(2)「今日は部活なんだぞ、遊びじゃないんだぞ」
あの雨の日の週末のこと。諸般の事情により、私はある計画を果たすことができなかった。それは「女子高生らしい服を買う」ことである。
高校生になってから、一着も服を買っていないわけではない。しかし、家族と一緒に買った服はカジュアルというより、おめかし系である。あいかわらず、私のクローゼットの中は悲惨な状況なのだ。
しかも、一緒になるのは、かの有名な古泉イツキちゃんである。彼女がどんな格好をしてくるのか想像するだけで恐ろしいが、中途半端なおしゃれでは私に待っているのは敗北のみである。
そのような理由で、この週末、私はおめかしすることにした。ネックレスをつけるぐらい気合を入れた私なりのベスト・コーディネイトである。
だが、集合場所で、そんないでたちの私を待ちかまえていたのは、予想外の格好をしたイツキだった。
「ハーイ」
そんな白人めいた挨拶をした彼女は、帽子をかぶり、キュロットに縞模様のハイソックスをはいている。一言で形容するならばスポーティー。制服姿とはちがった彼女の魅力をぞんぶんにひきたてる着こなしだった。
「って、キョン子ちゃん、その格好なに? 今日は部活なんだぞ、遊びじゃないんだぞ」
かわいく叱るイツキ。私は返す言葉がないまま、立ちつくす。
「まさか、デートかなにかとかんちがいしてたんじゃないの?」
く、悔しい。まさか、イツキにこんなことを言われるとは。どうやら、私は彼女のファッションセンスを見くびっていたようだ。
「いやいや、似合ってるじゃん。キョン子さんらしくていいよ」
すぐさま、みつる先輩がフォローしてくれる。みつる先輩を含めた男子三人組は、特に描写する必要のない、悪くない格好をしていた。明らかに私だけが空回りである。そうだよな、ただの部活動だもんな。私はため息をつく。
「じゃ、とりあえず、動くか」
涼宮ハルヒコは、私の服装には、まったく興味ない口ぶりだ。私が一時間以上にわたり、何を着るべきか悩んだことなど、彼にとってはどうでもいいことにちがいない。
「で、ハルヒコ君、これからどうするの?」
「そりゃ、街を歩き回って、気になる箇所があったらチェックする。それ以外に何の方法がある?」
みつる先輩の質問に当然のように答える我らが団長。せっかく、みんなで集まったというのに、何ひとつ計画をたてていないらしい。朝の十時に集合してそれでは、昼まで持つかどうかも怪しそうだ。
「ねえねえ、団長」
そんな状況でも、イツキは陽気な声をだす。
「五人でぞろぞろ歩いてても、効率悪いじゃん? だから、二つのグループにわかれたほうがいいと思うんだけど」
「うん、そうだな」
イツキのめずらしく建設的な意見に、我が団長はうなずく。
「それぞれのリーダーは、団長と、副団長であるあたし。そして、団長はしっかりしているから二人で、あたしは三人。で、あたしとキョン子ちゃんが一緒にいたら、おしゃべりに夢中になってちゃんと活動しないから、それぞれ分けたほうがいいと思うのよね」
そうまくしたてるイツキの声に、涼宮ハルヒコはうなずく。
「ふむ、一理ある」
その言葉を聞いて、イツキはニッコリと笑った。
「じゃあ、決定ね。団長はキョン子ちゃんとで、あたしはみつる君とメガネ君。これでOKでしょ?」
あれ? もしかして、はめられた? 私が呆然としていると、イツキが背中を押す。
「あんまりここにいると、ほかの人の迷惑になるからね。じゃあ、キョン子ちゃん、団長と一緒にがんばってね」
そして、私にほほ笑みかける。あの、何か期待しているのですか、この組み合わせ。
「しょうがねえな。じゃ、行くか」
我らが団長も、なぜか納得したようだ。私に声をかけて、歩きだす。まさかの涼宮ハルヒコとの二人旅に、私はあせる。
もちろん、デート気分で浮かれているわけではない。例えてみれば、砂漠にいきなり置き去りにされた気分である。イツキやみつる先輩とのんびり話しながら歩く予定が、他人のペースに合わせる気などさらさらない涼宮ハルヒコを、ひとりきりで相手しなければならなくなったのだ。これであせらないほうがおかしい。
「ほらほら、キョン子ちゃん。急がないと、団長の背中を見失っちゃうぞ」
そんなイツキの言葉にせかされて、私は歩きだす。涼宮ハルヒコはポケットに両手を入れて、そんな私たちをあきれた顔で見ていた。
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