第116話 臨界を超えて その4
私が光のサナギの中で闇神様とシンクロしている頃、使徒達の戦いは激化の一途を辿っていた。今のところは闇の力を無限に摂取出来る使徒の方が有利ではあったけれど、いつこの状況が覆されるかは分からない。そんな中で無双状態の有己はすっかり調子を取り戻して声を張り上げる。
「雑魚共め、一昨日来やがれ!」
神器の力で無数の敵を一斉に屠りながら、それでも敵の勢いは全く衰えを見せない。敵からの攻撃も激化していき、必ずしも使徒側が完全に有利と言う訳でもなくなってきた。やはり数の力と言うのはあなどれない。
「くうっ!」
「龍炎!」
無数に飛び交う敵のエネルギー攻撃に龍炎が傷を受けてしまった。彼の負傷に有己が近寄ろうとする。その動きに気付いた彼が近付こうとする有己を手を伸ばして止めた。
「敵から意識をそらさないでください!まだまだ来ます!」
油断をするとすぐに無数の攻撃が使徒達に降り注ぐこの状況の中では、常に攻撃を避けて攻撃を繰り出していかないといけない。そのせいで負傷した仲間を助けたくても助けられない。思い通りに動けない事に有己は不満を訴える。
「クソがっ!」
無限に続くような攻防の中で襲いかかる敵の様子を違和感を感じ始めた有己は、攻撃を繰り出し続けながらつぶやいた。
「こいつら……ただの雑魚じゃねぇぞ!」
「そりゃそうだろ……なにせ本気でこの次元を狙ってるんだ」
その言葉に芳樹が返事を返す。無数の攻撃をかいくぐりながら、有己はいつもの猪突猛進キャラとは違う言葉を口にする。
「せめて指揮系統が分かれば戦い方もあるんだけど……」
「とにかく今は襲い来る敵共を倒すだけだ!」
逆にいつも冷静なはずの芳樹が普段の有己っぽい勢い任せのような台詞を喋っていた。敵の数があまりに多すぎて細かい事を考える余裕がまったくなかったのだ。3人の使徒はそれぞれ必死に自分達に課せられた役割を全うしていた。
いつ終わるとも知れない戦いの中で、闇の力を充満させた私の体はサナギから人の体へと変容していく。そうして蒸発してから久しぶりに口を開いた。
「あ……分かった……」
「しおりっ?」
私が目覚めた事にいち早く気付いたのはやはり一番の腐れ縁の有己だった。次にそれに気付いた龍炎が彼に声をかける。
「まだです、まだ途中。有己はしおりさんを守ってください!」
「わ、分かった!」
すぐにその言葉に従って有己が私のもとに向かおうとするものの、敵の攻撃が激しくて中々それが実行出来ずにいた。私の方はと言うと、まだ体が完全に固定化されていないと言うのもあって、敵の攻撃は素通りしている。ま、何故か認識すらされていないようで、私に向かってくる攻撃は殆どないんだけど。
有己が中々近付けないのを見かねた龍炎は手にした神器を躊躇なく自分の体に突き立てた。
「神器完全開放!
直接神器に闇の力を流れ込ませる事で強制的に神器の力を最大限に開放させる事によって発動する完全開放。こうした放たれた巨大な闇の翼の形を持ったエネルギーの塊は襲ってくる数千の敵をひとつ残らず消し去っていく。そのあまりにも強大な力の蹂躙に有己も思わず言葉を失った。
「一掃かよ……」
「ぐふうっ!」
神器の力を最大限に引き出した龍炎は技を出し切った後に神器を体から引き抜く。そうして力を使い果たした彼は血を吐き出した。その衰弱っぷりに焦った有己が近付く。
「龍炎っ!」
「私に構わないでくださいっ!」
弱った龍炎に触ろうとした有己は逆に叱責されてしまう。その熱のこもった言葉の圧に流石の有己もつい後ずさる。それはまだこの戦いが終わっていない事を意味していた。緊張感を持って次に訪れる事態に対処しろと、そう言う事なのだろう。
一方、雑魚を一層して静かになった次元の扉の奥では底知れないプレッシャーが迫ってきていた。
この気配に気付いた有己も流石に無言で構えを取る。龍炎は両手を左右に広げ、宇宙に偏在する闇の力を補充していた。
やがてその強大なプレッシャーの正体がゆっくりと使徒達の前に姿を表した。この最終局面を前に使徒最強の芳樹が冷や汗を垂らしながら口を開く。
「本命が来たか?」
「さてさて、余興は楽しんでもらえたかな?」
そう言いながら現れたのはこの事態を引き起こした元凶の異界神だ。正確には上位神族と言うらしい。見た目は神様らしくとてもゴージャスで漂うオーラも半端ない。体の大きさは使徒達に合わせたのか2メートル50センチくらいだ。まばゆき輝くシンプルな服装はさすがは神様と言うところだろう。そうしてその体つきは当然のようにギリシア彫刻のような人類の理想体型。
世界を征服する神様と言うと邪神めいたものを想像するかも知れないけれど、目の前の神様はどう見ても正統派の神様っぽい。多分正しい理由でこの世界を支配しようとしているんだ。
見た目はどうであれ、目の前の存在はこの世界の次元のほころびを好機と捉えた侵略神。私達はこの厄介な神様の野望をあきらめてもらうために今まで頑張ってきた。
けれど当の神様は全く帰ってくれそうな気配を見せてはくれない。今すぐにでもこの世界を手中に収めようと言う雰囲気だ。
この時点で倒すべき大ボスが現れるのは計算外だったようで、流石の芳樹も表情が歪む。
「くそっ、こっちはまだだってのに……」
「ふふ、座標は掴んだぞ?」
この世界に現れたばかりの異界神は使徒たちの前に姿を見せた時点でもう何かを察したらしい。その言葉を聞いた芳樹はすぐにその真意を読み取って表情を絶望の色に染める。
「な、何……だと?」
「水際で防ごうとしたのだろうが、無駄だったな」
異界神はそう言うと意味ありげに右手を上げる。何かを仕掛ける気だ!すぐにその先の未来を先読みした芳樹が対抗策として別の神器に力を込めた。
「神器開放!無限回廊!」
彼の放った神器攻撃によって異界神の体がブラックホールに吸い込まれていく。呆気なく技にかかった神様は完全に闇の中に飲まれて姿を消した。使徒達は芳樹の攻撃の成功を見届けてホッとため息を吐き出した。
けれど安心したのも束の間、ブラックホールに吸い込まれたはずの異界神はホログラムのようにその体を浮かび上がらせる。
「無駄だよ。私はどこにでも在りて在る」
「無限回廊が突破されるだなんて……」
「あれで時間稼ぎにすらならないのかよ」
芳樹のとっておきの攻撃がほぼ無意味だった事に、その動向を見守っていた龍炎と有己がそれぞれに反応する。別の空間に飛ばしたところで効果がないと分かり、使徒3人は目の前の相手に戦慄を覚えた。
「君達に敬意を評して、個別に相手をしてやろう」
異界神はそう言うと同じ姿の分身を2体出現させる。そうしてそれぞれの使徒の前に瞬間移動した。突然宿敵が目前に現れた事に使徒達も驚きを隠せない。
「うわっ!」
「くうっ!」
「そう来たかよ……」
有己と龍炎が素で感情をあらわにする中、ひとり芳樹だけがこの行動すら読んでいたのか冷静に反応する。
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