か弱きお姫様、頑張ります‼︎

ベームズ

第1話

皆さんは「エンドウ豆の上に寝たお姫様」という童話をご存知だろうか?


『とある国の王子様が、自分のお妃となるお姫様を世界中を回って探していた。

だが、王子様の前には、お姫様を名乗る偽物しか現れず、王子様はひどく落ち込んでいた。

しかし、そんなある日、嵐に見舞われて、お城に駆け込んできた一人の少女と出会う。

その少女は雨に打たれ、びしょ濡れであったが、自らをお姫様であると名乗った。

そこで、今まで何度も騙されていた王子様を気遣ってか、年老いた王妃が、少女を試すべく、少女の眠るベッドの上にエンドウ豆を一粒置き、その上に何十枚もの敷布団と羽布団を敷き、その上で寝るよう少女に言う。

そして翌朝、寝心地を問われた少女は、

ベッドの中に何か固いものがあり、それのせいで全く眠れなかった、といった。

何十枚もの羽布団と敷布団の下にある一粒のエンドウ豆を感じることができるほど、繊細な方は本物のお姫様に違いない、と、王子様は認め、少女はめでたくお妃として迎えられた。』


と言う話である。


これから始まる物語は、そんな繊細なお姫様が王子様のいるお城まで辿り着くべく、奮闘したり、しなかったりする物語である。



__________




ここはとある国にある深い森の中、

見回す限り、同じ高さをした同じ種類木々が、まるで定規で正確に測ってるんじゃないかと思ってしまうほどに、規則正しく等間隔で並んでいる。

という光景が遥か先まで続いている。


そんな景色が永遠に続き、目印になる様なものも何も無いため、今、一体自分は何処にいるのか、ちゃんと出口へ向かってまえに進んでいるのか、そもそも、この森に終わりなんてあるのか、分からなくなってしまう程に深い森。


そんな森の中なため、立ち並ぶ木々の枝葉は、空を覆うように広がっており、光が下まで届かず、森の中は暗くなるのではないか…?

と思ってしまうのだが、そうはならず、うまい具合に日の光を遮断することなく、所々に隙間を作り、そこから差し込む日の光は、まるで辺りが光のカーテンに覆われているかのように辺りを照らしている。


そのため、森の中だというのに暗くなく、それどころか、明るいイメージさえ抱かせる、とても居心地の良い空間を作り出している。


そんな不思議な森の中では、どこにいてもあちこちから、小鳥のさえずる声が聞こえ、よく目を凝らして辺りを見回せば、小動物達があっちにこっちにとチョロチョロ動き回っている。


「ル〜ルル〜ラ〜ララ〜」


そんな平和な森の中、その地の平和を体現するかの様な、美しい歌声が辺りに響き渡る。

そしてその歌声に答えるかのように、小鳥達はさえずる声を歌声に合わせ、まだ眠っていた動物達は目を覚まし、先程まで蕾だった花達は、ゆっくりその花びらを開かせる。


そして、その歌声の中心に、まさしくイメージ通りと言った、青い目と、腰まである金色の長髪が特徴的な、それはそれは美しい少女が、優しい光が辺りを照らす森の中を、楽しそうに、スキップなんかをしながら進んで行く。


彼女の名はエリサ、この『想区』と呼ばれる空間において、知らぬ者はいない超有名人、『主役』である。



『想区』とは、『ストーリーテラー』

と言う世界の創造主的な存在によって創り出される空間であり、この想区に住む住人達は、登場人物として、ストーリーテラーによって決められた運命を送るのである。

彼女もまた、ストーリーテラーによって『主役』という役割を与えられた、この想区の登場人物の一人である。


「フンフンフ〜ン」


先程までとは違う音色のメロディを口ずさみ、その美しい顔にぴったりと合う優しい笑みを浮かべ、ちょっとした小躍りをしながら、時に動物達と話をする様に戯れながら、歌を歌う『主役』の少女、


そして、


「やってられるか〜‼︎このヤロ〜‼︎」


…すべてをぶち壊した。


目尻には涙を浮かべ、悲痛に叫ぶ少女の声は、先程までの歌声からは想像出来ないほど、力無く痛々しい、額には汗が滲み、顔もやつれており、かなりの疲労がうかがえる。スキップも小踊りもやめており、肩で息をしながらその場にへたり込んでしまう『主役』の少女、


