第98話 封印の真実 その4

 追い返しても追い返してもやってくる侵入者とのバトルに眷属達も段々と疲弊してきて――。


「終わりのない戦いの中、ある日、侵入者のボスが現れます。けれど、彼は壁に遮られそこから入る事は出来ませんでした……」


 次元に亀裂を作り、この世界に侵入しようと企んでいた存在がついに神様の前に現れたものの、しっかり壁を作っていたのでボスの侵入は防がれたと。これで話が済めばめでたしめでたしなものの、そうでもなかったみたい。


 困ったボスは話し合いをしようと神様に呼びかけた。何を話したかと言うと、今までに侵入してきた兵士達を引っ込めるから平和的に話合いをしようというもの。ひっきりなしにやってくる侵入者達にずっと悩まされ続けてきた神様は、その話に乗ってボスでもやってこられるように壁に細工をした。


「そうして扉を作り彼を迎え入れます。しかしそれは案の定罠だったのです」


「やっぱり!」


 私が思った通り、ボスは話し合いをすると言う体でこちらの世界に入る口実を作り、扉が開いたと同時に総攻撃を仕掛けてきたようだ。そこで仕方なく神様もその勢力に立ち向かうために武器を取った。こうして世界を守る戦いがここに本格的に始まってしまう。


「ずっと終わらない果てしのない戦いの中、お互いが消耗してきていました。そこで光の神と闇の神は協力して総攻撃をかける事となります……」


 その戦いは熾烈を極め、両陣営に大きな被害をもたらし……徐々に戦いは終局に向かう事となった。そうして最終決戦のその時――。


「こちら側は光の神を失うと言う大きな犠牲を払って、ついには異次元からの侵入者を何とか追い払う事に成功したのです」


「おおう……そんな歴史が……」


 私は聖光の話す神話に感心していた。光の神がその権利を代行者に譲ったのはこの戦いのせいだったんだ。きっとすごい戦いだったんだろうなぁ。

 私がその戦いを頭の中で想像していると、彼はこの話の続きを口にする。えっ?ここで終わりじゃないの?


「この戦いの後、次元の扉はしっかりと閉じられます。これでもう向こう側から侵入者がやってくる事は出来ません。そう、その時はそう思っていたのです」


「えっ?」


 急に話が不穏な方向に転がり始め、私は緊張で鼓動が早くなり始めていた。

 でも考えてみたら当然だ。ここでめでたしめでたしで話が終わるなら、私達はきっとこんな冒険をする羽目になってはいない。真剣な顔の彼は少し淋しそうな顔をしながら話を続ける。


「何事にも完璧はありません。それが神々の仕事と言えども、相手が同じレベルであるならば……」


 侵入者のボスも向こうの世界では神的な存在、いや、実際に向こうの世界の神様なのだとか。その神様はこっちの世界にやってくる事を全然諦めていないみたいで、後もう少しでまた総攻撃を仕掛けてくる――どうやらそう言う事らしい。うわあ、テンプレだ。世界を救う系の話の典型的なヤツだ。

 私、こんな壮大な話に巻き込まれてたの?ヤバイ、全然実感が沸かない。


 全てを話し終えると、聖光はスッキリした顔になって私に向かって微笑みかけた。


「これで、神話の昔の話は理解して頂けましたか?」


「えっと、つまり……。そのボスが復活してまた襲ってくるから、今度は私達で何とかしろと?」


「はい」


 あっさりと、まるで近所の買い物をお願いするみたいな軽さで聖光は私に、いや、私達に無理難題を押し付ける。多分光の神の代行者側も何らかのお手伝いはしてくれるのだろうけれども。彼の話しぶりから察するに、何やら私達がメインで戦わないといけない雰囲気だ。

 この急転直下の展開に私は待ったをかける。


「で、でも待ってよ!その時だって光と闇が協力して何とか追い払えたんでしょ?今同じだけの戦力がある?」


「確かに相手の戦力は未知数です。だからこそ我々も備えてきました」


 どうやら光側はこの時のために色々動いていたらしい。そんな事言われたって、私達が矢面に立てとか寝耳に水なんですけど。そもそもそれ前提で動いていた訳じゃないし。私なんて、勝手に闇神様が宿ったんでそれをどうにかして欲しかったのがそもそもの動機だし。

 大体、私達って考えてみたらそんなに強くもないんだった。そうだ、これを理由にしよう!戦力にならないなら考え直してくれるかも!


「いや、だって私達って、ラボの実験体にも手も足も出なかったんだよ?」


「それは、しおりさんがまだ本来の役割を思い出せていなかったからですよ」


 私の作戦は彼には全く通じなかった。

 でもそれはあの戦いの事を知って断言しているのだろうか?クアルにコテンパンにされたあの状況、私が覚醒していればあれがひっくり返せていたと?

 私は聖光の言葉が全く信じられなくて、必死に追求する。


「じゃあ私が本気を出せばあいつらに勝てていたって言うの?」


「はい」


「いや、流石にそれはないわぁ……」


 私は迷いなく断言する彼の言葉を信じる事が出来なかった。あの場に立っていた者ならおそらく全員がそう言う感想を持つだろう。

 もし私にそんな特別な力が眠っていたとしても、クアルの攻撃に抗えるほどの力が眠っているだなんてとても思えない。


「あのラボの博士達は異次元の勢力に惑わされていたのです。だからこそ闇神様の力に目をつけた。全ては自分達がこの世界に満ちるために」


「それ、本当ですかあ?」


「ええ、しかし彼らは功を焦って自滅してしまったのです」


 聖光はラボの顛末まで知っているようだった。一体どこの情報筋から情報を仕入れたんだろう。それももそれが光の代行者の特権とでも言うのだろうか?

 私がこの言葉を信じきれずに頭を捻り続けていると、向かい合った彼の方からすっと手を私の前に差し出されてドキッとする。


「しおりさん、あなたは自分が何者かを知らないといけない。何故その身に闇神様が宿れたかを」


「それって私の血筋……とか?」


「それもありますが、血統よりは霊統と言うものですね。目覚めれば自然に思い出せます」


 二転三転していた話がここでようやく振り出しに戻る。そうだ、時間がないんだった。時間がないのを何とかするために私はここに呼ばれたと、これまでの段取りから言うとそう言う事らしいけど……。

 私は改めてこの事について質問する。


「で、その自然に思い出す時間はもうないんでしたよね?」


「はい。ですので、私が儀式であなたの閉じられた霊道を開きます」


 ああ、成る程、ここまで話が進んでようやく私は納得する。それでポンと手を叩いていると、ここで有己が茶々を入れてきた。


「言っとくけど、拒否権なんてねーぞ」


「わ、分かってるよっ!」


「では」


 私が有己と下らない会話をしていると、突然聖光が音もなくすっと立ち上がる。どうやらこれからその儀式とやらに向かうっぽい。何やらすごい事が私の身に起こりそうで、緊張感はどんどん高まっていく。

 私も彼に習って取り敢えず立ち上がると、さっきからずっと気になっている事を口にした。


「あのっ!時間がないって後どのくらい……」


「最近の星の動きから見て、大体残り数週間と言ったところでしょうか」


「あ、あはは……マジすか」


 残り時間の意外なほどの短さに私は苦笑いをする。その時間の根拠がどこにあるのか詳しく聞きたい気もしたけど、そうすればより一層追い詰められる気がしてとても聞けなかった。

 なので今度は儀式についての質問へと話を切り替える。

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