第121話 神々の戦い その3

 その不気味な笑みに意表を突かれて動けないでいると、何かに気付いた龍炎がここで大声を上げて、私に向かって忠告する。


「しおりさん、彼は本体じゃない!」


「えっ!」


「もう遅いですよ……」


 異界神はそう言うとすうっと姿を消していく。この現象を見た私はここで全てを悟った。説教とかで時間稼ぎをしておいて、あいつの本体はとくに地球に向かって跳躍していたんだ。

 私はすぐに地球に向かって空間跳躍をする。どうかまだ間に合いますようにと願いながら――。



「な、何だアレ!」


 その頃、地球の天文台関係者が突然現れた異形の存在に腰を抜かしていた。宇宙空間に現れた神々しいまでの光を放つ生身の人間体の存在は科学の常識を軽々とひっくり返し、関係各所は混乱に次ぐ混乱の様子を見せている。


 科学者が理解の追いつかない状況に右往左往する中、こうなる事を予見していた存在は落ち着いて状況を受け入れていた。


「来ましたか……」


「あれが、異界の神……」


 ハンター組織の長と、天神院家の当主は空の異変を目にしてほぼ同時に口を開く。地球に現出した異界神は早速私達の母星に向けて、神様らしく全人類の頭の中に直接メッセージを伝えた。


「地球に住む皆さん、あなた方の罪を精算する時が来ました」


 突然現れた謎の存在に直接テレパスで訳の分からない事を宣言されて素直に受け入れられる人がいるはずもなく、当然のように世界中は大混乱に落ちいってしまう。


「な、何だ?」

「何かのイベント?」

「審判の時が訪れたのだ!」

「おい、あれ見ろって!」

「嘘だろ、何だあれ」


 この異常事態に各国の首脳陣もすぐに行動を開始する。どの国も安全保障において情報収集と共に対処を考え始めるものの、やはりここでも一番動きが早かったのは世界の警察を自認する例の大国だった。

 専用機で国防機関に姿を表した大統領は専用の司令室に足を踏み入れると、すぐにスタッフに指示を飛ばす。


「これは一体どう言う事だ!」


「まだ何もかも分かりません。ただ、アレが友好的な存在ではない事だけははっきりしています」


「今は議論を尽くしている時間はない、すぐにミサイルを……」


 大統領は決断が早い。すぐにスタッフに指示を出したものの、返ってきた答えは彼を失望させるものだった。


「ダメです、全く反応しません」


「ミサイルが撃てないだと!そんなバカな!」


 そう、ミサイルを発射させる装置が全くの無反応だったのだ。その原因はさっぱり不明。どこかに不具合があるのか外部から細工されたのか。この地球側の混乱を異界神は薄ら笑いを浮かべながら眺めていた。


「抵抗は無駄です。安らかに終りを迎えなさい。あなた方はこの宇宙を穢しすぎた」


 異界の神が母星に裁きの鉄槌を下そうとしたそのタイミングで、私は時空跳躍を使って戻ってきた。良かった、間に合ったよ。

 私はすぐに異界神の行動を止めようと全力で向かっていく。


「待てーっ!」


「ほう、よく気付きましたね。あなたはそこで見ていなさい。故郷の最期を」


 早速その行為を止めようとした私だったけど、異界神のその一言で体が硬直してしまう。見えない鎖が自分の体を縛り付けているみたいに身動きが全く取れなくなってしまったのだ。


「ぐ……体が……なんで……」


 折角至近距離にいるのにその行為を止められないまま、私は異界神の行為を見ている事しか出来なかった。すうっと地球に向かって手を伸ばした異界の神は、神らしく光のエネルギーを我が母星に向かって流星雨のように降り注がせ始める。

 その行為を見た私の目が、私の中の光の神が予想衝突エネルギーを瞬時に計算した。その結果、ひとつひとつのそのエネルギーですら巨大隕石の衝突レベルの破壊力を持っている事が判明する。


 こんなのが全部地表に落下したら核の冬どころじゃないよ。恐竜が絶滅した時のアレがまた繰り返されちゃうよ!

 そう思った私が絶望していると、降り注がれたエネルギーは謎の壁によって全てが弾き返された。この現象を目にした異界神は感心した表情を見せる。


「ほう!私の力を防ぐとは!」


 私はこの状況に一瞬唖然としたものの、すぐにこれがハンターや使徒達が頑張った結果だと察しがついた。この日のために準備していたと言うアレだ。

 こうして異界神の鼻を明かせたと言う事で、私はふんぞり返って当然のように鼻息を荒くする。


「と、当然じゃない……こっちだってしっかり準備したって言ったでしょ」


「これはこれは……実に興味深い。ここまでの抵抗は私の宇宙でも見られなかった」


 異界神は軽く手を叩いて地球側の抵抗に敬意を評した。とは言え、その行為はどこかわざとらしい。まるで私達の抵抗を小馬鹿にしているかのよう。

 それを証明するかのように次の瞬間には真顔に変わり、低い声で重くつぶやいた。


「……とは言え、これもただの時間稼ぎでしかないですがね」


 そう言った異界神はもう一度地球に向かって今度は両手をかざすと、今度は本気で圧力をかけ始める。そのエネルギーはさっきの攻撃とは比較にならないほどの高レベルだった。

 当然、その攻撃を受け流す地上の使徒達の負担も限りなくキツイものとなる。


 この防御結界、基本的には使徒の持つサイキックな力でエネルギーを分散させる仕組みになっている。

 けれど、想定されていたパワーを遥かに上回っていたために、早くも現場の負担は限界に近いものとなってしまった。


「ぐおおおおおーっ」


 使徒達のサポートをしているハンター支部ではリーダーの潮見龍樹が各地の使徒とハンターの連合軍の地球防衛メンバーと密に連絡を取り合っていた。


「どれくらい持ちそうですか?」


「これは……想定以上に負荷が強すぎる、このままじゃ……頑張っても2時間持つかどうか」


「それは参りましたね。遠征組に何とか頑張ってもらうしか……」


 龍樹は不穏な気配を見せる上空を眺め、肉眼では見えない私達に希望を見出している。人間側の軍隊が全く手も足も出せない以上、地球側から異界神に攻撃の出来る手段は何ひとつ持ち合わせてはいない。地球防衛メンバーは防衛に特化しているのだ。


 地上で使徒達が頑張っているって言うのに、このまま無様に拘束されている場合じゃないね。私はここで気合を入れて、この見えない鎖を打ち破った。


「ふんぬぅーっ!」


「おや、縛りが弱かったですかな?」


 状況の変化に気付いた異界神は、またしても余裕の態度をみせながらゆっくりと振り返り、身動き出来るようになった私を舐めるように眺めている。今からその余裕に満ちた顔を歪ませてやんよ!

 ここで支部での修行を思い出した私は、静かに両手を合わせると、自分の中にある複数の意識を丁寧にシンクロさせていく。


「我の力と……」


「私の力と……」


「光の意志とが……」


「「「今、ひとつに!」」」


 光と闇と人の意識がここで完全に同調し、私達は異界神と変わらない魂のステージへと上昇する。菩薩顔となった私を見た異界神はそれでもまだ余裕の態度を全く崩そうとはしなかった。


「ほう?少しは素敵になったようですね?」


「私の母星への攻撃を今すぐ止めなさい。でないと」


「でないと、なんですか?」


 挑発するようなその質問に私は毅然とした態度でハッキリと言い放つ。


「あなたをぶっ飛ばします!」


「へぇ?」

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