しばらくゼェーハァーと荒い息をしていたが、少し落ち着いたらしいエリサ。

すると何やら開き直ったように、その場であぐらをかいて座り込み、スカートの中に手を突っ込む。

そしてその中をゴソゴソとあさり出した。

(…マジ何やってんの、こいつ…?)状態である。


そこには先程までの幻想的なお姫様キャラはどこへやら、最早この『想区』における『主役』としての威厳もへったくれもなくなった、ただただ残念な娘がいらっしゃった。


そんな残念娘でもこの世界の『主役』というのだから夢も希望もあったものではない。


そしてエリサは、スカートの中からある物を取り出した。

それはパンツ…ではない、

ここでそんな物を何の意味もなく出してこようものなら、まだ見ぬストーリーテラー様が容赦なく主役の座から引きずり降ろすだろう。

…もし、仮に、万が一に、その行動自体、彼の決めたことなら、その趣味嗜好を誰もが疑うことになる。


しかし、実に喜ばしいことに、それらの予想は全て外れ、少女が取り出したのは、一冊の本、


『運命の書』


と呼ばれるこの本は、文字通り、この『想区』と呼ばれる空間において、『主役』を含む、役割を与えられた登場人物達の運命を記した書物である。

『運命の書』に記された事柄は、登場人物達にとっては絶対であり、決して変えることはできない。

何より登場人物達はこの『運命の書』の内容事態、疑うことはない。

こうして、物語の登場人物達は永遠に決められた運命を何の疑問も抱くことなく繰り返し続けるのである。


エリサもまた、この『運命の書』に記された通り、『主役』としての役割を果たしていたのだが、


今回は、内容にあまりに無茶なことが書かれていたらしく、肉体的な限界を迎え、その場に崩れ落ちた、とう訳らしい。


「何よ!こんなの無理ゲーじゃない!本気でこんな無茶なこと出来ると思ってんの?馬鹿じゃないの?」




…、

うん、






…何の疑問も抱くことなく繰り返し続けるのである…。







エリサは見た目の通りのお嬢様である。

今日は、”ヒラヒラのたくさん付いた可愛らしいドレス”に、”かかとの高いヒール”という格好でこの森へやって来た。



ここはアンデルセン王国という国にある、エリサの住んでいる屋敷に隣接して広がっている大きな森である。

今日は、”この森で楽しそうに歌を歌いながら草花や動物達と戯れていると、急に大雨が降り、駆け込んだとある城で、王子様と運命的な出会いを果たす。”という重要な場面を迎えるべく、ここへやって来た訳だったのだが…



身の回りのことはお付きの者達に任せて、運動らしい運動もせずに、お城の様な大きな屋敷で、何不自由なく、ぬくぬくと育って来た彼女が、当然山や森になど、入ったことも無く、それらに対する知識もあるはずがない。

(まぁ〜?、『運命の書』に記されてることだし〜?)と軽い感じで考えている間に今日という日を迎えた彼女だったのだが、


いくら『運命の書』に記された通りとはいえ、ろくに運動もせずに育ってきたお姫様が、いきなり整備されていない森の中を、動きにくい格好でスキップしたり踊ったりしながら、ついでに歌いながら長時間動き回る、という、相当な体力が必要となることを、実行出来るわけがなかったようだ。


「そうよ!無理よ!無理無理!絶っっ対に無理!

まったくもう!…誰よー、こんな無茶なこと考えたやつ〜、ちょっと締めたるから出て来なさいよー!」


と、言いたい放題言いまくる『主役』の少女、

「で?雨は?いつふるのかしら?遅すぎるから疲れちゃったじゃないの‼︎やる気あるの?全くもう‼︎」

現在、空は快晴、森の中にも明るい光が差すほど晴れている。

雨など降る気が全くしない。



「この私が直々にきてやったんだから、私が森に入ったら2秒で降って来なさいよ!」

天候の問題なので誰にもどうすることもできないわけだが、エリサには関係ないのでいいたい放題である。


そんな彼女とやがて、出会い、結ばれるという避けられない運命が待っている、運命の相手とやらは実にお気の毒である。


まだ見ぬ運命の相手がこんな彼女でも受け入れられる、懐が大海原のような紳士である事を祈るばかりである。


「家の阿保共が『運命の書』の通りにしてくれって泣いて頼んでくるから仕方なくきてやったわけだけど…、この私をこんな目に合わせるとはいい度胸ね、向こうと会ったら速攻で私を担いで屋敷まで帰らしてやるわ!そして着き次第、阿保共々締めてやるんだから!」


