見てはいけないもの

 作戦会議をした5月から7月になった今まで、あの手この手を使ってリョウタにプレッシャーをかけたつもりだった。


 しかし純度の高い天然なのか、ぬかに釘、暖簾に腕押し、全く別れる素振りどころか兄2人にも親しみを持ち始めてるようだからたちが悪い。


「兄貴、もう2ヶ月も経っちゃったけど、どうしよう?」


 駅前のショッピングモール。


 両手に持ったスカートを交互に自分に合わせて鏡とにらめっこしているヒナタを見ながら、キョウスケとアオイは少し離れたベンチに座って渋い顔をしていた。


「兄貴の作戦も効かないし、オレの作戦もダメダメ。今までにない強敵だよな」


 ヒナタがこちらを向いて「どっちのスカートが良い?」と困り顔をしている。


「赤のチェックの方がいいよ! ……って兄貴聞いてる?」


「聞いてる。確かにヒナタは赤の方が似合う」


「違うってば! スカートじゃなくてヒナの彼氏のはーなーし!」


「ああ」


「ホント、たまーにボケてんだか本気なんだか……ん? 何見てんの?」


「あれ」


 先ほどからキョウスケがずっと見ていた方向に目を向ける。


 そこには2人の頭をずっと悩ませてる元凶と、小柄な可愛い女の子が楽しげに手をつないで歩いていた。


「!! あれは───」


「お待たせっ」


 買い物を済ませて満足げに戻ってきたヒナタだったが、兄達が見ている光景を目の当たりにするとその表情から一瞬花が消えた。


「いやあの! ホラ! 友達だよきっと、友達。な? 兄貴!」


「ああ、兄妹の可能性もある」


「え゙。あ~……そうだな、よく見たら似てる気がするし兄妹かも!」


 こんな理由で誤摩化せる訳がない。


 アオイは必死にフォローしながらも最悪の事態を想定し顔を引きつらせた。


「うーん、そっか。きっとそうだね!」


 妹の顔に再び花が咲いた。


 それは強がりや偽りでもなさそうで、思わず本当に納得したのか再確認してしまったがどうやら本心らしい。


「だって私とお兄ちゃんが手をつないでもおかしくないし、お兄ちゃん達が女の人と腕を組んで歩いてるの何度も見たけどそれもお友達って言ってたでしょう?」


 兄弟それぞれ過去に恋人ではない女性と歩いていた時に、後ろめたさからとっさに言い訳したのが揃って〝友達〟だった。


 恋人と嘘はつきたくないし、かといって「彼女とは身体だけの関係です」なんて本当のことを言えるわけがない。


「そう、だったね」


「…………」


「話しかけた方がいいかなぁ?」


「いや! 今はやめておいた方がいいんじゃないかな。オレお腹すいたし!」


「そっか。じゃあ何か食べに行こ。私もお腹すいちゃった」


 兄達も拍子抜けするほどだったが、今はその純粋すぎる純粋さとプラス思考に救われた気がした。


 3人でレストラン街に向かおうという時、キョウスケがアオイに目配せする。


 それを合図にして、適当な理由をつけ2人から離れたアオイは真実を突き止めるべく足を走らせた。



 一旦2人と別れ、偶然を装ってリョウタと女の子に追いついたアオイは極力自然にこれはどういうことなのか、この子は誰なのかを問いただした。


 残念ながら兄妹ではなく友達らしい。


 自分を棚に上げてなんだが、ただの友達とは普通手は繋がないだろう。

 しかし当のリョウタは慌てる様子もなく、後ろめたさの欠片もない。



 この現状は明らかに彼にとって不利なはずなのに、逆に自分の方が間違っているのかと考えてしまうほどリョウタは普通だった。


 ヒナタの話を持ち出すと「この子がそれでもいいからデートしようって」との答え。


 そのあと彼女に満面の笑顔を向け「可愛いし、楽しいかなって思ったから」と続いた時には目眩がした。

 いったい何が悪いのと言わんばかりのキラキラした瞳を向けられれば為す術もない。


 想定外の反応に今は的確な判断ができないと考え、アオイは一度身を引くことにしその場を後にした。



 ◆◇◆◇


 一連のあらましを説明し終えた頃には、キョウスケの額には絵に描いたような青筋が立っていた。


「善くも悪くも好奇心旺盛な年頃だし、いろんなこととかいろんな子に気持ちが向くのもわかるよ。まあただ単に可愛い子が好きな浮気者かもしれないけど」


「…………」


「ヒナのことも好きっていうより可愛いってだけで付き合ってる可能性もあるだろうね」


 しばらく思案していたキョウスケが口を開く。


「……こうなったら」


「こうなったら?」


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