operation.2 漣 ミサキ
――ミサキ、ミサキ……。
心地よい
白銀の髪が、ゆれている。その様は月光に輝く海のようだ。
――ミサキ、スクールに
「え……スクール……単位?」
――そうです! ケルト神話の
寝ぼけた声を俺は人魚に返す。人魚は悲しそうな表情を浮かべ、俺の顔を
「つーか、あの講義はメロウの趣味で聴いてるだけだろ? 別に俺、選考はプログラミングだし、神話の講義なんて落としても平気っていうか……」
俺は頭に手をあて、ベッドから起き上がっていた。昨日夜ふかしたせいだろうか。頭痛がする。
――うぅー! 私の原点であるケルト神話に興味を持たないとは何事ですか!?それでもミサキは、メロウのマスターなのですか!?
ぐわりと尾びれを
「お前は俺を
――うぅっ!!
ぷうっと頬を
義務教育型オペレーションAIは、本来未成年の健やかな成長を促すために造られたものだ。でも、こいつを見ていると、とてもそんな
――あっ、ミサキ! 何、笑ってるんですか!? 何がおかしいんですか!?
「別に。それよりさっさと支度しろよ。スクール行くんだろ?」
――ふふん、その辺は大丈夫です。ミサキが寝ているあいだに、
メロウは水かきのついた手を腰にあて、
「悪いけど、これから用があるんでキャンセルしといてくれる?」
――ミサキぃ!
メロウが悲痛な声をあげ、俺の顔を覗き込んできた。
――私の楽しみを、あなたは
「別にお前の原点なんてどうでもいいし……」
――ミサキー!!
「それに『みさき』の夢をみたんだ。あの人が、俺を呼んでる。」
――ミサキ……。
俺の発言に、メロウが大人しくなる。彼女は浮かびあがり、俺から離れていく。彼女の眼が不安げに俺に向けられているような気がした。
「俺、変なこと言った?」
メロウに話しかけ、俺はベッドから立ち上がる。
俺の目の前に広がるのはコンクリートの壁が印象的な八角形の部屋だ。部屋の奥にはカウンターのついたダイニングキッチンがあり、そのカウンターの上にコーヒーメーカーが置かれていた。
父さんが俺のために購入してくれたアパートの1室だ。といっても、現在住んでいるのは俺1とメロウの2人だけ。父さんはもう、何年も帰ってきていない。
俺は、カウンターに置かれたコーヒーメーカーを見つめていた。あのコーヒーメーカーで、父さんはよくコーヒーを
父さんは甘いエスプレッソが大好きだった。
「メロウ……。コーヒー、淹れてくれない……?」
俺はメロウを見上げ、
――ミサキは、私がいないとダメダメですね……。
メロウが笑う。半透明の彼女の手が、俺の頭をなでてきた。ホログラムである彼女になでられても、何も感じることはできない。けれど、
――コーヒーメーカー起動ッ!
びしっとメロウがコーヒーメーカーを指差す。コーヒーメーカーはひとりでに動き出し、設置されたカップの中にエスプレッソを注入していく。
エスプレッソが出来上がったのを
「父さんの味だ」
甘さに包まれたほんのりとした苦味が心地よい。俺は舌に広がるエスプレッソの味を
――当たり前です。私が淹れたんですからっ!
腰に両手をあて、メロウは得意げな笑顔を浮かべてみせる。
「父さんがいなくなってから、メロウには世話になりっぱなしだな。コーヒーメーカー限定だけど」
空になったカップを自動食器洗い機に
――私はミサキ専用のOSですよ! 国民の約90%が個人AIを所持し、そのサポートなしでは生きていけない世界だと言われているといのに、何を言うのでしょうか、このマスターはっ!
「必要最低限なことくらい、自分でしたいってことだよ。頼ってばっかじゃ、何か悪いだろ」
お返しとばかりに、俺は彼女の頭をなでていた。ホログラムであるメロウの頭をなでても、何も感じることはできない。それでもメロウは頬を赤くしてくれた。
――うぅー! 出かけますよ。あの人のところに行くんでしょっ!!
頭を両手で抱え、顔を赤くしたメロウが尾びれを翻して俺から離れていく。
「メロウ。あれ準備してくれない?」
――えぇ!? どうしてミサキは、安全性が
前方を泳いでいたメロウが、不機嫌そうに俺に顔を向けてくる。俺は苦笑しながらも、彼女に答えていた。
「狩りのときに便利なんだよ。あいつらが来るってさ」
――ミサキ……いつの間に……。
「あの人が教えてくれた」
こんっと自分の頭を指で叩き、俺はメロウに笑ってみせる。彼女の眼がすっと
「それに、あいつらを放ってくる奴らは、どうせ父さんの敵だろうしね……」
――ミサキ……。
悲しげに眼を伏せるメロウを見て、俺はいなくなった父さんに思いを
俺の父さんである
それからずっと、俺は父さんとメロウと3人でこの部屋で毎日を過ごしていた。
父さんがいなくなる、3年前のあの日まで。
――行きましょう。ミサキ。あの人があなたを呼んでいます。
「あぁ……」
メロウが俺に笑いかけてくる。その顔が何だか
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