第16話 まさかの忍者 その2
それでほっと安心しているとアニメを見終わった後に別方向からのツッコミが返って来る事になった。
「でもこの魔法少女は敵がいるからこうなっちゃったんでしょ?いつきに敵はいないよね?」
「そんな細かい事はいいのよもー!」
結局痛いところを突かれたいつきは逆ギレした。物理的攻撃が襲ってくる危険を感じたヴェルノはすぐに顔を手で覆う。
けれど一向に予想していた攻撃が来なかったので、彼は覆った手を元に戻して彼女の顔を見た。その時、いつきはヴェルノに言いくるめられ、少し悔しそうな顔をしているばかりだった。この反応にヴェルノはどう対応していいのか分からず、ただ彼女の顔を見つめていた。
「うーん。ずっと観察していても一向に尻尾を出さん。これが計算だとしたらばあの娘、かなりの手練れだべ」
いつき達を観察していた男はこの一連のやり取りを見ながらそう言葉を漏らした。どうやらいつきが危険人物かそうじゃないか、まだ見極められないでいるらしい。変身しない限りいつきは普通の少女に過ぎないから男がそう思ってしまうのも仕方のない話ではあった。
「それじゃあアニメも見終わったし僕は行くね」
「ん?どこに?」
「昼寝するんだよ。する事もないしさ」
アニメを見終わって、いつきの言いたかった事も理解したヴェルノは、もう用事は済んだと判断して昼寝するためにまたいつきの部屋に戻ろうとする。
その彼をいつきはひょいとつまむと、じいっと顔を見つめながら言った。
「こんなに天気がいいんだよ!外に出ようよ!」
「えー。いつきがひとりで行ってよ!」
そう、窓の外は快晴だった。この天気を見れば大抵の人は彼女でなくても外に出たいと思うだろう。
けれどその彼女の言葉をヴェルノは断っていた。彼は散歩より睡眠をご所望のようだ。
その言葉を聞いていつきは当然のように不機嫌になった。そして顔を膨らませながら強引にヴェルノを誘う。
「ひとりで散歩なんてつまんないよ。だからね、一緒に行こっ!」
「まさかとは思うけど、僕をリードとかで拘束しないよね?」
あんまり強引に誘うので、ヴェルノは念の為に心配している事柄を彼女に聞いてみる。彼は窓の外から散歩する動物をよく見ていたのだ。
自分が紐に繋がれた姿を想像して、ヴェルノは散歩を嫌がっていた。この事について、そんな事は全く意識していなかった彼女はきょとんとした顔になっていた。
「えっ?」
「またに犬が散歩しているのを見かけるんだけど、みんな紐で引っ張られてるじゃん。ああ言うのされるんだったら外には出ないよ」
ヴェルノはとぼけた返事をしたいつきに対して仕方なく嫌そうな顔をしながらその真意を話した。この彼の言葉で嫌がっている理由が分かったいつきは、クスクスと笑いながらその言葉を否定する。
「何言ってんの、べるのにそんな事する訳ないでしょ。あなたは犬でも猫でもない、魔法生物なんだから」
「でも昼間だと空を飛べないよね。歩かなきゃだ」
散歩をするとしたら自分が怪しまれないようにとヴェルノは自虐的にそう話した。この言葉を聞いて最初は意味が分からなかったいつきは彼に今自分の思っている事を吐き出した。
「え?あの催眠って効かないの?」
「あの催眠はいつきが変身してもいつきとはバレないって言うだけだよ」
そう、以前ヴェルノが施した広範囲催眠魔法は彼女の望みを汲んで施したもの。それ以外の効果は全くない。つまりヴェルノが空を飛べばそれは街往く人々にもしっかり認識されてしまう。彼自身が睡眠魔法を発動させたとしても有効範囲はやっぱり半径100m程しかなく、それより遠くの人物にはしっかり視認されてしまうし、効果は人間にしか効かないのでカメラで撮るとハッキリ映ってしまう。つまり用心するならヴェルノはここで普通に見かける動物のふりをするしかないのだ。
「あ、そっか。私だけなら昼間飛んでも問題ないんだ」
「でもいつきだとはバレないだけで魔法少女とは認識されるからね」
いつきが変に催眠魔法を誤解しないように、一応ヴェルノはもう一度説明して釘を差した。この事が分かっているのかそうでないのか、彼女はニコっと笑って彼に話しかける。
「ふーん、まぁいいわ。じゃ、一緒に歩きましょ。じゃあべるのは悪いんだけど猫のふりをしてね」
「仕方ないなぁ。それならいいよ」
紐で繋がれない事を確認した彼はようやくいつきのこの願いを聞き入れた。外に出かけるために彼女がパジャマから外行きの服に着替える間、ヴェルノは舌で自分の体をペロペロと舐めて体を清めていた。こう言う行動は本当、普通の猫と変わらなかった。
支度が終わった2人は揃って玄関を開けて外に出た。眩しい日射しを浴びて2人が目を細めると、少し冷たい風が2人を歓迎するように吹き抜けていく。新鮮な外の気配の洗礼を受けて、2人は特に目的地も決めずに適当に歩き出した。
「む、娘共は外を出歩くみたいだな。これはチャンス。少し仕掛けてやろう」
2人が外出したのを確認した男は行動を開始する。どうやらいつきの正体を確かめるために何かを始めるようだ。男の気配に全く気付いていない2人はのんびりと初夏の散歩を楽しんでいた。
青い空に白い雲、歩く早さで流れる景色は決して観光名所のような魅力はないものの、身近で暖かく気の休まる景色だった。風に揺れる野草や飛び立つ鳥達を見ながら2人はこの散歩を心から楽しんでいた。
散歩をしながら背伸びをしたいつきがそのついでに隣をトコトコ歩くヴェルノに話しかける。
「ふー、いい天気だねぇ」
「いいの?僕に話しかけても」
急に話しかけてきたいつきにヴェルノは心配の声をあげる。この世界の動物は人間と会話は出来ないはずで、会話の出来ない相手に話しかける行為は周りからおかしいと思われるんじゃないかと彼は心配したのだ。
このヴェルノの心配に対し、いつきはケロッとした顔で説明をする。
「いいのよー。ペットに話しかける飼い主なんて普通だもの」
「じゃあ僕が返事しなけりゃいいんだね。驚かれるから」
そう言えばペットに話しかける飼い主の姿を散歩の途中に何度か彼も目にしていた。つまりこちらの人にとって会話の出来ない動物に話しかけるのは何の不自然もない自然な行為なのだと彼は理解した。大事なのはこちらが話し返さなければいいって事を。
「ちょっとつまんないけど、仕方ないか。てか心で会話は出来るし」
外ではヴェルノと普通に会話が出来ない事を理解して、いつきはそれをちょっと残念に思った。何故なら家の中では普通に会話していたから。
それでもすぐにテレパシーで会話が出来るのを思い出して、会話自体は出来ると言う事でそれで満足する事にする。ヴェルノも周りに怪しまれないように彼女のと会話は気をつけて心の中で行う事にした。
「どう?この景色。魔界もこんな感じ?」
(そうだね……魔界の方が自然は豊かかも)
早速いつきが話しかけてきたので、ヴェルノは心の中で返事をした。これならば周りからはバレる事はない。他人から見れば至って普通のペットと飼い主のやり取りだ。テレパシーがうまく通じたようで彼女もすぐに反応する。
「えー、そうなの?魔界ってこの街よりもっと田舎なのかぁ」
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