その後、しばらく騒ぎまくったのち、どうやら落ち着いた、というよりは疲れ果てたようすのエリサ、


「…、後十数えて出なかったら帰るから」


なんかもうどーでもよくなった、とりあえず帰って阿保共だけでも締めようか、

と考え帰る宣言をし出す。


…この世界の物語を、果たして始める事はできるのだろうか、

雨よ降れー!


「じゃあ数えるわよー…、いーち、にーい、はいじゅう〜、よし帰る!」


…子供か!


と思わずツッこんでしまうボケをかました後、

「…ハァ…帰ろ…」

自分のしたことの阿保さに気づいたのか、元々無かったやる気が完全に失せ、早く帰って寝たい、と屋敷に向かって歩き出すエリサ、


どうやら何も始まらなかったようだ、


「うん、別に、こっちから行かなくても、いずれ向こうから私んちにくるでしょ」

と、とうとう物語を好き勝手にねじ曲げようとしだした。


すると、

「うん?何かしら?」


何やら異変に気付く、


「今何か動いたような」


ぱっと見では全く分からないが、視界の端で何か動いたような気がしたため、目を凝らして辺りを見回す少女、

「男?男?」

もしかして、私を心配してわざわざ探しにきてくれたの?


運命の相手とは、草むらから飛び出してくるものだったのよ、雨なんて降る必要なくなっちゃったわねザマァ‼︎と辺りの草むらに視点を移し、この後どんな方法で処刑をしてやろうかと、ワクワクしながら探す少女、


別に自分はどうでもいいのだが、一応自分はこの物語の『主役』な訳だし屋敷の阿保共の為にも、


という考えは全くなく、


「この私がこんなにも頑張ってやったんだから、タダで帰るとかありえないし‼︎サァ出てきなさい‼︎お仕置きが待ってるわよ〜」


というなかなか下衆い考えの元、いるかもわからない運命の相手を探すが、


「…チィッ、気のせいだったかしら」


異変なしと見て、予定通り、帰路につく


「…きっと今日じゃあ無かったんだわ、全く!」


そーいえば私、雨降ったところでどーやって向こうの待ってる城まで行くつもりだったんだろ〜?

全然城なんて見当たらないけど〜、

など色々阿保なことを考えながら来た道を戻るエリサ、

しばらく怒りながら歩いていると、


ガサガサ‼︎


と近くの茂みが音を立てる。

「男⁉︎」

チャッチャラー!

草むらから運命の相手が飛び出してきた!



…とはならいのがお約束である…。


草むらから飛び出してきたのは少女が待ち望んでいた? 運命の相手ではなく、


「?、動物からしら?」


「クル〜クルクル〜」と鳴くその生き物は、大きさは少女の胸くらいの高さで、つるつるの頭に青い炎の様なものがユラユラしている。

獲物を狩る肉食動物のような鋭い目に、胴体と同じくらいの長い腕、その腕には、ナイフの様な鋭利な爪が並んでいる、という見た目の、あまり友好的な相手でない感じのする生き物が姿を現した。


