第三話『覚醒』(4)

AD三二七五年六月二三日午後九時三一分

 

 アシュレイの街から四〇キロほど南の荒野、そこを歩く二機のエイジスがいる。紅神と空破だ。

 鋼は再度レーダーを確認するが、追っ手は来ない。

 これほどの距離を逃げたのだ。さすがにそう簡単には追って来れまい。華狼も相当疲弊したため出そうにも出せないだろう。

 鋼は退屈に感じたからか、ふとルナに通信を入れた。


 別に聞く事もねぇじゃねぇか。


 だが鋼の心はそう思っても指は確かに通信パネルを開くボタンを押している。体の正直さには逆らえないと言うことだろうか。


『あら、鋼さん、どうしたの?』


 ルナは別に疲れた様子を見せてはいなかった。

 鋼はいきなり話を切り出す。


「おめぇは、実際どうなんだ?」

『何が?』

「おめぇの中に眠るとかいう力とやらだよ。どう思ってンだ?」


 鋼の質問がルナの心に深く刺さったとしか、彼には思えなかった。彼女の表情は暗かった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 何故か、話そうという気に、ルナはなった。確かに、普段聞かれると、正直嫌な気分になるし、時々異様な嫌悪感をも示すときがあった。

 本来ならば適当に理由を付けてごまかしていた。だが、彼になら、こいつになら真実を打ち明けてもいいんじゃないのか? そう言う想いが彼女の胸に飛来した。


「……あたしね、この能力が付いているの、生まれつきなの。聞いたことあるでしょ、コンダクターって奴」


 コンダクター、別名アイオーンレーダーとも呼ばれるアイオーンの存在を探知する事の出来る特殊な人類のことで千年前のラグナロクの寸前頃から姿を現しだした。

 今の時代はアイオーンを探知できるレーダーシステムが発展したためその能力は今や畏怖の象徴として扱われている。

 何故出て来たのか? それは一般的には知られていない。何故『導く者』の名前が与えられているのか、それすらもわからない。

 コンダクターには先天性と後天性とが存在し、後天性はアイオーンレーダー並びに能力強化以外ないが先天性の場合更に予知能力が付いている。

 ルナは先天性の四例目だった。千年で僅かに四例のみの存在。後天性も、数が多いとは言え、もし仮にレムがなっていたとしたら彼女は一一例目になる。


 生まれた時からこの能力を保持していたが故、常に『暴走』という爆弾を抱えて生きてきた。

 その上正確無比な未来予知も出来た。勘ではなく、予知だった。それ故に周囲から蔑まれ、誰にも心を開けなかった。

『自分は人間なのだろうか?』という衝動に、いつも駆られた。

 そんな中で出会ったのが格闘術だった。兄の友人から直接格闘術を習ったのだ。それが初めての友達だった。


『何かあるとは思ってたが、んなにでけぇもんだったたぁな』


 鋼は呆れるように呟いている。

 先天性の持ち合わせる予知能力、それにより彼女はいくつもの修羅場をくぐり抜けた。

 自分が嫌っているはずの能力が自分を救うというその皮肉加減が彼女は嫌いだった。

 今回のアシュレイ進入だって半分は予知能力のおかげだ。最初はただの偵察目的だったにもかかわらず、何故か予知能力で『何かが目覚める』と告げていたのだ。それ故に彼女はこのように敵地に侵入して鋼を迎えるという大胆な行動に打って出たのである。


「この能力のおかげで昔、誰も怖がって近寄らなかった。当然よね、子供って異質な者は避けるし。そりゃ、あたしも悪いとは思うけどね、子供の頃少し暗かったし。だから、昔のあたしは一人だった。ただいたのは父と兄と、たった一人の幼なじみだけ」


