一章

成る程→ダンジョンを示す魔石

 「【黙示録の業火メギド・フレイム】ッ!!」


 ガキンッと硬質な音を響かせて、俺の一太刀は跳ね返された。


 「GARURU………」


 世に言う、ヒグマって奴だ。俺は今、それのそっくりさんと対峙している。


 「くっ、効かねえか」


 否。対峙では聞こえが良すぎる。正しくは『襲われている』だろう。攻撃が当たれば俺の勝ちなのだろうが、そんなのは到底無理なこった。

 結局、今日もまた、逃げ出すしかない訳で。


 「あばよっ!!」


 超スピードで脱兎の如き後ろ走りを披露した。


 □■□■□■


 俺が何を引いたのかは、分かっていない。ただ『魔法使いに転生記』ってのは違うみたいだ。その証拠として、俺の足元には薄汚い木片が転がっている。


 「それにしても、カナタ。おぬしはどうやって稼いでおりゅのじゃ?」


 改名したての我が名を呼んだのは、一応女神のメレディス。メレディス・ヴァン・ビューレンなんてカッコいいフルネームをお持ちの、9才ロリっ娘だ。


 「おい、今更紹介なんて要らぬ。下らない主人公ぶりを見せるのは止めて、我の質問に答えりょ、カナタ・アトリ」

 「おい、最後のフルネーム呼びはなんだ」


 実を言うと、【転生】してから3日しか経っていない。つまるところ、メレディスとの同棲も3日になるのだ。今朝はサンベアーから逃げただけなので、大した稼ぎは得られなかったが、昼食を食い繋ぐ金はあった。

 隠す必要もなさそうだったし、メレディスには真実を述べておこう。隠したって、心を読まれちゃあ意味もねえしな。


 「なんかさ、石ころを買ってくれる人がいんだよ。森のそこら中にあるヤツ」

 「ほぅ……おぬし、もうそこまで行っておったか」


 何故か感心した様子で頷くメレディス。

 清潔感のある浅葱色あさぎいろのショートカットは微塵も揺れなかったが、それよりも濃い青の瞳は細められていた。

 蘊蓄うんちくを語る様に指を張り、


 「それは魔石の欠片じゃよ、カナタ」

 「魔石って……あの宝石みてえなのが?」


 よく解らないといった顔をした俺を見やり、ふふんと笑ったメレディスは、少し誇らしげに説明した。


 「この世界には、一定数のダンジョンがある」


 一旦、何かに気付いた様に言葉を区切ったが、続けてくれと促した。


 「我が提示した2と3には沢山のダンジョンがありゅ、しかし、そこにおぬしが行くかどうかはまだ解らないんじゃ――ああいう選び方をしたかりゃの。

  選択が『俺のひのき棒がエンチャント済み』云々うんぬんじゃったら、危険なダンジョンに潜る必要はにゃいじゃろう。はっきりしない上での説明を省くと、各ダンジョンの奥地にあるにょが最大の魔石で、おぬしが売ってるものの近くにそれがありゅのじゃ」


 燃料として使われておりゅ、と補足したメレディスは一息吐いて、俺に念を押す。張った指を一本まで減らして。


 「今は危険じゃ、いずれ選択の導きによって行くかもしれんが、ダンジョンには手を出しゅにゃよ」


 その後、20分ほど説明を受け、長めの昼食も同時に終わった。

 要するにさあ――


 「ダンジョンに行けば、メレディスこいつに何かしてやれるんだよな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る