何より、


「隠す気のない殺気、まぁ、これが私の運命の相手でない事はわかるわね」


敵、

である事を一目で感じ取った少女、


「まぁ、危険な動物と出会った時は迷わず逃げろ、とは聞いたことあるけど、」


森でクマと出会ったら、

イノシシと、オオカミと出会ったら、

逃げるのが常識である。


しかし、そんな得体の知れない相手を前に、エリサを中心に周りの空気が一気に冷たくなったように感じるほど変化する


「今……私……と〜〜〜っても……」


聞いたものが人ならば、間違いなくその声音に凍りついてしまうだろうほど冷たく低い声で、目の前の生き物に死刑宣告を始める少女、

そして、


「機嫌がわるいのよねーーー!!」


勝手に貯めに貯めた怒りを爆発させて

殺気をガンガン飛ばしてくる生き物に突撃を始める少女、


「クル〜クルクルクル〜」

どうやら向こうもやる気らしい、鋭い爪のついた長い腕を振りかぶり、突撃して来る少女に狙いを定める謎の生き物、

そして、

「クル?」

少女の姿が消えた、

キョロキョロと辺りを見回す謎の生き物だったが、次の瞬間、

「とぉ!!」

消えたようにも見える程、素早い動きで後ろに回り込んでいた少女が背後から謎の生き物の首に腕を巻きつけ、

ゴキッ‼︎

と何のためらいも無くその首をへし折った。


断末魔すらあげること無く絶命する謎の生き物、そして、ポンッと、軽く弾ける音を立てながら、紫色の煙の様なものとなって跡形も無く消滅した。


「ヘェ〜、死体も残さず消えるなんて、持って帰って調べてやろうかと思ったんだけどなぁ〜」


…あなた一体何回豹変するの?


と言いたくなるほどに、とてもさっきまでの、足場の悪い森の道での激しい運動に文句を言っていた上、

『私、お嬢様育ちだから運動できないの〜』的なことを説明したのに、それら全てぶち壊してくれたエリサ、

彼女は一体、どんな育ち方をして来たのだろうか、

「まぁいいわ〜、ほら、殺気、出まくってるわよ〜?隠れても無駄だから出てきなさいな〜、って人語通用するのかしら?こいつら」

そういうと少女は、まるで高貴なお姫様が挨拶をするかの様に、(実際にお姫様なのだが…)両手でスカートを広げる、

すると、

ガン、ゴン、

とスカートの左右両端から、一体どうやってしまってたの?

という様な、長さ120センチ程の持ち手に、地に落ちた時、鈍い音がする程に重々しい槌の付いたハンマーが2本出てくる、


少女がそれらを拾い上げるのと同時、木や草の陰から次々と先程と全く同じ見た目の生き物が姿を現す。

数はおよそ10、

「全員まとめて相手してやるわ!かかってきなさ〜い!」

そう叫ぶと、両手に重い武器を持っているとは思えないくらいの速度で、未だ得体の知れない生き物の群れに突撃していく。


「おーじょーせいやー‼︎」


…こうして少女の物語は始まっていくのだった。



__________




時を同じくして、同じ景色が永遠に続く何の目印もない森の中を、あてもなく歩き続ける4人の少年少女達の姿があった。


「…迷ったな、」

「迷いましたね…、」

「あはははは〜」

最初に断言したのはタオ、灰色の髪が特徴的な少年、何でもはっきり言う性格から、一行を先頭から引っ張る兄貴的存在、

自身も一行のリーダーを自称しているのだが、同じくリーダーを自称する同じメンバーの少女、レイナとは時々言い争いになる。


次に、最初に発言したタオに同意する形で発言をしたのは、シェイン、

タオとは義兄妹の契りを交わしている。 後ろで縛った長い黒髪と茶色がかった目が特徴的な少女、あまり口数が多い方では無く、感情を表に出さないクールなキャラ


そして、はっきりとものを言った二人に対し、さて何と言ったものか、という感じで曖昧な返事をしている少年、エクス、

青緑色の髪に、赤みがかかった目が特徴的な、素直な性格が取り柄の、一行では一番後に加わった新入りさんである。


…そして、最後にもう一人、


「まっ、迷ってなんかないわ!

ほら、あの木、さっき見た木だわ、わかるの、こっちよ、黙って私についてきなさい‼︎」


一行の先頭に立って、皆を引き連れる形で森を進んでいく、肩くらいの長さの白い髪に、緑色の目が特徴的な少女、レイナ、


…もうお分かりの通り、自慢の方向音痴で一行を遭難の危機に陥らせている張本人さんである。


「本当ですか?この辺の木、全部同じに見えますけど」


ジトー…、


という目でレイナに問うシェイン、


「び、微妙に違うわ、ほらここ、ここに傷があるでしょ?私覚えてたもの、ここにこの傷があるのはこの木だけなはずよ」


どうだ!凄いだろ!


