d j vu
真冬の心地いい冷気がわたしの頬っぺたをきゅっと引っ張る。
空を仰ぐと、上空から柔らかな綿毛の様な白い雪が、ふわふわふわふわと舞い降りて来た。
最初の一粒を手袋の甲ですくい受ける。
繊細で美しい雪の結晶が張りつくと、やがて儚く溶けて消え失せた。
このまま積もるかな?積もるといいな。
足取り軽やかにわたしは学校へ向かった。
学校から帰る頃には、既に陽は落ち、あたりはすっかり濃紺に沈んでいた。
朝からしんしん降り続いていた初雪も、放課後までに止んでしまった。
ちぇッつまんないの。
おかげで気温だけはぐっと冷えこんで、無防備な首の後ろがスースーする。
去年買った毛糸のマフラーはどこにしまいこんだっけ?
ふと考えこんだ時に目に止まった。
淡雪が深くこんもりと降り積もった足跡一つない空き地だ。
わー!いただき!!
記念すべき第一歩を今ここに刻もう。
サクサクサクサク。歯切れのいい足音が新雪を刻む。
一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍である。
―アメリカ人宇宙飛行士アポロ11号船長 ニール・アームストロング―
真ん中までたどり着いた頃には、すっかり機嫌を取り戻していた。
うんうん満足満足。
くるりと回り右をすると、足跡がかぶらない様にもと来た道をとって返した。
また新しい朝が来た。
冬の心地いい冷気が頬を叩く。
ん?これってデジャヴ?
わたしは空を仰ぎ見た。
凍えそうな寒空が広がっている。
マンションの廊下から眼下を見下ろすと、隣の空き地に足跡が点々と続いている。
階段を飛び段で駆け下りると、そのままの勢いで空き地まで走っていく。
昨日までの柔らかな新雪がカチンカチンに凍りつき、わたしの足跡はその場に保存したかの様にくっきりと遺されていた。
うふふ。記念すべき人類の一歩ね。
なんだか誇らしい気分になって、いつもよりも気持ちいいわたしの朝が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます