解けない暗号

星成和貴

第1話

 学校に着き、カバンを開けると見知らぬ封筒が入っていた。不審に思いながらも、開けてみると、


 挑戦状TYOUSENZYOU


 挑戦状?なんだ、これ?しかも、隣には可愛らしいイラストで顔が書いてある。そして、その隣には赤い文字で『143237』と。

 とりあえず、分からないが、先を読んでみよう。



 挑戦状TYOUSENZYOU

            143237


 岩を愛し、戸に矢をむける王の圧がすごかった。

 手に蝿がとまっているのを下をみてしった。

 後になり、胃が鬼のようにいたんだ。



 ………………は?

 全く意味が分からない。

 しかし、ただ一つ分かることがある。こんなことをするような人間だ。

 俺はその相手にLINEでメッセージを送った。

『あの変な手紙、何なんだよ?』

 普段なら返事はすぐに来る。しかし、しばらく待っても既読すらつかない。

 挑戦状と書いてあるし、これは暗号になっていて、それを俺に解け、ということなのか?

 はぁ、と小さく溜め息をつき、めんどくさいと思いながらも、しばらくの間、考えることにした。


 おそらく、『挑戦状』のルビと、数字はヒントのつもりなのだろう。顔も、もしかしたら、そうなのかもしれない。

 あ!数字は分からないが、他のところは分かったかもしれない!

 シャーペンを取り出し、空いているスペースにその予測を書いてみた。が、意味不明なものにしかならなかった。

 さて、どうするか、と思っていたら、友達に話しかけられ、俺はその手紙をカバンにしまった。



 放課後、カバンに教科書をしまっていると、封筒が出てきた。中を見る。

 ………………。

 朝しまったきりすっかり忘れていた意味不明な暗号だった。

 この謎は解けていない、というか、たいして考えてもいなかったが、おそらくは差出人であろう人物のいるところへと向かった。


 駅に着いてしばらくすると、目的の人物が出てきた。その人物は俺を見るなり、駆け寄ってきた。

「さすが、お兄ちゃん。わたしの作った暗号、解けたんだね」

 やはり、俺の思った通り、差出人は妹だった。

 妹は少し遠くの、はっきり言えばバカな高校に通っている。

 だから、挑戦状のルビを CHOUSENJOU でなく、 TYOUSENZYOU と書いてある時点で確信に近い形で気付いていた。

「いや、解けてないよ。ただ、あんなものをカバンに入れるのなんてお前くらいしかいないから、ここに来ただけ」

「お兄ちゃんでも解けないんだったら、もしかして、わたし、天才?ねぇ、そうだよね?」

 俺が正直に答えたら、妹は喜び始めた。

 というか、天才?俺を何だと思ってるんだ。たしかに、妹よりは頭はいい。しかし、俺もそこまで優秀なわけでもない。

「はぁ、で、この暗号、実際どういう意味なんだ?」

 溜め息をつきつつ聞くと、嬉しそうに解説を始めた。

「まず、漢字をローマ字にします。うん、漢字だけね。それで、その頭の文字を並べて、数字の文字数ごとに区切ります。すると、アイウェイトユーアットザステーション、となります」

 アイウェイトユーアットザステーション?あぁ、I wait you at the station.ね。

「いや、それ、無理だろ」

「えぇ、そんなことないよぅ。だって、ヒントとして挑戦状の上にローマ字でフリガナつけたし、隣に生首も書いたんだから!」

 あれ、生首のつもりだったのか?普通に顔にしか見えなかったんだけど……。ということは、まさか、赤い文字で書いてあった数字は血文字のつもりだったとか……?

 いや、それはさておき、その解法は俺が考えたものだった。しかし、

 岩、愛、戸、矢、王、圧、手、蝿、下、後、胃、鬼。

 この頭を取っても、iatyoathsaio にしかならない。

 俺はそれをわざわざシャーペンを出して説明をした。

「あれ?本当だ。どうして?」

「いや、俺に聞くなよ。お前が考えたんだろ」

「あ!お兄ちゃんが間違ってるんだよ!だって、これ、見てよ」

 一枚の紙を出してきた。


 岩 IWa

 愛 AI

 戸 To

 矢 Ya

 王 OU

 圧 ATu

 手 Te

 蝿 HaE

 下 SiTa

 後 ATo

 胃 I

 鬼 ONi


 と書いてあった。

 それを見て俺は何度目になるか分からない確信をした。こいつはバカだ。

 頭文字と言いながらも、何で途中の文字まで使ってんだよ!あれか?読みの仮名の頭文字なのか?そこまで分かるやつなんていねぇよ!

 てか、よく蝿とか漢字分かったな! station のスペルもだけど!どうせ、スマホで調べたんだろうけど!

 俺は心の中で文句をひたすらに言って心を落ち着かせた。

「お前は本当、天才だよ」

 もちろん、悪い意味での天才だけれど、そう言って、妹の頭を撫でた。

 妹は嬉しそうに破顔させて、

「そうだよ、わたしは天才なんだよ」

 と、自信満々に言った。

 その自信はどこから来るんだよ、と呆れていると、妹は俺の手を取って歩き始めた。

「それじゃ、行こ?」

 俺は妹に引きずられるようにその後をついていった。

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解けない暗号 星成和貴 @Hoshinari

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