とでも言いたいのだろうか、胸を張ってドヤ顔するレイナ、


「でもよ、もしそれがお嬢の言ってる通りなら、それ同じところ回ってるってことなんじゃないのか?」


つまり迷子ってことになる、


「うっ…だ、黙りなさい‼︎大丈夫ったら大丈夫なの!こっちから確かにカオステラーの気配がするのよ、だからこっちに進んで行けばいずれたどり着けるわ!」


『カオステラー』とは、この世界含め、『想区』という空間を創り出す存在、『ストーリーテラー』が異常をきたし、暴走している状態のことを言う。

カオステラーを放っておくと、その想区の物語はめちゃくちゃになっていき、やがて消滅させてしまう、危険な存在である。


そんな危険な状態になってしまったストーリーテラーと、めちゃくちゃになった想区を、元のあるべき姿に戻すことの出来る存在がいる。

それが、『調和の巫女』という、特殊な存在で、一行の中では、この方向音痴少女、レイナちゃんがその調和の巫女様である。

彼女は、どうやらカオステラーのいる場所が、なんとなくではあるが分かるらしく、今回もその気配を辿って、この想区へやってきたわけなのだが、


「…私達、このまま同じ場所をぐるぐる回り続けるのでしょうか…」


「大丈夫だよシェイン、今までだって何度かわからないくらい迷子になってきたけど、なんとかここまでやってこれたじゃないか、だから今回も、」


フォローになっているか微妙な発言で、諦めの表情をしているシェインを励まそうとしているエクス、

同時に助からないフラグもしっかり立てているが、果たして今回もなんとかなるのだろうか、


…怪しいところである、


…それからヤイヤイ言いながらも歩き続けた四人、彼らが森に入ってから数時間が経過した頃、


「あれは…」


何かに気づいたレイナ


「間違いない、ヴィランだ‼︎」


エクスが緊張した面持ちでその正体を口にする。


全体的に黒っぽい見た目に、ツルツルした頭、その頭にゆらゆら揺れている青い炎のようなもの、

体長はエクス達の肩から胸の辺りの大きさで、その胴体と同じくらいの長さの腕があり、その腕の先にはまるでナイフのような鋭利な爪が並んでいる。

『ヴィラン』というこの生き物は、自在に想区の物語を書き換えることのできるカオステラーによって姿を変えられた、この想区に住んでいる、住人達である。


だが、彼らに理性のようなものはなく、ただこの想区を壊すために暴れ回っている。

そして、目に入った人間には問答無用で攻撃をしてくるためカオステラー同様、非常に危険な存在である。


「クル〜クルクル〜」


やる気満々な感じで腕をブンブン振り回して突撃してくるヴィラン、周りには最初のヴィランと同じ見た目のヴィラン達が約十体ほど、それぞれ殺気むき出しで突撃してくる。


「やるしかなさそうですね」

やれやれといった感じでシェインが

「おう!気合い入れていくぜ!」

言った通り、気合いを入れて構えるタオ


そう言うと、四人はそれぞれ一冊の本を取り出し開く、

『運命の書』

だが、彼等の持つ運命の書には、本来登場人物達の決められた運命が記されているはずのページには、一文字の記載もなく、どこまでも白紙が続いている。

『空白の書』

と彼らが呼んでいるそれらは、ストーリーテラーに決められた運命と、登場人物としての役割が与えられるはずの想区の住人の中にいて、何の役割も与えられなかった者がもつ、全てのページが白紙の本である。


白紙であることは、悪く言えば何者にもなれなかった、属せなかった者である。

だが、逆に考えると何も決められていない訳なのだから、その気になれば何にでもなれるし、何でもできる。


そして、この空白の書を持つ者には何者にもなれなかった者であるが故の特別な力がある。

それは空白の書を持つ者がそれぞれ持っている”栞”を空白の書に挟んだ時に発揮される。

パァ‼︎

と、ほぼ同時に栞を空白の書に挟んだ四人の体が光に包まれていき、

光が消えると中から出てきたのは、先ほどまでの四人の姿ではない、それぞれ剣や槍、魔道書や杖を持った、不思議な雰囲気を纏った少年少女たちだった。


『接続(コネクト)』


と言うその力は、何の役割も与えられず、何者にもなれなかった者達が、空白の書に栞を挟むことで、栞に込められた、かつての英雄達の力をその身に宿し、変身することができる、という力である。


