life is game
むねちか
第1話 序章
「貴方が暗殺者(アサシン)、妖刃坊のユーヤ?」
これが二人の最初の出会いの一言目だった。
白銀のロングヘアーを腰近くまであり、闇夜でもその美しさは目立つだろうと思われる程である。その上、着ている服が黒のローブなだけに余計に目立っていた。
背はそれほど高くはないが、声と立ち姿にはどことなく高貴な雰囲気が漂っている。
ここは、メルテイス山脈の山頂付近に建てられた脱獄不可能な牢獄として有名な場所である。その脱獄不可能な牢屋に五年前、有名な男が投獄された。
大陸の歴史上、最狂で冷酷な暗殺者。
この暗殺者を捕らえる為、共和国が誇る魔道士達で結成された部隊の隊長級の猛者達が全て駆り出された位なのだった。
「誰だ、アンタ?」
岩牢の奥からくたびれた声が聞こえてきた。
髭が伸び髪も肩より少し下まで伸びたその男は、両腕には手錠、両足には枷が付けられたいた。
「不憫なものね。そんな物を付けられて生活するのは」
顔色一つ変えずに白銀の女性が言う。
「そうでもないさ。で、アンタが俺の処刑人?」
ユーヤと呼ばれたこの男も、声色一つ変えずにつまらなそうに言ってみせる。
「じゃあさ、早いとこ殺ってくれないかな? こんな場所で無駄な時間を過ごすのにも飽きてきた」
岩壁に背を預けながら言うと、
「貴方を殺すのは簡単よ。ただ、その前に・・・・・・」
言いながら右手を差し出してきたのである。
「私の狗にならない?」
「・・・・・・は?」
ユーヤはこの女性が何を言ったのかが、一瞬理解出来なかった。
この投獄に来てからと言うもの、あまり思考を巡らせる事がそんなに無かった事もあったせいで、理解するまでに時間を要したのかもしれない。
「アンタ。何か、変な趣味でもあるのか?」
「失礼ね。ここから出してあげる代わりに、私に従いなさいって事よ」
ムスッした表情になったが、すぐに感情は消え失せた。
少し考えながら、ユーヤは頭を掻いた。
この牢獄から出れるのは又と無い機会である事は分かる。
ただ、この白銀の女性が自分に何をさせたいのかが理解出来ない。
元々一匹狼でやってきたユーヤである。今更、誰かの下に着けと言われても、はい、そうですか、とは言えない。
「名前」
「え?」
「アンタの名前だよ」
「ティス。人は私の事を『白銀の魔女』と呼ぶわ」
その通り名を耳にした瞬間、ユーヤは肩を落とした。
とんでもない人物が来た、と本気で思ったのだ。
『白銀の魔女』。
それはこの共和国内の政治を管理する者、『大神官』の側近の通り名である。
この共和国は大陸にある幾つかの国々が集合して出来た国家である。
『大神官』とは、その国々から何年かに一人、この『白銀の魔女』と中央機関にいる者達とで選抜する事になっている。
そんな『白銀の魔女』が今、自分の目の前に立っているのである。
「ハハハ。『白銀の魔女』の狗か。面白ぇ」
前髪をかき上げてティスの顔を見た。無表情のその顔が目に飛び込んでくる。
「で、私の狗になるのかしら?」
「いいぜ。ここで死ぬのも良いと思ってたが、アンタの狗になって意味のある死を迎える方が面白そうだ。喜んで繋がれてやるよ」
「そう。じゃ、繋いであげるわ」
そう言って右手をユーヤの顔に近づけると、何かを呟いたのである。
瞬間、ユーヤの右目に激痛が走った。それは目から脳神経を走り、体全体へと駆け巡った。
「・・・・・・っ!!」
経験した事もない痛みにユーヤは声も出せなかった。
「繋いであげたわよ。これで貴方は私の狗よ」
「い、一体何したの!?」
「貴方の右目、それに主従の契約を結んだのよ」
「はいっ!?」
慌てて自分の右目を触ったが、何かが変わったどうかなんて全く分からない。顔が変形したのかと思い色々自分の顔を触ってみたが、特段変化は無いようだった。
「早くそこから出なさい。そして、服を着替えて髭と髪を整えたら、正面玄関まで来なさい。いいわね?」
それだけ言うと、ティスをその場をあとにした。
ユーヤは守衛に付き添われながら洗面所まで行き、髭を剃り、適当に自分で髪を切って顔を上げた時、自分の右目の変化に気付いた。
右目の色が金色になっていたのだ。
「なるほどね。これが契約の証拠か・・・・・・」
鏡に映る見た事のない目の色の自分を見ながら、呟いた。
洗面所を出ると、そこには、多分、ティスが用意してくれたのであろう服が置いてあった。囚人服を脱ぎ、それに着替え、ユーヤは五年振りに外の空気を思い切り吸い込んだのである。
「やっぱ、外はいいね」
「あら、意外に似合ってるわね。もうちょっと滑稽に見えるかしらと思ったんだけど」
右側からティスの声が聞こえてきた。
「滑稽でもいいさ。で、どこで何するんだ?」
「とりあえずここを離れて中央まで行くわよ。詳しい話しをしながらね」
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