第9話 告白


 放課後、クラスの女子たちが話している声が聞こえて、私はどきんとした。

「ねえ、隣のクラスの山藤りっちゃん、修学旅行の時に他のクラスの男子に告られたらしいよぉ」

「えー、誰っ、だれー?」


 私は会話を最後まで聞き終わらないうちに、律のところに向かっていた。

 とうとう純のやつ、律に告白したのぉー? うっわ、聞いてないよ。


 隣のクラスをのぞいたら、部活に行く支度をしている律が、私を見つけてにっこり笑う。

「り、律。 ちょ、ちょっと」

 手招きする私に「なあに」と律が駆け寄ってきた。

「あのね、修学旅行の時、誰かにすきって言われた?」

「え。 何の話?」

 律がきょとんとした目で、私を見る。


 その時、廊下の向こうからすごい勢いで走ってくる純が見えた。

 は? なに、こっちに向かって猪突猛進だよ。

「や、山藤! 誰だよそれ、オッケーしちゃったの?」

 もう答えを待たずに、たたみかけちゃってるよ。


「あ、俺、修学旅行の時は勇気でなくて、やっぱり卒業する時だよなって。でも、誰かに先越されたら嫌だし……」


 あー、純。それは、皆まで言わなくても、もう告ってるよ……。

 自分のことには鈍感な律だって、顔が赤くなってる。


「おい、純! こんなとこで大胆だなー」

って、サッカー部の栗村に言われるまで、本人気づいてないし。

「え、あ、やばっ。俺……」

 かぁーって真っ赤になる純を、周りがひやかす。


 廊下が騒がしいので、葉月先生が何だろうと顔をのぞかせた。

 すると律がその姿に気づいて一瞬困った顔をしたあと、私の目を見てからぶんぶん首を横に振って、「わたし、むりっ」って言って、逃げて行っちゃったんだ。


 もう純がショック受けて肩落としてる姿と来たら、見てられなかったよ。



 帰り道、元気出してと、背中を叩く。

 ちょっと力入りすぎたかな。ちと恨めしさが出ちゃったか。

「いってーなー。 傷心してんのに、もっと優しくしろよー、蒼ー」

 ほんとに今日は10センチくらい縮んで見えるね。


「あのね、純。律がすきな人、知ってるでしょ」

「おお。葉月先生だろ。でも相手は先生だよ?」

「そうだね。だからね、見守っててあげなよ、まだ今は。卒業して、一緒の高校に行ったら、きっとチャンスあるよ」

「慰めてくれるんだ。サンキュ……」

「あきらめんの? たった一回で? もっと押さなきゃ。だらしないなぁ。陸上部のキャプテン!」


 一呼吸おいて、私は伝える。

「律はさ、純のことも気になってるんだよ。近くにいるからわかるんだ」

「さっき、むりって言われたぜ……」

「あれはね、私に遠慮してたんだ」

「へ? なんでお前に? ああ、お前が俺をすきだから?」

「はあ? 何言ってんの? どの口がそんなことをっ!」

「なんだ、ちがうのか」

「そんなわけないでしょー。でも律はそう思ってる、きっと」

「俺たち、昔っからの腐れ縁なのになー」



 すきだよ。



 私は一瞬、立ち止まって、心から叫んだ。

 声には出さなかったけど、全身で叫んだんだ。



 いつか、言ってみたかったけど、伝えてみたかったけど、こんなしょげてる君を見たら、そんなこと言えないよ。


 ばか。この鈍感。って怒りたかったけど、代わりに笑っちゃうよ。

 ぜったいこいつの前で泣いたりしない。家まで我慢する!


「蒼、俺たち、高校で別々になっても、ずっと友だちでいような」


 その言葉でとどめを刺されたよ。はぁ、玉砕だぁー。






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