7月8日 2
放課後になっても、俺たちは結論を出すことができなかった。
「結局何も分からなかったな」
俺は自転車のペダルをけだるげに踏み込む。
「せめて清水先輩が何か見ていればな」
篤志がため息をつく。自転車を漕ぐ足が楽になってきた辺りで赤信号に引っかかってしまった。
「お、篤志、それに元気じゃないか!」
俺たちは後ろを振り返った。
「また会ったな!」
俺は自転車に乗った章に向かって手を振る。章は俺たちと合流した。
「そういえば元気が研究部に入ったのは意外だったな。てっきりサッカー部に入ると思っていたから」
「いろいろあって、研究部がいいと思ったからさ、まあサッカー部に入ることも考えていたけれど」
「でも結構大変だよ。今年の1年生はうまい人が多いし、その分練習はハード。おまけに結構上下関係も厳しめ」
「確かに大変そうだな」と篤志が頷く。
「自転車の見回りに比べりゃ楽しいよ。そのせいで生活委員だから昼休みに駐輪場の見回りに行かなきゃならない。生活委員はサッカー部の人多いから顔合わせることも多くてさ。しかも毎回毎回オレたちが見回りする度に『前日も自転車のイタズラがありましたから見落とさないように』って先生たちが言ってくるわけ」
「オレたち、って?」
「駐輪場の見回りは当番制で、1年から3年のA組、B組、C組、D組で一緒の班になっていて、A組から順番に1日交替で見回りをしているんだ。C組の当番の前日に自転車のイタズラが起きているっぽい」
「C組の当番の日? それって毎回か?」
篤志は聞き返す。章と同じC組だから気になるのだろう。
「日付までは覚えてないけれど……昨日もイタズラがあったんだろう? そういえばその前の時も先週の金曜日にイタズラがありましたと言っていたし。そういえば3,4回しか見回りしていないのに毎回言われている気がするんだよな」
章は首を傾げている。
「なんか気になるな」
「冬樹先輩も言っていたし」
篤志は「こっちへ」と交差点の近くにあるコンビニへ自転車を引っ張っていく。俺たちは自転車を適当な場所へ止めると、篤志は自転車のイタズラのリストと6月、7月のカレンダーをポケットから取り出して日付しか見えないように広げた。昨日の白石先輩の件も書き加えてある。俺と章はリストを覗き込んだ。
「へー、そんなのまとめてるんだ」と章がつぶやく。
篤志がリストの日付を指さしていく。
「確か生活委員が見回りを始めたのが6月17日だから14日と16日に起きたイタズラの時にはまだ見回りはしていない。
見回りってA組から始まったんだよな?」
「ああ」
「だとするとおそらくC組の最初に見回りの日は17、18、19で、19日、だな」
俺は指を折って数えた。
「いや、違うだろ。18日は土曜日、19日は日曜日だ。休日だから見回り自体ない」
「あ、そうか」
篤志に指摘されて気付いた。ただ数字を順番に見ていけばいいものではない。
「だから18日と19日を飛ばして、C組の最初の見回りの日は20、21で21日だ。20日にイタズラが起きているぞ」
俺と同じクラスの
「その次のC組の見回りの日は、4日後の25日、いや土日を飛ばして27日。あれ、この日にいたずらが起きているぞ。その次となると31日……6月って何日まである?」
「30日までだ、元気。
――ということは7月1日。この日もやっぱりイタズラが起きている。おい、C組の見回りの日にイタズラが起きているぞ」
「――マジ?」
俺たちの会話を聞いていた章の顔が急に青ざめていく。
「どうした?」
「いや、それって偶然、だよな」
章が聞き返す。C組の見回りの日に何か起きているのは怖いに違いない。
「20日は違ったからまだ分からない。さらにその次は7日、7日って昨日か?」
篤志に聞かれてカレンダーを確認すると今日は8日。つまり7日は昨日。
「おかしいだろ篤志、昨日C組が当番なら今日の見回りで章と会うのは」
「でも日付上は昨日の見回りがC組、今日の見回りはD組になる。でも章を含めたC組の生活委員がやっぱり何人かいた。1年C組だけ間違えたのか?」
章がぶんぶんと横に首を振った。
「いや、それはないよ。2,3年生も同じ人たちだったし、間違えれば先生がすぐに気付く」
「それに篤志、今日は澄香の知り合いはいたみたいだが牧羽さんの知り合いはいないようだった。今日の当番がD組なら同じ1年D組の牧羽さんの知り合いくらいいるんじゃないか?」
澄香と牧羽さんは一緒にいたのに会話には澄香の名前しか出てこなかったし、女子の集団に手を振っていたのも澄香だけ。もしD組が当番なら、1年B組の澄香に知り合いがいて1年D組の牧羽さんに知り合いがいないのは不自然だ。
「そうなるとおかしいな。1日ずれてる」
篤志はリストの日付をもう1回確認した。やはり間違いはなかったようだ。
「となると20日から一昨日までに何か起きたって考える方が自然か」
リストを眺めていた篤志が思いついたように俺にリストを見せる。
「そういえば妙だな、ここは祝日もないのに丸々1週間開いている」
篤志は20日と27日の間を指した。
「ここはテストがあった週だな」
24日は中間テストがあり、その3日前からはテスト期間で部活動等は休止だった。当然研究部もテスト期間中は見回りを行っていないが24日はテスト明けで部活が再開されたので当然見回りをしている。
章は「あ!」と声を上げた。何か思い出したんだ。
「24日ってテスト当日だよな? そうだ、見回りは無くなったんだよ。だから当番も1日分ずれたんだよ。確かC組には『週末明けで忘れるかもしれないけれど見回りは火曜日です』と言われて、実際火曜日に見回りがあった」
「そうだったのか」
テスト当日は昼休みも短くなっているし、勉強したい人もいるから先生方が配慮して生徒の見回りは行わなかったのだろう。
「となると1日ずつずれていくっていうことは……やっぱり全部C組の見回りの前日に起きている」
「本当だ、じゃあまさかC組の前日ってことは、B組の見回りの日にイタズラが起きているってことなのか」
「そうだな」
篤志がそう言ってため息をついた。
「オレ、知らせた方がいいのかな」
「誰に?」
「ええと、B組の生活委員に。それから先生たち。サッカー部くらいになら話せる。1年B組の生活委員には
「どうかな。たまたま一致しているだけだから何とも言えない。それに、犯人の耳に届いたら意味がない」
篤志がきっぱりと言った。
「なら明日研究部の方の見回りに来てもらえばいいんじゃないか? 生活委員の見回りが終わった後くらいに」
俺の提案に、章も篤志も頷いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます