第4話

その数五十を超える、ヴィランの大群からの決死の逃走劇から数分後、完全に逃げ切ったと確信していたエクス達四人


だが、そんな彼らの前にこの想区の主役を名乗る少女、エリサがさらっと姿を現わす。


そして今、エクス達による、主役の少女、エリサへの質問攻めが始まった。


「…あれは、私よ、」

「分身ってこと?」

「いいえ、違うわ、文字通り、私なのよ」

「…?どうゆうことかしら?」

「さっき…メガヴィラン…だっけ?と闘った時、飛び乗るために全部捨てたって言ったじゃない?」

「言ったな…だがそれと今の状況と何の関係があるんだ?」

「置いてきちゃったみたいなのよ、身体も、ついでに私の運命もね〜」


知らない間に身体と魂が離れていた?

とんでもないことを軽い感じで言うエリサだが、とても信じられる話ではない。


「そんなことありえるのでしょうか?」


シェインが深刻な面持ちで問い返す。


「そうよね、信じられないわよね、でも信じて貰わないと困るわ‼︎だって目の前に証拠がいるんだもの‼︎だから分かるの、…自分の半身が物語の終着点であるお城で待ってるって…‼︎」


開き直った様子のエリサが、どうだ!といった様子で胸を張る、



…つまりはこういうことである。


エリサがメガヴィランと遭遇した時、つい目の前の快楽を求めてしまったがために、どういう原理かは不明だが、エリサの身体を魂が離れてしまった。

その身体から離れてきた魂が、今エクス達四人の前にいるエリサの正体である。


さらに、エリサは自分の決められた運命を示す運命の書まで置いてきてしまった。

それは、エリサ自身の運命が、置き去りにされたことになる。


そして、その場に残されたエリサ自身の身体と、運命の書、さらに、とてつもなく濃い、狂気じみたエリサの思念が集まり、もう一人のエリサがカオステラーとなって生まれた、という訳らしい、


「…‼︎、つまり今私達の前にいるエリサさんは、あのカオステラーのエリサさんの魂的なやつってことになるのかしら?」


「みたいね、私もあの時は頭逝っちゃってたから、身体と魂が離れていくのに気がつかなかったのよ〜」


おい主役、そんなんでいいのか?

じーっと全員の視線がエリサに集まるが、気にした様子はない。


「…ために貯めたストレスが一気に発散されて、頭のネジが外れ、しかもまだ高みがあるってわかって、その高みへと行ける手段であるメガヴィランを逃すまいという、執念からそんなありえないことを実現させちゃったってこと?」



…うーん…




…こいつならあり得そう…、


と、そんないい加減な説明でも、皆を納得させてしまうほど、このエリサという少女が今までしてきたことは、常軌を逸していた。


…故に、とりあえずは納得するしかない…。


「…で、その話はとりあえず納得するとして、私達はカオステラーを、つまりはエリサの身体を倒さなければなりません」

「そして、この物語をハッピーエンドにするには私がお城へ行かなければならないし、できれば元の身体にもどりたいわ〜」

「…お互い、その城へ行くしかないってことか…」

「そういうことになるわね、…ハァ、本当に最悪な気分だわ…」


全員の意見が、エリサを物語の終着点である、お城まで送り届ける方向へ傾いてきたところだったのだが、

エクスの


「ところで、そのお城まではどうやっていくの?」


という一言でその場の全員が凍りつく。


「…そうでした…」


あちゃー

と額に手を当てため息まじりにつぶやくシェイン、


「私達迷子だったわね〜」


でも誰かがなんとかしてくれるでしょうと軽い感じで返すエリサ


「…うーむ…、」

そういやそうだった、

と難しい顔で唸るタオ、


エクスは

やっちゃった?

聞いちゃダメだった?

といった感じであわあわしている。


全員が難色の色を見せる中、


「大丈夫‼︎私に任せなさい‼︎」


レイナが急に元気になった

それはもう

憑き物でも落ちたかのような、清々しい顔で、


レイナの謎の自信に満ちた宣言に対し

全員が抗議の声を上げる、


そんな中、


「…」

エクスは無言、

何も言うまい、と全てを場の流れに任せることにした。


エクスを除く四人がヤイヤイ言い合っていると



ゴロゴロ、

と空がうなり出し、

数瞬後、

ピカッ

と稲妻が走る、


すると、それを合図にしたかのように急な大雨が降り始めた。


「…雨…」

エリサが呟いた時、

「皆さん‼︎あそこに‼︎」

シェインが興奮した様子で指をさす。

皆がそちらへ視線を移すと、そこには


「…城…だと…?」


今までは確実に無かった、大きな古いお城が現れる。


「…城ね…」

唖然と繰り返すレイナ


突然の事態に困惑する一行、

「エリサ、あれがもしかして君が探していたお城?」

エクスが訪ねる。


「ええ…おそらく…」


「レイナ‼︎カオステラーは?」


「…いるわ…あそこに…」


どうやら間違いないらしい、


「雨が降ると現れる仕掛けにでもなっていたのかしら〜?」

「そりゃいくら探しても見つからないわけですね」


雨が降るまで現れない、

こんな仕掛けをするとは、

どうやら、意地でも話を物語通りに進めたいらしい、


「目的は見つかったわ‼︎あとはあそこへ行ってカオステラーを倒しハッピーエンドを掴み取るだけね‼︎」


レイナがこれからなすべきことを口にする。


「…でも…」

「その前にこいつらをなんとかしなくちゃならねぇってか、」

苦い表情で目の前の状況を告げるタオ、


…五人の前には百近いヴィランの大群が押し寄せてきていた…。




__________



倒しても倒しても次から次へと湧いてくるヴィラン、


さすがに全部は相手出来ない、と城のドアの位置まで一直線に行く手に立つヴィランのみを倒し、道を作るように突き進んで行くことにする。


そして


バン‼︎

と城のドアを強引に開いて中へ転がり込む五人、

「とりあえず…中に入れましたね…」

「さすがに…しんどいわ…」

「皆…、無事か…?」

「うん…なんとか…」

全員が荒い息をしここまででかなりの体力を消耗しているのが伺える。

ドアの先には、まさしくお城、というような、床には赤いカーペットが敷かれ、両サイドどちらからでも登れるようなウネウネした階段があり、壁には等間隔にロウソクが立っていて明かりの役割をしている。天井には見るからに豪華なシャンデリアが吊るされ、キラキラ輝いている。


タオの問いかけに、エクス、レイナ、シェインが答える中、


「…」

「エリサ…?」

唯一無言なエリサを気遣い、シェインが心配そうに尋ねる、


「…ごめん…皆…私はここまでみたい…」


辛そうに告げるエリサだが、さきの戦闘であちこちにキズは見られるものの、致命傷になりうるような外傷は見当たらない。

「怪我じゃ…ないわ…」

「…‼︎」

そういったエリサを見て、四人は言葉を失った。

「透けてる…⁉︎」

エリサの身体が、向こう側の壁が見えるくらい透けているのだ、

「…一体、どうなっているのですか…?」


事態はなんとなく察することができるが信じたくないといった様子のシェイン、

「ふふふ…残念ね…これからが本番だったのに…」

本当に残念そうに、悔しそうに別れを口にするエリサ、

その瞳は城の奥、

階段を登った先を見ている。


「…あれに…もどるのね…」


そういうレイナの視線の先、階段を登った所には、


…もう一人のエリサが、一切の感情を感じさせない無表情で、まるでマネキン人形のような状態でただボーッと立っていた…。

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