第9話 告白
放課後、クラスの女子たちが話している声が聞こえて、私はどきんとした。
「ねえ、隣のクラスの山藤りっちゃん、修学旅行の時に他のクラスの男子に告られたらしいよぉ」
「えー、誰っ、だれー?」
私は会話を最後まで聞き終わらないうちに、律のところに向かっていた。
とうとう純のやつ、律に告白したのぉー? うっわ、聞いてないよ。
隣のクラスをのぞいたら、部活に行く支度をしている律が、私を見つけてにっこり笑う。
「り、律。 ちょ、ちょっと」
手招きする私に「なあに」と律が駆け寄ってきた。
「あのね、修学旅行の時、誰かにすきって言われた?」
「え。 何の話?」
律がきょとんとした目で、私を見る。
その時、廊下の向こうからすごい勢いで走ってくる純が見えた。
は? なに、こっちに向かって猪突猛進だよ。
「や、山藤! 誰だよそれ、オッケーしちゃったの?」
もう答えを待たずに、たたみかけちゃってるよ。
「あ、俺、修学旅行の時は勇気でなくて、やっぱり卒業する時だよなって。でも、誰かに先越されたら嫌だし……」
あー、純。それは、皆まで言わなくても、もう告ってるよ……。
自分のことには鈍感な律だって、顔が赤くなってる。
「おい、純! こんなとこで大胆だなー」
って、サッカー部の栗村に言われるまで、本人気づいてないし。
「え、あ、やばっ。俺……」
かぁーって真っ赤になる純を、周りがひやかす。
廊下が騒がしいので、葉月先生が何だろうと顔をのぞかせた。
すると律がその姿に気づいて一瞬困った顔をしたあと、私の目を見てからぶんぶん首を横に振って、「わたし、むりっ」って言って、逃げて行っちゃったんだ。
もう純がショック受けて肩落としてる姿と来たら、見てられなかったよ。
*
帰り道、元気出してと、背中を叩く。
ちょっと力入りすぎたかな。ちと恨めしさが出ちゃったか。
「いってーなー。 傷心してんのに、もっと優しくしろよー、蒼ー」
ほんとに今日は10センチくらい縮んで見えるね。
「あのね、純。律がすきな人、知ってるでしょ」
「おお。葉月先生だろ。でも相手は先生だよ?」
「そうだね。だからね、見守っててあげなよ、まだ今は。卒業して、一緒の高校に行ったら、きっとチャンスあるよ」
「慰めてくれるんだ。サンキュ……」
「あきらめんの? たった一回で? もっと押さなきゃ。だらしないなぁ。陸上部のキャプテン!」
一呼吸おいて、私は伝える。
「律はさ、純のことも気になってるんだよ。近くにいるからわかるんだ」
「さっき、むりって言われたぜ……」
「あれはね、私に遠慮してたんだ」
「へ? なんでお前に? ああ、お前が俺をすきだから?」
「はあ? 何言ってんの? どの口がそんなことをっ!」
「なんだ、ちがうのか」
「そんなわけないでしょー。でも律はそう思ってる、きっと」
「俺たち、昔っからの腐れ縁なのになー」
すきだよ。
私は一瞬、立ち止まって、心から叫んだ。
声には出さなかったけど、全身で叫んだんだ。
いつか、言ってみたかったけど、伝えてみたかったけど、こんなしょげてる君を見たら、そんなこと言えないよ。
ばか。この鈍感。って怒りたかったけど、代わりに笑っちゃうよ。
ぜったいこいつの前で泣いたりしない。家まで我慢する!
「蒼、俺たち、高校で別々になっても、ずっと友だちでいような」
その言葉でとどめを刺されたよ。はぁ、玉砕だぁー。
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