何者でもないが故、何者にでもなれる、


という何とも夢のような力を持つ空白の書を持つ者たち、

エクス達四人はこの力を使い、今彼等の目の前にいるようなヴィランや、彼等を変えたカオステラーと戦い、おかしくなった想区を元に戻して回っているのだ。

「さぁかかってきやがれ!!」

と言いながら槍を構えて真っ先にヴィランたちに向かって走って行くタオが変身した姿の少年、

「もうこっちからかかって行ってますけどね〜」

その後ろ姿を眺めながら冷静にツッコミを入れるシェインが変身した姿の少女、

冷めた感じでそう言いながらも先に突撃し槍を振るう、タオの死角に入っているヴィランに向かって杖を掲げ、

「エイッ‼︎」

と、光の球体を放つ、

光は逸れることなく直線上のヴィランに飛んで行き、当たると同時、

パァン

と弾けそこにいたヴィランごと消し飛ばす。

タオとシェインが決死の戦闘をしている中、


完全に出遅れた感のあるエクスとレイナが変身した姿の、それぞれ剣と魔道書を持った少年少女たちは、


「…」

「…」

二人して言葉を失っていた。


だが、二人の無言の原因は決して今の戦闘に出遅れたからでも、今更なにをしたらいいのか、分からなくなった、という訳でもない。


というより、

今の二人にとって、もう目の前の戦闘はどうでも良いものとなっていた。

そもそもこの程度の数にタオとシェインが殺られるとは最初から考えていない。

二人の視線は揃って空に向かっていた。


それは先ほど、ヴィランの存在に気がつき四人揃って変身した時のこと、二人の目にはそれが視界に入ったのだ、


キッラーン‼︎


と空の遥か彼方で何かが光っているものが、


それは最初は滅多に起きないことが起きたという興味から視線を一瞬奪う程度だった。

だが、英雄の力を得た二人は、その一瞬で、今空の遥か彼方で光ったものの正体を理解してしまった。

「ねぇエクス…あれって…」

「うん、メガヴィラン…だよね?」


メガヴィラン、

ヴィラン達の上位個体とも言えるそれは主に通常のヴィランの3倍近い大きさに様々な姿形をしているが、今、彼等の目に映っているのは、重そうな鎧に身を包み、機械じみた動きをする、非常に硬く、厄介な敵である。

だが、

そんなメガヴィランが空を、しかもあんな上空を飛べるなんて見たことがないし知らない。

「おいおいお二人さん、揃ってサボりとはなかなかいい度胸してるなー」

と戦闘を終え、変身を解いたタオが鬼の形相でゆらゆらと歩きながら距離を詰めていく。


「全く、私達がどうなっても良いのですか?…ってエクス、レイナ、どうしました?」

同じく変身を解き、二人に文句を言おうとしたシェインだったが、二人の異変に気がつき理由を聞く。

「…あ…あれ…」

ボソッと青い顔をして信じられないものでも見ている表情でつぶやき、視線の先を指差すエクス、

「あれって、ヴィランですか?なかなかデカイですね〜しかもこっちに飛んで…って飛んでる‼︎デカいヴィランが‼︎空飛んでこっちにきてますよ⁉︎」

アレアレ、見て見て、

と今にも暴れ出しそうだったタオの服を引っ張り空を指差すシェイン、

だが

そんなことはどーでもいい、とシェインを振り切りサボり二人に掴みかかろうとするタオ、

「とりあえず見てください」

エイッ

とタオの首を捻るように無理矢理後ろを向かせ、パキッゴキッと変な音を立てるのを無視してさらに空へ向ける。

「…なんだ…あれ…」

それを見たタオは皆と同じく、驚愕に目を見開き、それをみている。

と四人がそれぞれ空飛ぶメガヴィランを視界に捉えた所で、

ヒュールルルル

と花火が打ち上がるような音が聞こえてくる。


「あれ…こっちに飛んできてないか?」

「来てますね」

どうする?

どうもできん!逃げるぞ!

と視線で会話を成立させ四人揃って回れ右して走り出す。

そして、10歩ほど走った所で

ズッッッドーーーン‼︎

とついさっきまで四人がいた場所に、周囲の木々を薙ぎ倒し、今の四人の位置の地面すら地震のように揺らすほどの衝撃とともにそれは着地した。

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