第19話
午前中 クルマの中 咲裕美もいる
高塚屋へ挨拶に、私と咲裕美が行ってるんやわ。
咲裕美はオカンが付いて行き! の一言で同乗や。まあ、昨日のやりとりからやな。
「お姉ちゃん、後で運転させてのぅ」
咲裕美が、目を輝かせながら言うたわ。
咲裕美、免許取り立てでクルマ欲しい言うてるんや。
気持ちわかるわかる、私も欲しいわ。
家の営業用の軽ワゴンは、仕事用のクルマやし……私も買いたいなあ。
豆知識やけど、福井は一家に一台のクルマなんて常識的は非常識なんやな。
運転免許持ってる人間に、最低クルマ一台なんやって。
六人家族で大人が四人の家族構成があるとして、平均一台半はあるんやざ。
生活水準は高いようんや。
クルマで決める訳ではないけど、ある程度の目安にはなるやろ。
とは言え私はない。
咲裕美は免許取立、まあここは仕方ない。
クルマ欲しいわあ。
「どうしたんや? ため息ついて」
咲裕美に心読まれたかぁ。
しらばっくれたる。
「別に……アンタなあ、運転大丈夫なんか?」
「当たり前やざ、こう見えても事故ったことはいざ!」
咲裕美が自慢げにいうんやけど、アンタはペーパードライバーやんけ!
正直心配や、明日の新聞に姉妹が死亡と出たらシャレにならんて、ここは私が運転や。
つまり、信用しとらんのやって。
高塚屋 裏口
「ああ、桜井屋さんかあ。ご苦労様です」
裏口より高塚屋の女将さんに、挨拶されたわ。
高塚屋は女将さんてと呼ばれる規模の和菓子屋で、福井でもなかなか大きい部類や。
因みに大名閣は、グループ持たんのや。
単独なんやわ。
「今年も、いろいろお世話になります。菓子フェアーにお付き合いお願いします」
「はい、お願いするでの」
女将の笑顔や。
ここの女将、オカンの同級生で友達なんやって。
とは言え、家のオカンとは偉いちがう。
何がちがうか。
色気が違う。てか、本当にオカンと同い年なんですかぁ? て、いつも思うんやって。
聞いた話では、高塚屋(ここの)社長が女将に一目惚れしたんやて。
わかるわぁ。
「福井西地区、去年はあまり評判がいまいちやったらしいざ。今年は巻き返しせなあかんな」
色気のある口元から、少しキツイ言葉が漏れたわ。
ここは、和菓子屋出店の説明するの。洋菓子は今回説明せんざ。
まず、私らのグループは福井西地区と言われてるんや。
これは県庁所在地から見て、私らが西にあるかららしいんやけど、高塚屋さんはどちらかというと南寄りや。
まあ、高塚屋の支店が、西地区にあるかららしいんやけど……
この時点で、高塚屋が大きい店ってわかるやろ。
支店があるんやで。
グループは五つあり、西、東、北、南、そして中央や。
それと県外から、名がある和菓子屋がボチボチと来るんやわ。
それを県産業会館で、一日かけてやるんやざ。
因みに南地区にはもう一つ大きい菓子屋があり、そこがかち合うらしいから、高塚屋さんは西らしい。
東地区と北地区は大きい店がないから、みんなで意見交換会みたいに和気あいあいとしとるんや。
中央は大名閣や。
県庁所在地に近くにあるからやって、ばあちゃんから聞いたことある。
さて、女将さんが怒る理由やけど、実は西地区には負けてはいけない地区があるんや。
どこやと思う?
中央ではないざ。
大名閣とは、よほどのことがないとヤリやわんって。
じゃあどこか?
……南地区や。
さっき南地区には、もう一つ大きい菓子屋があると言うたやろ。
このもう一つの店と、高塚屋さんは小競り合いを起こしてんや。
理由は知らん、ただ仲は良くないらしいんや。
その仲悪い地区に、去年は負けたから……だから、少し口調がキツメなんやわ。
「はい、今年は巻き返しましょう」
咲裕美が言うたわ。
おいおい……あんたは作らんやろ。
咲裕美の目が、ランランと輝いとるざ。
この子、昔から競争ごと好きなんやってなあ。
「そうや、その息や! 今年は負けたらアカンざ!」
女将さん、咲裕美に触発されたか? やけに気合い入れたって。
咲裕美と女将さん、気が合いそうやわ。
ぱたぱた
ぱたぱた
奥から、足音がするわ。
ん?
誰が、くるみたいや。
「オカン、ちょっとええかあ?」
一人の若い男やあ。
オカンと呼んだ時点で、息子やとわかってもたわ。
へえーなかなかやん。
坊主頭にキリッとした目、高い鼻筋に薄い唇、この女将さんにこの息子ありやわ。
「亮、仕事中は女将さんやろ!」
激しい口調で、女将さんは息子を叱りつけたわ。
「スミマセン、女将さん、菓子の味見てくれませんか?」
息子が姿勢を正して、女将さんにお願いしとる。
菓子、作らせてくれるんか?
うらやましいって、家とは偉いちがうわ。
まあ、あんなに厳しくもないけど……
「わかったざ。今いくわ……桜井さんお二人、挨拶わかりました。がんばりましょう」
そう言うと、二人が奥に消えていったわ。
私と咲裕美は、玄関に取り残されたって。
見送りなしかぁ……まあ、ええいつもあんな感じやから。
さて、帰るざ。
……ん?
咲裕美?
ん? ん? ん?
咲裕美、固まっとるざ!
「こら、咲裕美! 帰るざ」
私が激しく咲裕美を揺さぶると、咲裕美も我に帰ったらしく、「うっ、うん! 別になんでもないんやざ!」って慌てて首をふって、急いでクルマに走り出したわ。
なんやって!
耳まで赤くして!
さて、私も帰ろう。
オカンらに、報告せなあかんな。
今年は、高塚屋が本気度高いって。
つづく
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