第一章 一『瞬』の輝き PART3

 3.


「そうですね、そういった生徒を探すとなると大変ですよ。今は大学が休みですし、写真があるといっても入学時にとった写真だけなんです。大学生ですから、すぐに変わりますし。それでよければ検索させてもらいますが」


 医療大学の事務員は眼鏡を上げながらいった。男性と女性の割合は3対7で、女性が圧倒的に多い。


 秋風桃子の友人を検索するとすぐに見つかったが、意外な事実が判明した。


「その子はですね、実は今海外旅行中なんです」


 どうやら大学が主催する旅行に行っているらしい。つまり女友達が彼女を匿うことは不可能だ。


 ……ということはやはり、彼氏の方が彼女を匿っている可能性は高い。


 丁寧に写真を選抜していくと、条件に合う男が一名だけいた。連絡を入れると、どうやら大学内にいるらしい。


 しかしその生徒の姿を見た瞬間、落胆する他なかった。写真の面影はなく坊主頭になっていたからだ。


「どういった用件でしょうか?」


 生徒は面倒くさそうにベルトに手を伸ばしズボンを上げている。名は若葉榎樹わかば なつきというらしい。警察手帳をかざしても力のない目でそれを見るだけだった。


「この写真を見て欲しいのだけど、この子を知らない?」


「知りませんね。見たこともないです。その人が僕に何か関係しているのですか?」


 上手く論点をぼかして話すと、彼は趣旨を理解し次第に態度を軟化させていった。


「なるほど。この人に似ているから呼ばれたんですね。でもすいません。これは僕じゃないです。よく見ると全然顔が違うでしょ。それに髪もばっさり切ってます」


「……そうね。この大学で君と似た感じの人はいないかな?」


「いないと思います、多分。だってその写真、入学当初のものですよ。そんな髪型をずっとしてたら、ここでは浮いちゃいます。それで今は坊主にしてるんですよ」


 ……次の案を考えなければ。


 近くの椅子に座り思案する。目当ての人物がいなかったとしたら次はどこにターゲットを絞るべきか。


 職員、病人、その他の店の店員、夜の仕事……。


 様々な要因を考え、足を運んだが、結果は惨敗だった。



 ◆◆◆



 外灯がぽつぽつとつき始めた。近隣の店も当たったが全滅で、褐色肌の金髪はいるが、長髪ではない人物がほとんどだった。


 万作に連絡すると、習字教室は休みだったらしく、秋風綾梅が理由もつけずに休むことは初めてだったようだ。娘と話し合いを設けるためだろうか、それとも他の誰かと会う約束をしていたのかは未だ掴めない。


「間違いなく男の所でしょうね」


「そうね。今の所はそれしか考えられない」


 署に連絡を入れると、今日の所は交代制になるようで一時帰宅が認められた。自宅に戻り軽くシャワーを浴びた後、茶葉をお湯に浸しカップに注ぐ。


 ……母親殺しの容疑、か。


 胸の中にある冷えた記憶が心を凍らせていく。あの時の自分の行動が今でも許せず、母親への思いが青い炎のように冷えたまま再燃していく。


 ……どうしようもないことだって、わかっているのに。


 後悔しても、明日は必ずやって来る。考えまいとするうちに、心の感情はゆっくりと沈んでいき、やがて枯れていくようになった。今のままではなど、とても飲めそうにない。


 カップに口をつけ、ほっと吐息を漏らす。


 やはり自分の体にはストレートティーが一番よく馴染む――。

 

 

 翌朝、橘から連絡があり現場に向かうと、笑顔の眩しい捜査官が天下を取ったように写真立てを運んできた。何でも昨日捜査に使った写真立ての中にもう一枚隠れていたらしい。その写真を見て彼女の瞳は拡大した。


 そこには長い金髪をなびかせた褐色肌の男と秋風桃子が写っていた。 

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