねぇ。」


 妹は笑いながらショッキングな事を言うので、さすがの兄も少し頭に血が上った。


「そういうお前は彼氏いんのかよ。」


「いるよー。」


 まさかの即答。予想外すぎた。彼氏いない歴=年齢だと思っていたので、それをネタにいじりまくろうと思ってたのに。


「んで、その彼氏ってどんなやつ?」


「なんでお兄ちゃんなんかに言わなきゃいけないの?」


 妹は兄に冷たい目線を送る。いくらなんでも冷たすぎる。冷凍庫の中並みに冷たい。入ったことないけど。


「言わないんじゃなくて言えないんじゃねぇの?強がり言って本当はいないとか・・・。」


 妹は溜息をつき、近くにあった自分のカバンを持ち上げ、中から一枚の紙を取る。


「はいこれ、ツーショット写真。」


 その紙をポイっと投げると、そこには妹の茜と、目を見張る程のイケメンが写っていた。でもこれ・・・


「なぁ、茜。こいつってあのアニメの・・・」


 すると妹は顔を真っ赤にする。


「ま、間違えた!見ないで!今すぐそれを捨てて!」


 妹は必死にその写真を取り上げ、本来渡す予定だった写真を置く。写っていたのは、茜とごく普通の男の子だった。


「一応本当だったんだな。」


 でも、さっきのアニメキャラとのツーショット写真、つまりはあいつ、一人であんな写真を撮ってたんだよな?


「なぁ茜。さっきの写真の話なんだけどさ・・・」


「それ以上言ったらそのラノベがどうなるかね。」


「すいませんでした!」


 あまりの冷酷な目つきについ謝ってしまった。兄は再度大きな溜息をつき、こう言った。


「どうしてウチの妹は可愛げがないんだろう。」


 それを聞いた妹も溜息をつく。


「いつまでそんな事を言ってるの?現実を見なよ。だいたい、こんな美人な妹を持てただけマシだと思いなよ。」


 あ、こいつ典型的なダメ人間だ。と、心の中で思った兄だった。兄は一息つき、言葉を放った。


「最後にもうひとつ、今日だけ俺に好意を────。」


「殺すよ?」

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ラノベの主人公になりたい。 うすたく @usutaku

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