人間関係の不協和音は脳内に鳴り響く

魔桜

1

01✕コスプレをしている彼女を見続ける

「ねぇ……しよう……?」

 付き合っている彼女の声は熱を帯びている。

 上目遣いに見つめてくる彼女の睫毛は長くて、縁取る瞳は大きい。

 プリンのようにプルプルとした唇は薄くて、そこをどうしようもなく注視してしまう。

 真っ暗な個室で、彼女に誘われて断ることができる男子がいるのだろうか。

「あっ……ンっ、んんんんっ」

 激しく口づけされた彼女は苦しそうに、声をくぐもらせる。

 だが、どうしもうなく艶っぽいその声色は、歓喜させ滲む。

 きっと、興奮しているからだろう。

 第三者がいつ介入するか分からない、大学の空き教室。

 いけないと分かりつつもやってしまうという背徳感が、胸を高鳴らせていくのだろう。

 彼女が歩けば、誰もが振り返る。

 整い過ぎている容姿。

 胸もありながら、スタイルもいい。

 本当に、モデルかなにかをやっていてもいいほどの彼女。

 実際、ファッション雑誌に載ったこともある。

 そんな彼女は、今、高校の制服を着こんでいる。

「いやっ、ちょ……もっ――んっ!」

 長机に押し倒され、制服を脱がされそうになる。

 流石に彼女も抗議しようとするが、そんなものは一瞬。

 服越しに激しく胸を触られた彼女は、恍惚とした表情で身を委ねる。

 リボンを緩め、皺だらけになりそうだが、服は全て脱がさない。

 どうしてだろうか。

 興奮するからだろうか。

 俺にはよく分からない。

 彼女がコスプレしたことは一度や二度ではないかのように、抵抗というものが全くない。

 むしろ、積極的に腕を背中に回している。

 彼女とは高校時代からの関係。

 やはり、昔のことを思い出しながら、舌と舌を絡めあわせるのはプレイの一種なのだろう。

「はぁ、はぁ、くっ」

 彼女とは、最近あまり喋らなくなった。

 それなのに、唾液を交換し合っている姿を見るのは辛い。

 どうして、今なのだろうか。

 どうして、もっと前に。

 俺の前で嬉しい顔をしてくれなったのか。

 どうしてだろう。

 何故か、今の彼女が発情した雌犬にしか見えない。

「ああ……」

 つい、口が滑る。

 もう、こんなことはして欲しくなかった。

 ビクン、と彼女の動きが止まってしまう。

 きっと、彼女は幸せだったはずだ。

 俺が口出しせずに、彼女が一生懸命身体を動かしていれば、きっと、もっと、もっと彼女の綺麗な姿を見られた。

 なのに、どうしても耐えられなかった。

 彼女が幸せな姿を見続けることは、きっと俺が不幸になるってことだから。

 だから俺は彼氏失格だ。

 そんなことを想ってしまう奴は、もう彼女と一生会わない方がいい。

 そう思っていたはずだ。

 この時は。

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