第2話 出会い 其の一

八木邸の奥の間に通されると、浪士組に応募してきた男6~7人が座っている。真純は緊張した面持ちで、目立たぬよう隅の方に腰を下ろした。前に座っている4人は顔なじみらしく雑談しているが、真純に目を向けた一人が声をかける。

「おいお前、そんな格好をしてるとは異人か?」

 真純は自分の服をまじまじとみる。ショートの髪型、Tシャツとフード付薄いカーディガンにジーンズのいでたち。色も彼らの着物に比べずっと派手な白や黄色が混じっている。これじゃぁ、怪しまれても仕方ない。

「いえ、日本人です…一応。」

 真純は、か細い声で答える。

「それで武士といえるのかね。」

「それは―」

 その時、浪士組のリーダー格3人が部屋に入って来て部屋の空気が一変する。その中で体格ががっちりして、ごつい顔をした人が挨拶する。

「私が壬生浪士組局長の近藤勇だ。諸君、浪士募集によくかけつけてくれた。」

 真純は驚きの声を抑えるのに必死だった。

「こ、近藤勇!?」

 リーダー3人の挨拶など耳に入って来ない真純は、歴史上の人物が目の前にいて興奮を抑えられない。

「さっき見た、壬生塚の近藤さんの銅像よりずっといい人そうだなぁ。で、隣の人が土方歳三!?昔はあんなに髪が長かったんだ…。」

 真純が小声で独り言を言っていると、

「おい、そこのあんた!」

 威厳のある細身の美男子が真純をにらむ。この男が土方歳三だ。

「自己紹介をお願いします。」

 柔らかい口調で教えてくれたのが、もう一人のリーダー、山南敬助だ。

「綾部真純です。東京・・・じゃなくて、江戸の出身です。」

「江戸からわざわざ来てくれるとは、非常にありがたい。だが、君はなぜそんな奇妙な格好をしているんだね。」

 と、近藤が尋ねると、他の浪士達がクスクス笑う。

「あ、その…それは・・・川で水浴びしていたら・・・追いはぎにあってしまい、服を持って行かれてしまいまして・・・。それで、たまたま通りかかった異人さんに頼んで、服を譲ってもらいました。」

「女子ならまだしも、男ならそんな異人の服着るより、裸で来いやぁ」

 前に座る一人の浪士のからかいに、他の浪士が同調して笑う。

「男!?真純って名前の最後に「み」がついてるんだから、女だって分からないかなぁ…あ、近藤さんも勇だ。」

 真純の独り言を無視して、土方が言う。

「いいか。新撰組の隊士になった者は、生まれや育ち・・・着る物に関係なく、武士として扱う。」

 着る物と言った時、土方は一瞬真純をにらんだ。

(この私が新撰組の隊士!?面白くなってきた!!でも、ここは男のふりをしてたほうがよさそう。女だってばれたら、新撰組から追い出されそうだし。)

 その後、浪士組における隊規の説明があり、面談は終了した。土方は、島田という隊士を呼び、新入り隊士を前川邸の屯所に案内するよう指示している。前川邸は、坊城通りをはさんで八木邸の斜め向かいにある新撰組のもう1つの屯所である。

「お前はちょっと待て。」

 他の浪士に付いて出て行こうとする真純はビクッと立ち止まる。土方が真純の前に立ちはだかる。

「何をそんな大事そうに抱えている。」

「トートバッグと…刀です。」

「とおと?」

「あ、ただの袋です。刀は、さっき買ったばかりで…。」

 土方は真純に対して、上から下まで舐めるように視線を這わせる。真純は素性がばれると観念した。

「剣術の経験はどれくらいだ。」

「いえ、その…まったく…。」

「ほぉ…それで浪士組に応募してくるとは、いい度胸だな。」

 そこへさっき会ったイケメン侍が入ってくる。

「土方さん、その人も採用したんだ。」

「なんだ総司、お前の知り合いか。」

「そーじ!?」

 真純は総司と聞いて、喚声を上げてしまう。

「あの…あなたは沖田総司さんですか?」

「そうだよ。僕の名前、よく知ってるね。」

 新撰組のことはほとんど知らなかった真純でも、病弱の美青年剣士と言われた沖田のことは聞いたことがある。

「何?僕の顔に何か付いてる?」

気が付けば沖田の顔をまじまじと見ていた。

「あ、いえ…すみません。」

「お前、着る物に関係なく武士として扱うとは言ったが、さすがにその格好では面倒なことになる。あとで八木さんから代わりに着る物を借りて届けさせるから、それを着ろ。」

 真純は、一礼して島田達のあとを追う。

「これから面白くなりそうですね、土方さん。」

沖田が子供っぽく話しかけるが、土方は真純の後姿を見送りながら、考え込んでいた。

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