 幼なじみというのがルナの格闘術の師の一人である。初めて出来た友達だったから、彼女は今でもその人物を忘れられない。


『ってこたぁ、おめぇがあの血のローレシアで、唯一と言っていいほどほぼ無傷だった生き残りってわけか』


 ルナはただ一つ静かに頷く。


「それで父も兄も死んで、幼なじみも行方不明になってね。そして、あたしはホーヒュニング家に引き取られた。親戚だったからね、DNA鑑定でも証明されてるし」

『で、それで付いた傷がその火傷か』

「そういうこと」

『よくそんなんで腕動かせるな』

「別にこれ表皮組織だけよ。だから中身は何も関係ないの。別に他の部位はなんとかなってるし」

『なんでそれ除去しようとしねぇンだ?』


 鋼の言葉にルナは少しだけ暗い表情を覗かせる。

 確かに皮膚の再生手術なぞ今簡単に出来る。だが、ルナの火傷はどういったわけか、その技術が通用しないのだ。

 何をやってもダメだった。バイオ皮膚の移植手術をやろうかとも思ったが値段が尋常でなく高いためやめた。

 これも能力による『戒め』だろうか、彼女はそう思って生きている。


「してるんだけどねぇ……。自分でも分からないわ、これが」


 彼女は苦笑するようにそう言った。


『野暮なことだな』

「そうね。じゃあ、続き行こうか」


 ルナは呼吸を整えた後、再び話し始めた。


「最初ね、あたし、言葉話せなくってね、PTSDって奴よ」


 ルナはホーヒュニング家に引き取られてから一ヶ月間は失語症だった。

 更に事件のショックが大きすぎて塞ぎ込み、ホーヒュニング姓を獲得してからの一ヶ月間、家族との会話はなかった。いや、彼女がしなかった。

 たが、一ヶ月間レムと彼女の現在の親にしてベクトーア軍准将『ガーフィ・k・ホーヒュニング』の献身的な呼びかけでようやく口を開いたのだった。驚異的な回復力だと、医者から驚かれたのを今でも覚えている。

 ただ、話せなかった原因は自分にもあるとルナは思っていた。理由はと言うとこうだ。


「不安だらけだったから、っていうのもあるわね。だって初めて会う人の子供になるなんて考えられる? よくわからなくて、また一人になるんじゃないか、この人達は本当にあたしを家族と見てくれるのかとか、不安ばかりだった。だけど、養父さんとかレムがずっと支えてくれたから、あたしは言葉を取り戻すことが出来たの」

『で、てめぇはこの部隊に入った。なんでだ?』

「あたしは年齢を重ねるうちに徐々に真実を知りたくなったの。華狼側のテロっていう報道が嘘だって言うことくらいは軽く見当が付いた。わざわざ華狼が敵国であるこっちに上陸して民間の街だけ爆破してそのまま帰るにしては不都合が多すぎるからね。それで志願したの、戦って真実を確かめるために。それにこの部隊は情報網も充実してるし、何よりも上層部に食い込めるほとんど唯一の特務部隊。だからあたしはこの部隊へ行くことを希望したって訳」


 ルナは重いため息を付く。

 しかし、その後彼女ははっとした。


「あ、ごめんなさい。あたし何話してるのかしらね。なんで、こんな事話していたのかしら? 変ね、自分のこともわからないなんて」


 彼女は苦笑する。

 会ってまだ、数時間しか経過していないのに、何故自分はこうも話しているのか、ルナには分からなかった。

 口が、何故か止まらなかった。珍しく、熱も帯びていた気もした。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「誰も、自分のことなんざわかりゃしねぇよ。わかることと言やぁ、ただ目の前にあることだけだ。それ以外はっきり真実と言えるもんは存在しねぇ。自分が何者なのか。俺は時々それがわかんなくなる」


