第二話:暁天:

「お前らいい加減にしろよ・・・!!」

“勘一”さんはそう言って、正座している私達を見下ろすようにしました。

すると、“ジョーカー”さんが退屈そうに口を開きました。

「だってよー。夜天の方には女子の看守がいっぱいいんのによー。俺ら暁天は女子一人もいねーじゃんかよー」

暁天夜天とは、この月星刑務所にある房の呼び名です。星の名前や月の名前が房の呼び名になっているそうです。

「むっさ苦しくてさー。女と言えば“ルビー”と“マロン”ぐらいだけど、毎日会うと色気を感じないんだよなぁー」

「あら、あたくしもルビーも貴方に色気を見せようと思って毎日を過ごしているわけではなくってよ?」

マロンさんがそう言うと、隣にいた“ブラウン”さんは頷いて、マロンさんの茶色い髪をふわりと撫でました。

「第一、マロンの美しさを毎日見ていて飽きるとは、君には本当の美を理解していないという事さ。まったく、実に悲しい事だよ。ねぇマロン」

「まったくですわね、ブラウン。それに、ブラウンの美しさがジョーカーの口からは一言も出て来なかったわ。ブラウンの優雅さと美しさがわからないなんて、可哀想ですこと」

マロンさんはそう言って、ブラウンさんの茶色い髪を撫でました。ジョーカーさんは眉間に皺を寄せて、二人を見ています。

「・・・つーかよー、マロンもブラウンも自分で美しいとか言ってんの?知ってるか?そういうの、『自己満足』って言うんだぜ」

「・・・へぇ」

「自己満足ねぇ・・・」

ジョーカーさんの言葉に反応した二人の顔が、みるみるうちに険しくなっていきます。

「ルビーは見たらだぁーめっ♪」

“ギア”さんがそう言って、私の量目を掌で塞ぎます。

すると、目を塞がれた瞬間に、ジョーカーさんの悲鳴が聞こえました。

「え、あの・・・」

「だぁーめっ♪」

ギアさんはそう言って、手を動かそうとしません。ジョーカーさんの悲鳴と共に、たまにゴッ!とか、バキッ!という音がしているのがわかりました。

五分程たって、ギアさんがようやく手を離してくれました。急いでジョーカーさんの方を見ると、ジョーカーさんが地面にのめり込み、マロンさんとブラウンさんが勝ち誇った笑みを浮かべていました。

「あれって、何が・・・?」

ギアさんと勘一さんに尋ねましたが、二人は何も言ってくれませんでした。

「ゴフンッ。とにかく、だ!お前ら、これで何回目だ?」

勘一さんが咳払いをして、私達に鬼の形相で尋ねました。

私の隣にいたギアさんは、にっこりと笑って「ん〜っ♪」と唸りました(唸るというか、笑っているに近いです)。

「何について聞いてるのぉっ?キャハッ♪」

「牢屋から出た回数以外に何があるんだ?え?」

黒い笑みを浮かべて、ギアさんの顔にグイッと近づく勘一さん。でもギアさんは動じていませんでした。

「数えた事ないからわかんなぁーいっ☆」

「・・・じゃあどいつが牢屋のドア開けたかはわかるよな?」

勘一さんが黒い笑みのままで尋ねましたが、ギアさんはにっこりと笑ったままでした。

「ボクでぇぃーすっ!うぇーいっ♪」

「死にてぇのかテメェは」

「死にたくないっ♪今度は緑色に染めてみたいもーんっ♪」

ギアさんはそう言って、パーマのかかったグレーの髪を指でいじりながら笑いました。

そんなギアさんを見て、勘一さんの眉間に深く皺が刻み込まれました。

そんな勘一さんを見て、マロンさんが口を開きました。

「そんなにカリカリして、はしたなくってよ。そのような様子ではお嫁に来て下さる方などいらっしゃらないのではなくって?」

「ほっとけ!!」

「え、でも勘一彼女いたんじゃなかったっけ?純日本人のあの子」

床から起き上がったジョーカーさんの問いに、勘一さんの動きが止まりました。

「・・・・」

「・・・・」

「・・・・」

「・・・・」

「・・・・」

「・・・・」

沈黙が流れました。

そして。



「「「「あーははははははははあっ!!!!」」」」

大笑いする声が響きました。

「何それ!?何だそれ!?ウケるー!!マジで面白ぇ!!」

「本当にいらっしゃらなかったなんて・・・フフッ・・・」

「っ・・・フラれたんだね?フラれたんだね勘一君!?」

「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっっっっ!!!!!!!!!!!!!!」

皆さんが大笑いして色々な事を言うものですから、私も何か言わなければならないと思い、口を開きました。

「・・・御愁傷様です、勘一さん」

「ルビーそれとどめ!!」

私の言った言葉に、ジョーカーさんが指を指してそう言いました。とても楽しそうに笑っています。

「・・・・・?」

「うっフフフッ・・・気にしないでよろしいわ・・・ウッフフフフフ・・・」

「・・・いえ、あの・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

皆さんが大笑いしている中、無表情で拳を握りしめる勘一さんが、私の目にとまりました。

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第一級問題人物“達” 櫻尊 @gajiru

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