モンブラン
坂入
くるくる
学校の帰り道、甲高いブレーキ音が聞こえたので振り返るとトラックが人を跳ね飛ばしたところだった。轢かれた人はくるくる宙を舞って地面に墜ちた。ぐしゃ。
あれは完全に死んだな、と思うと運転手も同じことを思ったのか、トラックは急発進して何処かへ行ってしまった。
目撃者の義務として私は倒れている人に近寄り、声をかける。遠くから見たときは絶対に死んでるなと思ったが、近くで見ると間違いなく死んでいた。声をかけた甲斐もない。
と、私はそこで初めて、死んでいる人の顔に見覚えがあることに気づいた。私は、この人の顔をよく知っている。
それは、私だった。私が死んでいた。
途端、胸の中に哀しみが溢れる。死んでいるのはどう見ても私だ。腕には昨日のバレーの授業でついた青あざがあり、ふくらはぎのところには三つ並んだほくろがある。ポケットに入れていた携帯電話は轢かれた衝撃で道路に投げ出され、お気に入りのストラップは壊れてバラバラになっていた。
死んでしまった私。まだやりたいことがあったのに。まだ死にたくなかったのに。まだ生きていたかったのに。
私は私の死体を揺り動かし、必死になって声をかけた。死なないでと言った。こんなのは嘘だと言った。返事をしてと言った。それでも私は死んでいた。
どれだけの間そんなことをしていたのか、気がつくと周りには人だかりができ、パトカーと救急車が到着していた。
警官は死体から離れようとしない私を無理矢理引き離し、その隙に救急士が私の死体を救急車に乗せた。そしてサイレンも鳴らさず発進した救急車が私の死体を何処かに持っていってしまった。それを呆然と見送る私。
私は私が死んでしまったことが哀しくて哀しくて、泣きながらその場を離れた。哀しくて哀しくて、泣きながら歩いた。
涙で前が見えなかった。胸が詰まって上手く喋れなかった。哀しすぎて、涙が止まらなかった。
哀しくて泣きながら歩いていると、唐突に、音。
甲高いブレーキ音が聞こえたので振り返ると、目の前にトラックがいた。そしてトラックは私を跳ね飛ばした。
勢いよく跳ねられ、私の体は浮遊する。回転する視界の端に、人影が映った。それは、私だった。跳ね飛ばされた私を目撃している私がいた。
あの私は、きっと私が体験したようにとても哀しい想いをするのだろう。私がそうだったように身を切られるような想いに打ちひしがれ、涙を流すのだろう。そう思うと、私が轢かれたところを目撃した私のことが哀れに思えた。なんて可哀想な私。
そして轢かれた私はくるくる宙を舞って地面に墜ちた。ぐしゃ。
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