 鋼はどこか冷めた表情で淡々と言っていた。

 実際この通りだった。未だに自分が何者なのか、二三年も生きてきてはっきりしない。


「だが、何も考えねぇっつーのは自分てめぇから逃げてるってことだ。俺は逃げる気なんざぁねぇ。てめぇをてめぇたらしめられるようにするために、な」


 自分が自分であること、それが彼の追い求めるすべてだ。

 自分が自分でありたいと思いつつも、自分以外の何かにもなりたいとも思う時がある。

 矛盾した存在なのだ、我々人類は。その矛盾をいかに取り払うか、それはいずれ彼等が証明してくれる。

 そのためにこの物語があるのかも知れない。


『あなたの言葉って、説得力あるわね。なんだか、地獄を見てきたみたい』


 ルナの眼をモニター越しに見てもどこか鋼は不思議な気分になった。

 何もかも見透かしているような水のような輝きが彼女のダークブラウンの瞳にはあった。


「……何故、そう思う?」

『眼を見ればわかるわ。あなたの眼の奥には底知れない血がある。何かあるんじゃないかって思ってたわ』


 今度はルナの言葉が鋼に刺さった。

 何故かすべてを見透かされたような気がした。

 どこか、ルナの存在は不思議だった。言いようのない何かが彼女にはある。

 何者なのか。それに鋼は異様に興味を持った。


『体が再生する「あれ」のことについて? むしろ便利じゃない? 死なないんでしょ?』


 何か、鋼の中で理性が一瞬飛んだ。

 ワナワナと手が震え、殺気だった目でルナを睨め付ける。


「死にたくても死ねねぇんだよ。痛ぇってぇのによぉ。死んだ方がマシってくれぇの痛みにすら耐えるんだぜ? 地獄以外のなんでもねぇ……! 楽そうだなんて気楽に考えンな!」


 鋼の怒号はルナをハッとさせた。それと同時にルナは自分に対する罪悪感が広がった。

 傷つけるつもりはなかった。なのに傷つけた。それが嫌だった。

 自分が今まで虐げられてきたためそういう風になったときの気持ちが彼女には痛いほどよくわかるのだ。

 彼女は少しだけ泣いていた。


『あ、ご、ごめんなさい……。本当に、あたし……なんで、こんな事を……? ……ごめんなさい……』


 鋼はその様子に溜め息を吐く。少し言い過ぎたかとも思った。

 少々感情的になりすぎるのが自分の悪いクセだと、鋼は認識しているが、そればかりは治らない。

 だからこう言った。


「泣くな。悪ぃ、言い過ぎた」


 素っ気ない一言だったが、ルナの心が少し晴れたのか、ルナは涙をぬぐう。

 そして、鋼にまた謝った。


『ごめんなさい。言うもんじゃなかったわね……』


 本気で謝っている。そう感じた。

 この女もまた、嘘をつくことの出来ない人間なのだろうと、ふと鋼は感じていた。

 だからだろうか、いつの間にか、


「ナノインジェクションだ」


と、鋼の口が開いていた。

 だが、その言葉遣いは淡泊だった。


『え?』


と思わずルナも聞き返してしまったほどに。


「聞いたことねぇか? 昔どっかのバカ研究者がやり出したっつー不死の兵士を作る計画のことだ」


 一〇億分一メートルの大きさの超小型ロボット『ナノマシン』。一九七六年にMITの学生が考え出したものでその構成物質は蛋白質であるために人体に有害ではない。そして人体に病原菌が入ったときだけ発動し、病原菌を倒したら分解して、人体に吸収させるということが可能である。

 このシステムが実際に利用され始めたのは一〇〇〇年近く前の話だ。だが、時が進むに連れナノシステムは徐々に発展し、今(三二七五年)では医療用としても使われている。

 それから発展したのが、ナノインジェクションだった。

 元々は宇宙開発の場で病原体が体に入ってもすぐに撃滅できるようにするために考え出された計画だったらしい。

 ところが約三〇年前、ある科学者がこの計画の軍事転用を考えた。肉体再生プログラミングが施されたナノマシンを血中投与することでほぼ無限大の再生を繰り広げ、なおかつ洗脳を施さすことによる従順な兵士の大群を作り上げる、そう言う計画へと変わっていった。


『それが……まさか……?!』


 さすがにこればかりはルナも予想できなかったのだろう。さすがに表情が驚愕に満ちていた。

 それもそうだ。生き残ったのが自分と村正の二人だけだし、だいたいこのプロジェクト自体が闇に葬られ今では噂程度にしかなっていないのだ。

 だからこそ奇異な目で見られ続けたのだ。


「信じらンねぇのも無理ねぇよ。だが、てめぇも見たろ? 俺の体から傷が瞬時に消えたのを」

『そうだけど……でも、やっぱり、信じられない……』


 互いの表情が徐々に硬くなる。


「信じる信じねぇは勝手だ。だが、それが地獄を生み出しやがった元だ。だから俺はそいつの情報も求めているって訳だ」


 鋼ははぁと、大きくため息を吐いた。その後彼は自分の義手を掴む。


「あまつさえこいつだ。どうしても反応速度が低下するから左半身神経組織の光ファイバー化までやっちまった。俺は最早人間とはほど遠い位置にある存在でしかねぇのかもしれねぇな……」


