なんてことはないただのよくある話
市伍 鳥助
ナイフがあるなら臓物抉れ
いつか見た夢の中で私はどこにもいなかった。主観ですら私はいなかった。どの視点を漁っても私は見当たらなかった。
世界に私はなく、だのに私に世界は与えられた。
そんな感じの夢だった。
夢の内容自体はなんてことはないのだ、本当に。誰でも見るような愉快に素敵なストーリーさ。
笑顔の男の子と女の子が手を取り合ってダンスを踊り、大人たちはその子供たちをニコニコとこれまた笑顔で眺めている。そんな幸せそうな風景だった。
今でもよく覚えている。夢から醒めた私は乾燥して擦れた声で「死ねばいいのに」と呟いたのだ。
幸せなんてクソくらえだ。ほんとにうんこでも食べてればいいんだ、それでもお前らはきっと笑うんだから。
きっと、今の自分が根を張ったのはその日からだった。だから本当に、よく、覚えている。私の誕生日。
人生の半分も生きていないクソみたいな私が人生に対して不満を覚えるのは、やはり、どこにでもあるようなくだらない話なのだ。
誰かが一歩を踏み出すたびに舌打ちをしたくなる。色んな意味でアレだからやりはしないのだが。
そんな風にかなり卑屈に捻れた私は、まったくもってどうでもいいことなのだが、個人的にはまったくもってどうでもよくないことなのだが、人間というものが多分に嫌いだ。
だから本当は自分も嫌いだ、でも自分だから好きになるのをやめられない、うん仕方ない。
まあ何はともあれ、私は人間のことが嫌いだ。
「ボランティアをやってる奴らは偽善者」とか「あいつを虐めるのは悪いことじゃない、むしろいいことだ」とか「動物を殺すなんてひどい!そんなやつは死んでしまえ!」みたいなアレ、ひどく気持ちが悪い。
考えてみればわかることだろう、考える頭があればの話だがな鳥頭。
偽善者なんて存在しないものを祭り上げて、さも鬼の首を取ったかのように踊り狂う馬鹿。
集団で個を叩くことで己が正義だと、それが当然だと振る舞う醜悪な何か。
自分の矛盾に気づけない、いいこと言ったぜと満足気味に気持ち悪い笑顔を浮かべる阿呆。
どれを取ってみても気持ち悪いだろう。
正しい正義などありはしないのに、それはあるのだと盲信するやつらなど醜悪極まる。
気持ちが悪い、反吐が出る。
死んでしまえと叫びたい、いや叫んでる。これに関しては毎日叫んでる。
私は毎日叫んでいるのだ。
「人類に災いあれ、世界に幸福あれ」と。
私の手元にナイフがあり、目の前に見るも無残な汚物どもがいたとして、私はそれらにナイフを突き立てることはできない。
汚いものは触りたくないからだ。
もちろん私の心にも醜悪な何かが巣食っている。自覚してないやつらよりはマシだと言い聞かせながら、消すことはできないことも知っている。
私の手元にナイフがあり、私に痛みというものがないのなら、全ての臓物を抉り出して、それを道端にばらまいて、人類への怨嗟を死ぬその瞬間まで享受することにしよう。私は痛いのは嫌いなのだ。
支離滅裂、首は明後日を向いており、身体は正面を向いている。それが私なのだ。
ここまで読んだ人はよほど暇か、なんだこいつは気持ち悪いと文句を言いたい人のどちらかだろう。
私は誰もを信用するが、誰もを信頼しない。
結局人間不信の亜種のようなものだ。
それがこじれにこじれてこうなっている。
明日の私は今日の私を呪うだろう。
なぜまだ生きているのだと、怒り、呪うだろう。
死んでしまえの怨嗟を込めて、全ての人類にアイヘイトユー。
たとい私が死のうとも、私の怨嗟は血を抉る。
私は私の愛する世界のために。
人類よ滅びろと、常に呪いを口ずさむ。
陽気な音楽と一緒に血の池地獄に身を沈め、私は二度と起き上がることのないように、ただ眠りにつくのみのみ。
私の話しをきいてくれて、みてくれて、ありがとう、死ねばいいのに。
なんてことはないただのよくある話 市伍 鳥助 @kazuki0405
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