世界で一番◯◯な君へ
唐井シュウ
#0 人気
「おはよう」
「ん?…ああ、おはよう」
今日も清々しい朝だ。
こうして挨拶できる友達がいるし。
…何よりも、僕には誰にでも誇れる自慢の彼女がいるんだ。
ただ、僕の彼女は、ちょっと変わった人だ。変わった人、と形容するのはひどく失礼なのだが、まあとにかく、普通ではないということだ。決して残念な子という意味ではない。
突然何を言い出すかと思えばという人もいるだろうが、まあ聞いて欲しい。
外見は、亜麻色の髪を肩くらいまで伸ばし、つぶらな瞳に潤んだ唇、華奢な身体から繊細な指先まで、枚挙にいとまがない程の美貌、美しさの持ち主で、髪型も容貌も、果ては勉強や運動に至るまで、例えば10段階評価では5とか6とか、その程度の平凡さしか持たない僕とは全く釣り合わない、完璧な女性だ。
女性とは言ったが、歳がそう離れているわけではない。普通の状態なら、やることなすこと全てにおいて優美なので、敬意を込めてそう呼んでいるだけだ。
月島桜子。
それが、僕の大好きな彼女の名前だ。
今も、ほらああやって、普段かけもしない眼鏡をかけて読書に没頭している。
遠巻きに見ている人の中にも、彼女と話しかけようとしている人はちらほら、いや相当見受けられる。
しかし、ただひたすらに読書に没頭している彼女の様子を見て、これは邪魔してはならぬとみなちゃんと遠慮しているようだ。
あんなに読み耽っているとは…、また面白い本でも読んでいるのだろうか。昨日が伊坂幸太郎の『オーデュボンの祈り』だったところから考えると、…村上春樹の『海辺のカフカ』だろうか。
彼女にはあまりこれといったこだわりのジャンルはない。
恋愛小説を読んだと思えば、次の日の朝にはSFホラー小説を読んだり、かと思えばその次の日には歴史小説を読んだりと、まあ僕は人の好みにとやかく言えるような人間ではないのだが、それでも不思議なくらい、あるいは狂気すら覚えるほどに、頻繁に読む本を変えていた。
それもまあ、学校中では美化されていたのだが。
『月島さん、また違う本読んでるぞ…』『すげえよな、何冊読むんだよ…』『ああやって教養つけてるんだよ、ほら見習えよ』『無理だっつの。あれは月島さんだからできるんだよ』『ま、そうだよな…』
『月島さんって一月に何冊読むんだろうね』『あ、それね。前なんか学年主任のクソジジイが言ってたんだけどさ、一日一冊くらいらしいよ』『え、あいつなんで知ってんの!?マジキッモ…』『ねー。どうせそういう目でしか見てないんでしょ、ああ嫌だ嫌だ』『可哀想、月島さん…』
学年主任が気持ち悪いかどうかは桜子には関係ないと思うけど…。
まあこう言っている僕も、彼女がそんな風に本を読むのをどこかで美化しているところはあった。
これは彼女にとっての当然だと。
関係ないのはわかっていても、彼女の美しさがそれに起因しているのだと。
住んでいる世界も違うような、要するに高嶺の花、みたいに。
今思えば、そんなのは彼女には本当に失礼だったなと思い出す。
—半年前、彼女の秘密を知るまでは。
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