 鋼は呆れるように言った。

 彼は自分の存在意義もわからない、自分が何かもわからない。そんなことがある。

 一度だけ、死のうかと考えたときがあった。だが、死ぬに死ねなかった。何故かは分からない。その後暫く、何もかもが無気力になったことがあったが、傭兵の友に救われた。

 だが、やはり時々、無力感のような何かが襲う。はっきりとはわからない。今は、それは久しぶりにぶり返していた。

 そんな様子にルナは、鋼の言葉を否定するかのように声を上げて言った。


『そんなこと言わないで!』と。


 鋼はそれに驚く。


『悲観的になるの、止そうよ。あたしだって、人じゃないのかもしれない。でもね、人として生きたい。誰がどう思おうがあたしは人でありたい。あなただって、そう思うんでしょ?』


 鋼ははっとすると同時に、自分自身に呆れた。

 男は、いつまでもグチグチと悩むべきではないのだ。


「わりぃ」


 溜め息混じりに、鋼が謝った。


『「まあまあ、そう感情的にならない。世の中気楽に渡っていこう」』


 ルナの口から妙に雰囲気の違う言葉が発せられたことに鋼はかなり驚いた。


「はぁ?」

『レムの受け売りだけどね、今の言葉。あなたにはこんな言葉がぴったりね』


 その瞬間、何がおかしいのかよくわからなかったが、少し鋼は笑った。


「てめぇの口からんな言葉出ても説得力ねぇっての。つーか、微妙に似合わねぇ」


 ここでルナの表情にも笑みがこぼれた。


『そう言う自然な笑みも浮かべられるのね』


 ルナに言われて鋼はハッとする。

 内心そう言う表情をしている自分に驚いていた。

 笑ったのは、いつ以来だったか。思い出そうとしても、思い出せなかった。それくらい昔だった。

 直後、紅神のレーダーが反応した。その瞬間鋼から笑みが消え厳しい表情になる。


「敵か?!」

『え?! 嘘……って、驚かせないでよ、ありゃ味方よ』

「んだよ……。驚かせンな」

『それはこっちの台詞でしょ。ブラスカとアリスね』


 前方には二機のエイジスがいた。

 一機は全身青一色の重装甲、そして異常に馬鹿でかいマニピュレーターが目を引く機体だった。

『BA-012-H不知火しらぬい』、ベクトーア機械開発部第十二課が開発した『012シリーズ初期ロッド』と呼ばれているシリーズの重装甲高火力型テストタイプだ。ファントムエッジが陸上機動力重視型テストモデルであり、実質この機体はファントムエッジの兄弟機に当たる。

 ベクトーア機械開発部第十二課は六五年に初めて設立された新進気鋭の開発部だが設立当時から戦車や装甲車などで相当強い働きを見せ、七一年からはM.W.S.の開発を開始。そして七三年に初めてエイジスを開発した。その時にそれぞれ特化しつつも共通パーツを盛り込んだエイジスを五機開発、それが『012シリーズ初期ロッド』で、不知火はそのうちの四番機に当たる。


 もう一機は赤を基調としたあからさまに遠距離砲撃を考えて設計されたボディバランスが目を引く機体だった。

『BA-08-Lレイディバイダー』。正確にはベクトーア機械開発部第八課で六機開発された遠距離支援砲撃戦闘用エイジス『BA-08-L』の二号機でアリスカスタムである。


