コント 契約更改

ジャンボ尾崎手配犯

第1話

 舞台の真ん中に鎮座する、足の短い大きなテーブル。

 テーブルの上には書類。

 そして、テーブルを挟むようにしてソファーが二つ。

 上手側のソファーには、球団社長と査定担当が座っている。

 下手側のソファーには、誰も座っていない。

 ノックの音が響く。


球団社長「どうぞ」


 岩戸が下手から登場。


岩戸「失礼します」


 下手側のソファーに腰掛ける岩戸。


査定担当「(机の上の書類を取り上げ)えーと、岩戸さんは、今期はあまり調子が良くありませんでしたね」

岩戸「後半戦は怪我であまり出られなかったですけど、その分来季の準備はばっちりやります。頑張ります」

査定担当「その怪我っていうのが、階段から落ちかけて手すりを掴んだ時に脱臼っていうものだからね。まあ、当然公傷扱いにはなりませんよ」

岩戸「いや、こっちも言わせてもらいますけどね、そもそも球団が使うホテルがぼろすぎるんですよ。僕が転んだ場所、すごいなんかぬるぬるしてましたよ。あれ、スライムでも落ちてたんじゃないですかね。それに、部屋も冷房が全然利かなくて、みんな寝てる間に熱中症になりかけてましたから。トイレも流れなかったし。多分、今でも残ってますよ、僕のウンコ」

球団社長「うちは貧乏だからしょうがないんだよ。ホテルに泊まれるだけましだと思いなさい。車中泊というアイデアもでてるんだぞ」

岩戸「車中泊って、僕らバスで寝泊まりするんですか? プロなのに?」

球団社長「そのかわり特典もあるだろう。親会社から毎月一万ゴールド支給してるじゃないか」

岩戸「それ、アプリの架空通貨でしょ。いくら、親会社がゲーム作ってるからといってもそれはないでしょ! 現金できちんと払うか、もっと環境を整えてくださいよ。二軍の練習場、シャワーもなければ、トイレも仮設トイレのままじゃないですか。大阪桐蔭のほうがよっぽど環境がいいですよ。それに寮の食事だって、ほぼ毎日うどんとカレーだから、若手から不満が出てるんですよ」

球団社長「はっきり言うとだな、3年前に球団を買い取った時に、金を全部使ってしまったんだよ。今は余計なものに回せる金は一切無い。10年計画でコストカットを図っているところだ。もちろん、年俸もコストカットの対象だ」

岩戸「僕はどうなんですか」

査定担当「かなり厳しめで査定させてもらっています」

岩戸「ずばりいくらですか」

査定担当「岩戸さんは、今年で大卒6年目。ここ数年チームのエースとして活躍していますが、球団は6年連続最下位。それに加え、今年は脱臼で途中離脱。成績は6勝8敗 防御率3.94。50パーセントダウンの3000万円ですね」

岩戸「いやいやいやいや、おかしいでしょう」

球団社長「なにがおかしいんだ。ちっともおかしくないが」

岩戸「どう考えても、下がりすぎでしょう。減額制限余裕で超えてるでしょ。それにこれまでの貢献度を考えたら現状維持でもおかしくないですよ」

球団社長「昔は昔、今は今、今は昔、ん、昔は今だ」

岩戸「それでも、50パーセントはやりすぎですって」

球団社長「われわれの辞書に不可能という文字はない」

岩戸「かっこよく言わないでくださいよ。それにね、うちの戦力じゃ、ぼくがいくら頑張っても限界がありますよ。どんだけエラーに認定されないヒットがあったことか。ちゃんと見てますか、そういうところ」

査定担当「ちゃんと岩戸さん以外の選手も下がってますから」

球団社長「あんまりわがままを言うようだと、出て行ってもらうことになるが」

岩戸「いや、正直出して欲しいですよ。つーか、出て行きますよ。減額制限超えてるから、僕が納得しなければ、自由契約になりますからね。僕の成績なら欲しいところは一杯ありますよ」

球団社長「わかった。もう少し歩み寄ろう。いくら欲しいんだ、言ってみろ! 言え! 馬鹿野郎! この銭ゲバめ!」

岩戸「なんか、僕が悪い感じになってませんか。ま、とにかく、現状維持の6000万です。他球団の同期の村田は、同じような成績で7000万もらってますけどね」

球団社長「間をとって、3050万円でどうだろう」

岩戸「全然とってないじゃないですか。めちゃくちゃそっち寄りでしょ」

球団社長「君はうちを辞めて、移籍するとさっき言ったね」

岩戸「はい」

球団社長「それはできない。なぜなら、私が全力で他球団からのオファーを潰すからだ」

岩戸「な、なんだと」

球団社長「辞めるなら、引退だ。引退か、うちに残るか。選択肢はその二つしかない。今、引退したら、君は野球界は残れないだろう」

岩戸「はったりだ! 3年前に参入したばかりの会社が、そんな力あるもんか」

球団社長「試してみるか?」

査定担当「悪いことは言いません。ここは納得してハンコを押した方が……」

岩戸「もういい、俺は出て行く。何と言われようと出て行く」


 ソファーから立ち上がる岩戸。

 舞台からはけかける。


球団社長「待て!」


 立ち止まる岩戸。


岩戸「何ですか」

球団社長「特典を2万ゴールドに増やそう」

岩戸「さようなら」

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コント 契約更改 ジャンボ尾崎手配犯 @hayasiya7

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