『遅いで、おのれら』


 ブラスカから通信が来る。その後アリスからも通信が来た。紅神の横モニターには三人の顔が映し出されて結構狭い。


『ホント、もう少し早く来なさいよ。それにしても、あんたら初めて会ったにしては親密じゃない?』

『え?! 聞いてたの?!』

『通信開いたらもろ聞こえね』


 鋼とルナは会話内容が全部聞かれていたことに少し恥ずかしがった。

 そして、そういう会話で調子を整えたアリスは軽く鋼に自己紹介する。


『自己紹介がまだだったか。あたしはアリス・アルフォンス。この部隊のスナイパー兼裏朝廷。金の管理はあたしがやってるわ』

「ってことは、俺の金は全部あんたの手の内って事か?」

『察しがいいわね。ま、その手の事も含めて、一度行くか』

『さっさと登るで』

『付いてきて』


 紅神は空破、不知火、レイディバイダーの後に続いて上空へとブースターをふかして移動する。

 そして雲を切り裂いていった先にあった物に鋼は驚きを隠せなかった。

 そこにあったのは、全長五〇〇メートルはあろうかというベクトーアの最新鋭空中戦艦『エクスガリバー級四番艦「叢雲むらくも」』だった。

 輸送機よりも遙かに優れた輸送力と豊富な装備、そして居住性を兼ね備えた、国の威信を賭けたもの、それが空中戦艦である。

 コスト故に製造された艦も少なく、いざ製造するとしても桁違いのコストが掛かる。故に空中戦艦の保持部隊はそれだけで艦隊と見なされる。実際ルーン・ブレイドも正式名称は『ベクトーア海軍第四独立艦隊ルーン・ブレイド』となっている。


 だが、空中戦艦という物はブラックボックスも多数存在する。

 それもそうだろう。これ程巨大な物体を常に宙に浮かし続けるなど、相当強力なジェネレーターがない限り無理な話だ。

 それを可能にしたのが『SPIRIT(Spirit-Power Ideal Reaction and Immediacy Transeforming)ジェネレーター』である。

 スピリットとも呼ばれるこれは『RLラインハイトレヴィナス』と呼ばれる純度九九.九パーセント以上のレヴィナスを媒体として動かすシステムであり、元々は最初期のプロトタイプエイジスに搭載されていた、いわばマインドジェネレーターのプロトタイプモデルとも言うべき存在だ。


 この船に装備されているのは『T-5スピリットジェネレーター改四型』が詰まれているが、この地点で大概の読者は妙に感じたであろう。

 そう、このジェネレーターはその名の通り精神力を媒体とするはずなのだ。だが空中戦艦の特性上、どだいそれは無理な話である。

 一体何のパワーで動いているのか、それは最大の機密にして、最大のブラックボックスなのだ。

 一応『かつてアーク遺跡から出土したと思われるRLを媒体とした超高エネルギー体で動いている』と言っているもののそれを納得する人物はそういない。

 だが、それを確かめようとする者もいない。かつて他の艦隊で確かめようとした者がその後『消息不明』になったくらいだ。誰だって自分の命は惜しいため調べようとする者がいないのである。


『どう、うちらのホームは?』


 ルナは自信に満ちた表情を見せた。恐らく彼女の頭を考えると、疑問に思っていても仕方がないだろうが、さすがにこれ以上命を張る気にはなれないようだ。

 それに、扱えれば便利な代物であることは間違いない。


「でけ~……」


 鋼は感嘆の息をもらした。その後、叢雲から通信が入った。対応するのは若めの女性だ。


『認証コードを確認します』


 鋼はメールに添付されていたそのコードを何も見ずに言い放つ。


「269B-35781-6240173E」


 こんなコードを何も見ないで言うことの出来る傭兵はそういない。この男、記憶力だけはやたらといい。


『確認しました。ようこそ、叢雲へ。今回の任務のオペレーターをつとめさせてもらいますミリア・ライドです、よろしく』


 ミリアの少しクールな印象を持つ声がコクピットの中で反響する。


「ああ、頼む」


 鋼は素っ気なく言った。


『そんなに素っ気ない態度示していると、嫌われるわよ?』


 大胆すぎる発言だ。少々きつめにも思える。

 鋼ははあ、と軽くため息を吐いた。


『さて、各員は第六ハッチから帰還して下さい。第六ハッチ開放します』

『了解』


 四機は開かれた叢雲の後部ハッチへと入っていった。

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